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混乱と制限が続く社会で、多くの人が抱く「僕らの人生、どうなるんだ？」という問い。だが、人生のレールは１本じゃない！ それを体現する先輩にロングインタビュー。20代を振り返りながら、試練、悩み、不安を乗り越える極意を聞いた。
料理研究家
コウケンテツさん
Profile
こう・けんてつ●1974年７月14日生まれ、大阪府出身。旬の素材を生かした手軽な家庭料理を提案し、テレビや雑誌、講演会など多方面で活躍。30か国以上を旅して世界の家庭料理を学ぶ。YouTube公式チャンネル「Koh Kentetsu Kitchen」で秘伝のレシピを公開中。
20代、人生最大の挫折と不運が同時に訪れました
「人の想いと結果は、必ずしも表裏一体じゃないんですよね」
コウケンテツ氏は、プロのテニス選手になる夢を諦めたときのことをそう振り返る。中学で夢中になり、専念するために高校を中退。思うように成長できぬまま19歳でヘルニアを患い、あっさり夢破れる。
「夢を失い、学歴もない。ハタチ前後は、まさに絶望のどん底にいました。引きこもりのような日々を支えてくれたのが家族。反対を振り切って高校中退した僕を責めることも、特別扱いすることもなく、自然に接してくれて。心底、救われましたね。読書家の兄からすすめられた本を読むことが、心のケアにもつながりました。なかでも影響を受けたのが『マルコムＸ自伝』。マルコムの激動の人生は、きっと誰もが刺激と勇気をもらえるはずです。21歳で治療を終え、いざ人生の再スタートを切ろうと意気込んだとき……今度は実家の家業に危機が訪れた。同時期に父が友人の借金を肩代わりしてしまい、一家総出で労働に明け暮れる日々が始まりました」
３年ほどで状況が落ち着くと、近所でも料理上手と評判だった母が、料理家としての活動をスタート。その手伝いをするうち、アシスタント業務を担うようになる。
「テニスをしていたときから自分で栄養バランスを学んだり、体力向上メニューを作ったりしていたので、料理は得意でした。アシスタントとアルバイトを兼業して５年ほどたった、30歳のとき。母の担当編集者から、一緒に男の料理連載をやってみないか？ と声をかけていただいたんです。無名どころかアシスタントですから、大抜てきもいいところ。夢なんじゃないかと思いました。ドキドキしながら迎えた撮影当日は、彼の部下の女性が手伝いに来てくれて。その後、彼女から『料理家として活動するなら東京に住んだほうがいいよ』とすすめられたんです。借金が残っていて引っ越す余裕はなかったけれど、彼女が全面的にサポートしてくれました。仕事の相談にも乗ってくれた彼女は現在、僕の奥さんなんですよ（照）」
自分では開けない道もあります。
他人の言葉に耳を傾けてみて。
“闘病生活と労働の記憶しかない”20代を経て映画さながらの奇跡を体験。そこで得た学びをこう語る。
「あくまでテニスのために学んだ料理でしたが、自分でも驚くほど上達していったんです。テニスはいくら練習しても成長できなかったのに！ 自分のやりたいことと才能があることは、一致するわけじゃない。そして、それは他人が一番客観的に見えているんだ、と身をもって学びました。挫折するまでは、自分の道は自分で切り開かなきゃいけないと信じていたんですよ。思いどおりにならなければならないほど頑固になって、誰の助言にも耳を貸さず……結果的に、夢や友達など様々なものを失いました。その経験から、人の意見はきちんと聞こうと心を改めた途端、人生はどんどん明るくなっていったんです。家族はもちろん、僕を発掘してくださった編集者、妻……改めて僕は人に恵まれているな、と感謝の気持ちでいっぱい。人に支えられてばかりの僕ができるアドバイスは、ひとつだけ。誰かが自分のために発してくれる言葉は、誠心誠意を持って聞いてほしい。たとえそのときは的外れに感じても、いつか自分の助けになる日がきっと来るはずです」
Photos:Takahiro Idenoshita Composition & Text:Ayano Nakanishi
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