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今月は、夏に合わせて『君の名前で僕を呼んで』。公開当初(18年)から周りでメチャクチャ話題になっていて、俳優の友人たちからも、「すっごくよかったよ」と聞いていました。色んなシーンの感想を聞いた記憶があって、断片や作品のイメージは知っていましたが、ようやく昨年の暮れ頃にちゃんと観ました。そうしたら、やっぱり、すごくよかったです!!
『君の名前で僕を呼んで』
DVD&Blu-ray好評発売中
DVD:4290円(税込)/Blu-ray:5280円(税込)
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C)Frenesy , La Cinefacture
光に満ちた、短いひと夏を描いた作品の世界観が隅々まで美しい
何がいいって、とにかく映画の世界観! 北イタリアの避暑地が舞台で、景色も美しいし、時間の流れ、みんな薄着でくつろいでいて。そんな人々の後ろ姿や空間を撮っているような、余白の多い映画で、その世界に入り込んでいく、浸れるような感覚になるんです。映像自体、本当に美しい。夏の間、こんな避暑地の別荘で過ごす夢みたいな暮らし、僕もしてみたいです(笑)。
そして、勧めてくれた友人みんなに言われていたのが、「すごい俳優がいるよ!」ということ。公開当時はまだ、ティモシー・シャラメという俳優を知らなかったんです。でも、本当にスゴかった……。今やハリウッドの大スターですよね。そんな彼が扮しているのが、大学教授の父と翻訳家の母と避暑地にやって来て過ごす17歳のエリオ。そこへ父の助手としてアメリカから、大学院生オリバーがやって来ます。
最初、エリオとオリバーは、初対面の男同士の“お前、何やねん!?”的な感じで(笑)、少しぎくしゃくしているんです。それぞれが地元の女の子とも親しくして、“いい感じ”にもなったりするんだけど、海から彫像を一緒に引き上げるあたりから、「停戦だね」と握手して、2人で色んな時間を過ごして惹かれ合っていく。最初に“おっと!?”という感じが生まれるのは、冒頭のみんなでバレーボールをしていた時の、さりげなく肩甲骨を触るシーン。そういうカットを、ごく自然な感じで入れて、記憶に残る瞬間が積み重ねられていく、作り方の上手さも感じました。
儚い恋を彩る北イタリアの太陽
エリオとオリバーが自転車で町の広場に行って、戦争記念の像みたいな前で煙草を吸うシーンも、とても印象に残っています。オリバーが煙草を吸いながら店から出て来て、エリオに“吸う?” と聞いて火を点ける、ふと触れた瞬間や、距離の近さが記憶に積っていくんです。しかも、広~い画の真ん中に2人が居て、距離の近さを感じる、すごくいいカットだなぁ、と。そこからカメラがずっと動いていくのですが、その画の作り方がとても贅沢で、味わい深くて、“これぞ映画だな、いいな”と思いました。
背景は1983年。迷わず付き合ってしまえばいいのに、そうできない恋愛の儚さがとても切なかったです。エリオの家に、男性同士のカップルの客人も来るのだけど、周囲からは“変人”扱いされていて。彼らのように、“僕たちはこうして生きています”とキッパリ出せる人と、そうできない人がいて、そこが肝心なところでもあるんだな、と。とにかく観ている間中、ものすごく色んなことを考え、感じていました。
切なさに“持っていかれる”結末
終盤、エリオがアメリカに帰ったオリバーから電話を受け、暖炉の前で泣いているシーンは、とても心に残っています。それまで登場人物の誰かに共感して観ていたわけではなかったのですが、ティモシーの演技もあって、暖炉のシーンは急に感情が持っていかれました。
その時のエリオの両親――特にお父さんの言葉や態度に惹かれました。“そういう人間になりたいな”と思わされるくらい、本当にステキな家族なんです。傷ついたエリオに掛ける言葉、態度、そのタイミングなど、もう完璧ですね。色んなことを知っている、知識人のお父さんの言葉は、とても勉強になりました。
例えば人から恋愛相談を受けた時に、選択肢は別れるか否かの2つしかなかったとしても、そして別れても生活は変わらないのだとしても、その間にある色々なことを言ってあげられる人になりたいな、と思って。それがまさにエリオのお父さんでした。
“本を読む人って秘密めいている”
エリオが親密になった女の子から言われる「本を読む人って秘密めいている。正体を隠している感じ」っていうセリフもすごくよかったです。エリオは「君は(正体を)隠してるの?」と聞き返すのですが、なんとなく分かるなぁ、と。彼女は、エリオがオリバーに惹かれていることに気付いていて、気持ちを確かめるために言ったのかもしれませんが、本作には、他にも魅力的なセリフや言葉がたくさんありました。僕もエリオのお父さんのようになるために、最近、色んな本を読んでいます。
