▼ WPの本文 ▼
10作目
相米慎二
『東京上空いらっしゃいませ』
©ディレクターズカンパニー/松竹/バンダイ
監督/相米慎二
出演/中井貴一 牧瀬里穂 笑福亭鶴瓶 毬谷友子 出門 英 竹田高利 藤村俊二 工藤正貴 谷 啓 三浦友和ほか Leminoにて配信中
17歳の高校生で、化粧品会社のキャンペーンガールを務めるユウ。ある日スポンサーの専務に関係を迫られ、そこから逃げ出す際に交通事故死してしまうが、天国で会った死神をうまくだまして地上に舞い戻ることに成功。だが、家にも帰れず学校にも行けないユウは、広告代理店の社員・雨宮と同居することに。アルバイトをしてみるなど、ひたむきに生き直すユウだったが―。
わからないことを愛す
毎号、青春映画を取り上げてきたこの連載も今回で最終回。最後は一番好きな青春映画『東京上空いらっしゃいませ』です。
キャンペーンガールとしてブレイク前夜の17歳の高校生ユウは、不慮の事故で死んでしまう。そんなユウがある手違いによって、一時的に現世に舞い戻ることに成功し、「普通」の17歳として生き直していく。
せっかく生き返ったんだからと、ユウがバーガーショップでバイトをするシーンが印象的だ。店内をしっちゃかめっちゃかにしながら走り回って、ドリンクを注ぎ、ハンバーガーを作る。一生懸命さがキュートでたまらないのだが、ユウは既に死んでいていつかあの世に帰らないといけない。だからこそ、その何げない瞬間に生のエネルギーが爆発しているようでとてもまぶしい。
この連載でたびたび触れているが、終わりが迫っている、その「期間限定の特別な時間」というものは青春映画の持つ儚(はかな)さと輝きをより際立たせる。
ユウが死を受け入れ、別れが間近に迫る終盤、唐突にダンスシーンが始まる。誰かの結婚式の二次会で、ユウが歌を歌いながら踊りまくる。夢か現実かすら定かではない、急に始まる祝祭。躍動するユウの姿をカメラは長回しで捉えていく。理解が追いつくより先に、会場の空気はクライマックスになり、映画自体が遥(はる)か遠くまでスウィングする。わけはわからないけど、とてつもないエネルギーに心が動かされ、一生忘れられないシーンになった。
相米慎二監督の映画にはわけのわからない感動がやたらとある。『台風クラブ』にも、若者たちの衝動とモヤモヤが爆発するようなダンスシーンがある。荒唐無稽だが、無軌道で今ここにしかないエネルギーの発露。には、ついやられてしまう。
「映画なんか観て、なんの意味があんだよ」と、今年観た映画の登場人物が言っていた。本当にそうだ。自分も映画が好きなくせに映画館ではよく寝てしまうし、サブスクで観るときもついスマホを触ってしまう。映画という文化は確実に衰退していくだろう。他人の物語なんかに割く時間は、もったいないから。ではなぜ映画を観るのか?
映画を観ててたまに遭遇する、理屈を超えた感動を味わいたいから。そのときの説明できないわからなさを愛していたいと思う。そしてもうひとつ、やっぱり自分の人生以外を知ることって、すごく大切なことなのでは? と思う。
この連載で取り上げてきた映画を振り返ってみる。いろんな境遇の主人公がいた。抱える問題も多様だし、それぞれがそれぞれの答えにたどり着いていた。映画を観ることで、今生きているこの世界を様々な角度から見ることができるのではないだろうか。少なくとも自分はそう。
1年間ありがとうございました。今までいろいろ書いてきましたが、映画の見方はそれぞれですし、軽い気持ちで映画館に行ってほしいです。
若い皆さんが少しでも映画を好きになってくれたらうれしいな。
あなたがいつか映画を撮ったら教えてください。
松本壮史
2021年『サマーフィルムにのって』で長編監督デビュー。その他作品に、映画『青葉家のテーブル』、ドラマ『ながたんと青と』(WOWOW)、『親子とりかえばや』(NHK)、『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)など。第13回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞 新人監督賞受賞。
Photo:Masanori Ikeda(for Mr.Matsumoto) Title logo & Illustrations:Tsuchika Nishimura Text:Soushi Matsumoto
▲ WPの本文 ▲