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鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.39/伝説の写真家のドキュメンタリーが教えてくれる“大切なもの”。『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』

鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.39/伝説の写真家のドキュメンタリーが教えてくれる“大切なもの”。『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』

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鈴鹿央士 連載 鈴鹿央士の偏愛映画喫茶 
発表

 

 以前、僕が海外で撮った写真を見た友人に「なんかソール・ライターっぽいね」って言われたんです。その時はソール・ライターの写真は有名なもの1、2点しか知らなかったのですが、そのあと気になって彼の写真集を探したりしていました。それで先日、カメラマンの佐内正史さんの個展が本屋さんで開催されて、久しぶりに会いに行ったんです。そしたらその本屋さんに、この『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』のDVDが置いてあって、観たら“染みるぁ……”と。静かでとてもいい映画でした。

    

鈴鹿央士 おすすめ 映画
映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』DVD

『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』DVD:¥4,180(税込) 発売元:テレビマンユニオン販売元:ポニーキャニオン (C)2013 Tomas Leach Films Ltd.

ニューヨークの日常的な街角を
カラーフィルムで捉えた
先駆的フォトグラファー

 初めて彼の写真に触れたのは、雨の窓外に黄色いタクシーと赤い傘が映っている「赤い傘」(1955)だったと思いますが、どの写真も切り取り方が面白いんです。じっくり見ると、直線的なものと曲線的なものが絶妙に入っていて。

例えば写真のフレームは直線ですが、その中に丸い傘が弧をなして映っている。赤やピンクの傘の鮮やさ、雪景色の白い世界に映り込んだ赤などが目にポンと入って来て、色の力強さみたいなものを感じさせるんです。モノクロフィルムが主流だった時代、カラーフィルムを好んだ彼は“カラーフィルムの先駆者”と言われ、それを広めていった人なんだな、と改めて思いました。

ソール・ライターの写真作品「Don't Walk」
“Don’t Walk, 1952” ⒸSaul Leiter Foundation / Courtesy Howard Greenberg Gallery

「セルフポートレート」というタイトルの写真群があるのですが、彼自身はカメラを構えているから顔がほとんど見えないし、喋っている姿も見たことがなかったので、このドキュメンタリー映画で、“ソール・ライターってこんな人なのか。こんな風に喋るのか”と、とても興味深かったです。彼がインタビューを受けた2010~11年頃には、こういうお爺ちゃん(87~88歳)になっていたんだとか、とてもゆっくり単語を並べて喋る人なんだなと、“人間”を見ている面白さもありました。

映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』場面写真1

劇中、何度も「なぜ自分の映画なんか撮るんだ!?」とか「止めて欲しい」とか言うんですよ(笑)。ちょっと皮肉っぽい口調だけど、よく笑うし、なんか面白い。そんなことを言いながら結構、若いイギリス人監督トーマス・リーチさんや、この映画のことを考えてくれていて、実はすごく優しい。きっとリーチさんのことも好きなんでしょうね。だから、あれだけ素直に話してくれるんだろうな、と感じました。

    

若い映画監督が回すカメラに見せる
自然な姿に、
謙虚で柔軟な人柄がにじむ

 映画は13に章立てしてあって、ソール・ライターという人の考えや人生観、性格などを理解することを促してくれます。僕がもともと彼や彼の写真が好きだから面白く観られた側面もあるだろうけれど、彼を知らない人が観ても十分に共感できると思います。僕は彼をすごく謙虚な人だと思ったし、要所要所ですごくいいことを言っているんです。

 ゆっくり喋り始めながら途中で止めて言い直したり、きっと頭の中で考えたり整理したりしながら喋っているんだろうな。その言葉選びも、いいなぁと感じたポイントでした。特にステキだと思ったのは、手に取る一つ一つの写真や思い出のモノを細かいことまでちゃんと覚えていること。散らかった部屋をアシスタントの手を借りて片付けているのですが、その合間にも手に取ったものを、「これはイギリスの古い建物の写真集で、何セントで買った」とか説明してくれるんです。