才能?計算?細やかさに圧倒されるティモシー・シャラメの演技
友人から「スゴイ俳優がいる」と聞かされていた通り、ティモシー・シャラメは素晴らし過ぎました!! 劇中何度も登場する、ピアノを弾くシーンもすごくよかった。オリバーに「この曲をアレンジしてみて、バッハ風に」と言われて弾くシーンは、楽器を通して通じ合っている2人の感じがステキで、エロスを感じましたね。そういうシーンもすごいし、翻訳家の母親と英語、フランス語、イタリア語で話すシーンも、とっても自然。本当に多才。その上で、この世界観でリアルに生きている感がする。簡単に出来ることじゃないな、と思いました。
例えば歩き方も、シーンによって違う感じがするんです。女友達との約束に遅れて急いでいるシーンでは、すごくガニ股でヤンキーっぽい、ヤンチャ気質が出ていたりして、意外な可愛らしさが見えていいな、と思いました。そういう表現が、すごく細やか。もし全て計算してやっているのなら、天才過ぎて、僕が俳優やっていていいのかとも思っちゃうし、逆に何も考えずに自然に出ているものだとしたら、それもまたスゴすぎて嫌になる(笑)。
細やかな表現と言って思い出すのが、エリオがオリバーと初めて重なり合うシーンの、足のカット。エリオの足が、ほんの少しずつ少しずつ、もう、じれったくなるくらいに近づいていくんです。少しずつ気持ちが高まっていく様が、そういう表現にも表れていて、とにかく細かくてスゴイ。それにティモシー、本当に美しい顔をしていて、何をしても似合う!
ティモシーの私服も少しストリート寄りのファッションが多くて、ものすごくオシャレなんですよね。レッドカーペットに登場するときも、スタイリストを付けていないそうなんです。セットアップも何のアクセサリーを合わせるかも、すべて自分が考えて、各デザイナーやブランドに自分で直接連絡するそう。それもすごい才能だし、ファッションで我が道を行くのもカッコいい。彼のお芝居にも、そういう彼自身のカルチャーがにじみ出ている気がするんです。それが俳優としての個性にもなっていて、すごく魅力的だと思います。
かけがえのない思春期の夏の美しさ
エリオの鮮烈過ぎる初恋の行方には悲しくもなりますが、本当に映画のよさが詰まった作品です。エリオと同じ17歳の高校生のとき、僕も淡い初恋をしました。好きな人がいると、世界ってそれまでと違って見えますよね。急に世界が輝き出すというか。だから、すごくいい思い出です。ひと夏の経験を描いた映画って、どうしてこんなに魅力的なんでしょうね。愛しくて、心を揺さぶられて。是非、この映画を観て、今年の夏休みを楽しみにして、そうして、いい夏を過ごしてくださいね!
劇中、エリオとオリバーがよく自転車に乗って出かけるんです。それがもう気持ちよくて。僕も中高とずっと自転車通学で、夏休みも部活に自転車で通っていたのを思い出しました。夏の田舎道を、自転車で川の横の坂を下っていくときの、風が涼しい気持ちよさ。劇中に出てくる、この時代の自転車は、特にシンプルで形も可愛いんです。車とは違う移動手段、徒歩よりも長距離を移動できるし、自転車だから入れる道もある。感じられる風、音、空気、光。とっても夏休み感もあって、この映画を観ながら改めて自転車っていいなぁ、と思いました。真剣に今、自転車を買うかどうか迷っています(笑)。
『君の名前で僕を呼んで』(2017)
1983年、夏の北イタリアの避暑地。毎年、両親と別荘で過ごす17歳の男子高校生エリオ(ティモシー・シャラメ)が、アメリカからやってきた24歳の大学院生オリバー(アーミー・ハマー)と知り合い、惹かれ合うが――。アンドレ・アシマンの同名小説を、『胸騒ぎのシチリア』のルカ・グァダニーノ監督が映画化。17年米アカデミー賞に作品賞や主演男優賞(ティモシー・シャラメ)を含む5部門にノミネート、見事、名匠ジェームズ・アイヴォリーが脚色賞を受賞した。
最近、レコードで音楽を聴きたくて、ハリー・スタイルズ、レイ・チャールズ、ノラ・ジョーンズの円盤を衝動買い。その後、ついにレコードプレイヤーを手に入れてようやく聴けました! 音楽コーナー用の棚も届いて、着々と沼にハマりつつあります(笑)。部屋の趣味の一角がだんだん完成してきました。レコードは、本当にいい感じ。針を落とす瞬間、曲と曲の合間の時間、聴き始めるまでに少し時間がかかるのも、またよくて。頑張って作った隙間時間を、これからはレコードを聴く時間に充てていこうと思っていて、すごく楽しみなんです!!
Text:Chizuko Orita
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