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ゾクゾクする映像にズシンと重い現実を残す話題のテレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』。エンタメ性とともに、社会への問題提起を行う名ディレクターに、その方法論を聞く。
ヤバいドキュメンタリーは
こう作る!
上出遼平さん
1989年生まれ、東京都出身。2011年、テレビ東京に入社。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、ロケ、撮影、編集まで番組制作の全過程を担う。
『ハイパーハードボイルドグルメリポート』
テレビ東京系列で2017年から不定期特番として放送。世界各地の危険な場所や危険な仕事をして生きる人たちの元へディレクターが赴いて密着取材し、彼らがどんな食事をしているのかを伝えている。2021年からSpotifyで音声版も配信中。JAPAN PODCAST AWARDS大賞を受賞。
直接的な質問でしか見られない
表情がある
――「ヤバいヤツらのヤバい飯」を追った番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』はどのように始まった企画なのでしょう。
よく海外ロケに行って辺鄙(へんぴ)な場所に住む日本人の暮らしを追いかけてたんですけど、その土地とか現地の人を追いかけるほうがよっぽど面白いだろうなと思っていたんです。印象的だったのが、スラム街といわれる場所で、住民たちの笑顔を見たことでした。それまで僕は、上下水道もないようなところで暮らす人たちが、どんな瞬間に幸せを感じるかなんて想像もつかなかった。でも、ゴミで作ったボールを蹴りながら遊ぶ子どもたちが日本の街中でも見られないような美しい笑みを浮かべていて、ここにも幸せがあるんだなと思ったんです。日本人が考える幸せな暮らしって、お金があって流行りの服を着られて…みたいに固定されていて、それは主にテレビが見せてきたものだと思う。じゃあそれとは違う形の幸せを問いかけてみたいなと思って走りだした企画です。
――なぜ「グルメ番組」にしたのでしょう?
簡単には足を運べないような場所へ行って映像を撮ってきたいという気持ちがあったんですが、それを淡々とテレビで放送するだけでは、興味を持つ人が限られます。誰も観ないドキュメンタリー番組を作っても意味がない。僕はもともとバラエティの人間でもあるので、「多くの人に観てもらうため」のパッケージングとして、グルメに焦点を当てました。これが想定していた以上に意味があって。1発目のロケで出会ったラフテーというリベリア共和国の元少女兵に「今日の飯を見せてもらえませんか」と尋ねたら、「3時間後に仕事に行くよ」と言われて、ついて行くと、娼婦としての一面を見せてくれたんです。その日暮らしの生活者だと、飯を見せることがお金を稼ぐ姿を見せることにつながる。飯によってその人の生き方まで見えてくるというのは驚きでした。
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