映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』場面写真2
Photo by Margit Erb

 撮った写真1枚1枚にちゃんと記憶があるんだな、身近なものすべてに思いが残っているんだな、本当にいいお爺ちゃんだな、と。例えば亡き最愛の女性ソームズが集めていた古い包装紙や紙袋も、「これは彼女が特に気に入っていた」とカメラに語りながら、捨てるのかと思ったらまた戻す(笑)。それがメッチャ面白かったですね。「肝心なのは何を手に入れるかじゃない。何を捨てるかだ」とか、すっごく深いコトを言ってる一方で、片付けはまったく進まなくて(笑)。


    

無秩序の中に大切に遺された
「人生で本当に必要なモノ」

 そういう思い出のものたちをすごく大切に思っているのと同時に、モノに対する執着みたいなものはないんですよね。金銭的な価値ではなく、“それに対する思い”で価値を決めているところが素敵だなって。その価値観が日々の生活のいろんなところに通じるな、と感じました。

だから彼が語る「無秩序の中の心地よさ」って、僕も感じたりするんですよね。ライターの部屋の散らかった感じを見ると、僕の中で色々繋がることがあります。

 本作は、「急がない人生で見つけた13のこと」と副題がついていますが(原題は『In No Great Hurry:13 Lessons in Life with Saul Leiter』)、彼自身「急ぐ理由が見つからない」と語っています。一時は「ヴォーグ」「ハーバーズ バザー」など商業ファッション誌で活躍していましたが、ある時からそれらを止めてしまう。その結果、アーティストとして世界的に認められたのは晩年近くになってしまい、リーチ監督も思わず「それで出遅れたんですね」と発言してしまうんです(笑)。でも、それに対してライターは「それで十分だ、急ぐ必要はない」と返すんです。

   

映像の隅々に現れたリスペクトが
「心の内側」のあふれる瞬間を捉える

 ライターがパートナーだった女性のことを「わが友ソームズは…」と語るので、僕は最初ソームズさんって単なる親しい友人かと思っていたんです。でも、そんな言い方も素敵だなと思ったし、話してる姿もいいんです。「ソームズが揺り椅子に座り音楽を聴いているのを眺めるのが好きだった」と語っている姿を見て「いいなぁ。いつか僕もそんなことが言える人になりたいな」と思いました。急がずに生きることを、2人は共に実践していたんだなと感じられて。

 でもその直後、不意に感情が漏れる瞬間があります。普通に思い出を話していただけだったのに、亡きソームズさんに対して、心の奥にずっとしまっていたもの、人には言えなかった思いが急に込み上げて吐露してしまう。その姿を捉えることによって、この映画はグッと深みが増した気がしました。前半はソール・ライターの外側、世間に見せる姿や写真家としてのレガシー的なものが映っていたけれど、章が進むにしたがって、どんどん内側に向かっていって、亡きソームズさんのことを話しているうちに、心の内がつい……。

 その瞬間を捉えられたのは、リーチ監督のライターに対するリスペクトがあってこそかな、と思いました。だって、この監督、相当ソール・ライターのことが好きですよね。映像の撮り方自体、どこかライターの写真に似ているんですよ。ライターは「僕が好きな写真は、片隅で何か“謎”が起きている写真だ」と語る。ライターの写真はまさにそうなんですが、この映画も同じような構図で切り取られているんです。

隙間から覗いていたり、対象物が建物などに切り取られた狭い空間にあったり、何かの向こう側にいる人を撮ったり。インタビューの合間に挿入される映像――街の風景、傘、向かいの建物、ガラスに反射した景色なども、ライターが撮る写真の画角で映されていると感じました。それも含めて本作は、すごく計算されて作られた、よく出来たドキュメンタリー作品だなと思います。

映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』場面写真3
“Postman, 1952” ⒸSaul Leiter Foundation / Courtesy Howard Greenberg Gallery

 ドキュメンタリーって、その人と仲良くなった感覚になれる。フィクションを見る第三者的な視点ではなく、撮っている監督の目線で僕らもライターの人生を垣間見てる感覚になるというか。しかも至近距離で彼を撮っているので、心の距離もかなり近づいた感じがします。


   

「幸せ」「大切なもの」とは・・・?
考えるための新しい視点をくれる作品

 「幸福の追求」という最後の章は、だいぶ心に来ましたね。彼は美しいものを追い続け、それをよしとするけれど、彼のお父さんやお兄さんは考えが違う。学者だったお父さんは「もし優しさが知識や偉大さの追求を邪魔するなら、優しさなど捨ててしまえ」という考え。その言葉はだいぶ厳しいけど、ある種、僕は希望を持てとソール・ライターに言われた気がしました。だって彼自身、優しさを捨てずに生きてきたから。捨てなくても人生を築いていける人であって欲しいと、逆に気づきを与えてくれる言葉でもありました。

