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3月20日に自身初の著書『俺しかいない』を上梓した堂安律。あの劇的なカタールW杯を経て、日本代表の若き至宝がいま何を考え、どう未来を見据えているのか。その真意に迫った。
「エゴではなく純粋に、
日本サッカーを背負って立ちたい」
「この本は成功者として出す本じゃない。挑戦者として出す本です。だから、成功体験は書かれていません」
そう本の帯にも記されたとおり、プロサッカー選手・堂安律の初著書は従来のアスリートの自叙伝とはちょっと趣が異なる。昨年のカタールW杯でドイツとスペイン相手に劇的な同点ゴールをたたき込むなど今や日本代表の中心として絶大な存在感を発揮している堂安だが、実はキャリアの大半において人知れず挫折や葛藤と泥くさくしてきた。『俺しかいない』には、それらに関する様々なエピソードがすがすがしいほどの本音でられている。
「よくエリートだとか、壁に当たることなく過ごしてきたふうに思われがちですが、自分からすると全く順風満帆ではないし、むしろ挫折だらけのサッカー人生。自分でもあらためて読み返してみて、我ながら面白い人生を歩んでいるなぁと思いました」
本の根幹をなすのは、4年以上続く週刊プレイボーイの連載コラム「堂安律の最深部」でこれまで発信されてきた彼の偽りのない言葉の数々だ。
「連載を始めた当初から、タイトルのとおり自分の奥底から湧き出てくる思いをストレートに伝えようと、何かを計算して語るのではなくその時々の感情をすべて正直に吐き出してきました。ファンにもアンチにも、ありのままの堂安律を知ってもらいたくて」
真正直であるがゆえビッグマウスと評されることもしばしば。しかし雑音は意に介さない。アスリートとして自分の思いをまっすぐ“言語化”することを何より大切にしているから彼の言葉には人間味やリアリティが宿っているし、本書からもサッカーというスポーツの奥深さがじわりと伝わってくる。
「実は海外でプレーするようになってから、ひとりの時間がすごく増えたこともあって、日々の自問自答を頭の中で整理しながら自分の言葉としてアウトプットする作業により意義を感じています。その過程で『あのとき俺はこう感じていたんだな』と自分をして捉えることができますし、またそれが自分というサッカー選手を見つめなおす機会にもなっているんですよ」
そして今回の本を通して堂安律が世の中に最も伝えたかったこと。それが日本サッカーを背負って立つ“覚悟”。W杯を経て、あらためて芽生えたというその思いについても真意を尋ねた。
「いい選手って、得点するだけではなく、立ち居振る舞いも含めてチームに特別な刺激を与える選手。とくに日本がこの先W杯のベスト8以上を本気でめざすためには、それこそメッシのような突き抜けたリーダーが必要だし、できれば自分がその存在になりたい。以前はそれがエゴからくる感情でしたが、今は日本サッカーが新しい景色を見るために俺がやらなきゃいけないという責任感がそういう思いにさせています。だからこそ、今はチャンピオンズリーグ優勝という日本人ではまだ誰も達成していない夢の実現をより強い気持ちで追い求めていきたいですね」
最後に、メンズノンノ読者に向けて本書の読みどころを…とリクエストしてみた。すると、やはり彼らしいウイットに富んだ答えが返ってきた。
「僕もみんなと同じように日々悩み抜いている。だから苦しんでいるのは自分だけじゃない、そして壁を乗り越えた先にすばらしい光景が待っているっていうことを知ってもらいたい。受験に就職、何でもいいんです。自分の境遇に重ね合わせながら『何だか知らないけど堂安も頑張ってるらしいから俺も頑張ろう』って思ってもらえたらうれしいですね。逆に読んで響かなかったら『堂安、全然ダメじゃん』って言ってくれてもいいので! むしろそっちの意見も聞きたいぐらいです(笑)」
『俺しかいない』
2018年から続く週刊プレイボーイの連載コラム「堂安律の最深部」を加筆修正し、書き下ろし原稿も加えた堂安律初の著書。幾多の逆境、W杯の舞台裏、日本サッカーを背負って立つ覚悟などを飾りのない本音で綴る。発売中。¥1,650/集英社
Profile
1998年、兵庫県尼崎市生まれ。ガンバ大阪でプロデビュー。その後FCフローニンゲン、PSVアイントホーフェン(ともにオランダ)、期限付き移籍したビーレフェルト(ドイツ)、そして再びPSVを経て今季よりドイツ・ブンデスリーガのSCフライブルクでプレー。カタールW杯では背番号8を背負い、2得点の活躍で日本のベスト16進出に大きく貢献。
Photos:HIRO KIMURA Hair & Make-up:Ken Yoshimura Stylist:Yosuke Matsushita Composition & Text:Kai Tokuhara
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