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向井康介さん
脚本家
1977年生まれ、徳島県出身。大阪芸術大学在学中に山下敦弘と出会い、共に『どんてん生活』『ばかのハコ船』などの自主映画を制作する。オフビートで独自のテンポ感の脚本を手がけることが多く、唯一無二の世界観にハマる映画好きが多数。
「自主制作の現場が人生を変えてくれた」
妻夫木聡が主演を務めた2022年公開の映画『ある男』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した脚本家の向井康介さん。その歩みは、とある作品との出会いから始まった。
「父の影響で幼少期より映画好きだった僕は、“映画の話をできる人がいそう”という理由から大阪芸術大学に進学。その時点では自分が映画を作る側になると想像もしていなかったのだけど、入学してすぐ、先輩の卒業制作に照明助手として入ることに。その作品が熊切和嘉監督の『鬼畜大宴会』。この現場に助監督として参加していたのが後に盟友となる山下敦弘です。16㎜フィルムで撮影された独自の空気感、ライティングを使った巧みな陰影表現など、すべてがシネマティックで、内側から見た映画作りの現場はとても刺激にあふれていました。撮った素材を切ってつないで、編集する。演者のほとんどは身内のはずなのに、スクリーンに映写される映像には全く別の物語があった。仲間さえいれば映画はどうにか撮れるものなのだと、熊切監督から教わった気がします」
『鬼畜大宴会』は国内の映画コンペティションでも高い評価を受け、さらにイタリアのタオルミーナ国際映画祭ではグランプリを受賞。欧州の映画界でも話題となる。
「照明助手のひとりとして携わった作品でしたが、学生の自主制作作品が世界で認められた事実に、胸が高鳴りました。そんな光景を前に、映画に対するスタンスが、傍観者から当事者へと変わった覚えがあります。以来、同級生の山下敦弘と集まり、自分たちの作品について考える日々を送っていました。そして山下は監督、僕は脚本、二人の世界を映画で表現しようと、卒業制作として『どんてん生活』を発表。ここから僕の脚本家人生がスタートしました。僕のように、なんとなく首を突っ込んだ先で、人生を賭して挑戦したいことが見つかる場合もある。だから若い世代の人たちには、まずはなんでもやってみるという心を忘れないでほしいですね」
INFO
『悪い夏』
第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した染井為人のデビュー作が待望の映画化。2025年3月20日より、全国で公開予定。生活保護の不正受給を巡り、様々な欲望や愛情が交差するストーリーは、日本の社会構造を皮肉に分析する。クズとワルしか出てこない、累計18万部以上を売り上げた傑作小説を、向井さんはどんな脚本で仕上げたのか。主演の北村匠海さんをはじめ、実力派の人気俳優たちの熱演にも注目だ!
Photo:Yuhki Yamamoto Interview & Text:Kanta Hisajima
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