 僕もめっちゃ考えました。自分はどういう時に幸せを感じるんだろう、とか。例えば今、僕は役作りのために減量していて、夜は炭水化物を摂れないんです。だから朝ご飯を食べる瞬間、すっごい幸せで。おにぎりを食べながら「そうそう、これこれ~」って(笑)。でも、その幸福感って減量を始める前はなかったわけで、つまり自分の生活が変わったり新しい視点が入ったりしないと、気づかない幸せもあるのかな、ということに気づきました。本作はそういう“ちょっとした幸せ”をはじめ、新しい視点で見えてくるものを教えてくれます。

    

おじいちゃんの言葉からしか
得られない「栄養素」を
吸っています(笑)

 以前この連載で、『あなた、その川を渡らないで』というドキュメンタリー映画を紹介しましたが、多分おじいちゃんおばあちゃんの言葉って、なにかそこでしか得られない“栄養素”みたいなものがあるんです。だから僕は時々、こういうドキュメンタリーを観て、“お年寄りの言葉の深みを味わいたい”欲求を満たすとともに、栄養素を摂取しているのかもしれない。

本作を観ると、自分が美しいと思えるものは何だろう、自分が幸せと感じることって何だろうと考えさせられながら、新しい視点が見つかるかもしれません!

映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』場面写真4

    

ソール・ライターの散らかった無秩序な部屋の様子、僕はアリだと思います(笑)! どことなく居心地が良さそうで、ただの汚い部屋とはワケが違う。(写真の)ネガがどこにあるかは分からないけれど(笑)、彼はそこにある一つ一つを“どこでどんな風に手に入れたか”は分かっている。それが素敵で。もしも思い出が詰まっていたら、やっぱ捨てられないよな、と。僕の部屋も割と無秩序なんです。本やカメラや服、レコードを聴く時もジャケットは床に落ちっぱなし。でも僕にとっては、それが心地いい。
 僕のお父さんはエンジニアで、2部屋くらい車やバイクのパーツで埋めていて、お母さんはそれを嫌がっていて(笑)。でもお母さんもお母さんで、ソファーがたとえ空いていても絶対に端っこに座りたい「端っこ族」なんです。僕は母の「端っ子族」と、父の「無秩序の心地よさ」を両方、受け継いでいるんですね(笑)。だから部屋が散らかっていようと綺麗であろうと、絶対に真ん中ではなく端っこにいるので関係ないんです。
 部屋の状態って、その人の精神状態を表すので「よし、片付けよう!」と整理整頓できれば、自がちゃんとしてるという確認にもなるらしいんです。だから僕は散らかすことを自分に許しているんです!

映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』場面写真5
Photo by Margit Erb

『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』(2012年イギリス・アメリカ)
1940年代より独特かつ豊かな表現力でニューヨークを撮影し続けた写真家ソール・ライターが、自らの言葉で人生を語ったドキュメンタリー。一時は有名ファッション誌の表紙を飾るなどの活躍をしたが、芸術性より商業性が求められはじめた80年代、自ら表舞台から姿を消してしまう。しかし2006年、ドイツのシュタイデル社から初の写真集が発表され、世界は“巨匠の再発見”に沸く。敢えて“忘れられた存在になろう”としてきた彼が、自分の人生をいかに語るのか――。急がず自分が心地よいと感じるテンポで歩んできた巨匠だからこそ、その境地に至った金言に満ちた、彼の貴重な人生の記録と記憶。監督はイギリス出身のトーマス・リーチ。

映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』場面写真6

今、次の作品に向けて色々と準備をしています。今回はフィジカルなアプローチのための準備もあるので、ジム通いをしながら少しずつ身体を作っています。どんな作品かは、もう少し先のお楽しみに! それ以外の時間は、観たかった映画やドラマを見て、台本を読んで、勉強して、写真を撮って……。そして、4月に公開になる映画『花まんま』のプロモーション活動も始まっています!

Text:Chizuko Orita

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