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高野秀行 Hideyuki Takano
"納豆"の謎を追って韓国へ、西アフリカへ
エクストリームな辺境への旅を続けてきた高野さん。前作『謎のアジア納豆』で、納豆の地図をアジアへと広げ、その奥深い世界を知らしめたのは記憶に新しい。
「僕にとっての納豆はただの食品ではなく、運命的な食品なんです。納豆は辺境食。だから僕の行く先には納豆がある(笑)。だったら突き詰めなくては、と」
『幻のアフリカ納豆を追え!』はその続編。お隣の韓国と、遠く西アフリカで納豆を取材した。
「『謎のアジア納豆』で残された謎が、朝鮮半島のチョングッチャンとアフリカ納豆でした。納豆は日本独自の伝統食品だとみんな思っていますけど、お隣の韓国にもあるなら日本独自はおかしいし、韓国からも異論が出そうですよね。ところがそんな話はない。なぜだ? アフリカの納豆は大豆を使わないという。どうやって作るのか。そもそもそれは納豆か? その謎を解きたかったんです」
納豆が存在する西アフリカは、高野さんにとっても未知だった。
「昔からあこがれていたんですが、行ったことがなくて。まさか納豆を探しに行くとは(笑)。日本から遠いのであまり知られていませんが、すごく豊かな食文化があるんですよ。大した予備知識もないまま行ったんですが、納豆を通して見ると、いろいろなものが見えてきて発見が多かったですね」
バオバブの実で作るバオバブ納豆の取材では、ブルキナファソの村で、プチ王様のようなシェフ(村長)と「謁見」したことも。
「納豆取材で行かなかったら、プチ王様みたいな存在にも気づかなかったでしょうね。そもそも村になんか行かなかっただろうし」
海外旅行は身近なものになったが、世界遺産を巡っておしまいというありきたりな旅になりかねない。高野さんのようにテーマを持てば、ぐっと面白くなる。
「テーマが変わっていれば変わっているほど、人とは違うものが見えてきます。納豆は本当にいいテーマでした。地元の人にとって身近な食べ物なので、納豆をめざしていくとその人たちの近くに行ける。よそ行きじゃない本音の部分に踏み込める。意図していたわけじゃないんですけどね」
日本でも納豆は家で食べることが多い。地味な食材ではある。
「納豆をインスタに上げる人なんていないじゃないですか(笑)。それでポジションがわかりますよね。でも、そういう存在って、土地の精霊みたいなものですよ。土地の人には当たり前だけど、よそ者には見えないものなんです」
納豆=精霊説という発想は高野さんならでは。高野さんの本はどれもが読みやすく、しかも読み始めたら止まらなくなるほど面白いのだ。文章表現で気をつけていることはあるのだろうか。
「僕が行く所って、日本で暮らしている人にはなじみのない所ばかりなんですよ。そういう場所の話をどうやって身近に思えるようにするかが、書くうえでの大きな課題なんです。遠い所で遠い人たちがやっていることだと思われたらその文章は失敗。面白く楽しく、ついつい読んでしまうくらいじゃないと、遠い国の込み入った状況は説明できないんです。そのために、ありとあらゆる手練手管を駆使しています」
『幻のアフリカ納豆を追え!』では、納豆紀行に始まり、ついには人類にとって納豆とは何か? という大テーマに迫る。遠くアフリカまで納豆を追い続けた高野さんの、粘り強さが導き出した結論をぜひ読んでほしい。
『幻のアフリカ納豆を追え!
―そして現れた〈サピエンス納豆〉―』
高野秀行
¥1,900/新潮社
PROFILE
1966年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。『謎の独立国家ソマリランド』で第35回講談社ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『アヘン王国潜入記』『ミャンマーの柳生一族』『西南シルクロードは密林に消える』『未来国家ブータン』ほか。
Photo:Kaoru Yamada
Interview & Text:Kenji Takazawa
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