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9作目
ロブ・ライナー
『スタンド・バイ・ミー』
©1986 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
監督/ロブ・ライナー 出演/ウィル・ウィートンほか 権利元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
Blu-ray¥2,619 デジタル配信中
1959年の夏、アメリカ・オレゴン州の田舎町が物語の舞台。12歳の仲よし4人組であるゴーディ、クリス、テディ、バーンは行方不明になった見ず知らずの少年の“死体探し”の冒険に出る。発見してヒーローになるための旅の道中、性格も家庭環境も異なる彼らは、歌ったり、ときにケンカをしながらも力を合わせてその歩を進めていき―。
大人になることを描く
今回は青春映画の金字塔である『スタンド・バイ・ミー』。まずどうしても言及したいのが、リバー・フェニックス演じるクリスの衣装だ。ジャストサイズのヘインズ白T(汚れ方が絶妙)をリーバイスにタックイン。足もとは履きつぶしたコンバース。どの角度から見ても格好よくて、キャラクターに見事にハマっていてため息が出る。このスタイリングは、本作を永遠に輝かせている大きな要因だと思っている。
さて本題。この映画、爽やかさがほぼなく、むしろ全編にわたって死の雰囲気が漂っている。
4人の少年たちが親に黙ってとある死体を探しに行く物語だが、主人公ゴーディはひと月前に兄を交通事故で失っている。さらに、親友のひとりが後に亡くなることも明かされたうえで物語は進む。3人の死が重なり合うことで何とも言えないダークなイメージが常につきまとっている。
思春期に差しかかった少年たちにとって、死というものは無性に惹かれる時期であることもよくわかる。自分も12歳のとき、「ドラゴンボールで描かれる天国は、基本的にない」と知らされて絶望した。それからしばらくは死ぬということをずっと考えていた。
『スタンド・バイ・ミー』は死というモチーフを中心に置きながら、大人になるということを描いている。
それぞれが家族や将来に問題を抱えていることが道中、少しずつ明かされていく。このまま決められたレールに乗っていくだけでいいのか? と悩む彼らを象徴するように、劇中では線路に沿ってひたすら歩く姿が描かれる。線路に沿っていけばいつかは目的地に着くという安心感もあるが、後半の彼らは線路を外れて森の中を突っ切る道を選ぶ。そこではまた新たな試練が待ち受けていることになる。
試練を乗り越え、見つけた死体は、ちょうど彼らと同じ年頃の少年のものだった。これはまさしく彼ら自身の死のメタファーだ。彼らは大人へと生まれ変わるために、少年として一度死ぬ必要があった。死というモチーフがいかに重要だったかがわかってくる。
そして、「死体を見つける」という目的を達成したのに、彼らは黙りこくったまま家路につくことになる。夕暮れの山道を、それぞれが距離をとったまま歩く4人の姿がたまらなくいい。
たった2日間の旅だったが、町に帰ってきた彼らの顔つきは全くの別人に見える。名声を得たり、大きなカタルシスがあるわけでもないが、旅の過程で彼らの内面では大きな変化が起きていることがわかる。
こんな大冒険を共にしたのに、彼らはその後疎遠になってしまう。
このことがさらにビターな後味を残してくれる。確かに、誰しもが成長していくにつれて、離れてしまう人がいるはずだ。子どもの頃はもっといろいろがシンプルだった。だからこそ、もう戻らない特別な時間だったんだと今なら思える。時代も国も境遇も全然違う彼らの冒険に強く郷愁を抱いてしまうのは、そんなわけだろう。
松本壮史
2021年『サマーフィルムにのって』で長編監督デビュー。その他作品に、映画『青葉家のテーブル』、ドラマ『ながたんと青と』(WOWOW)、『親子とりかえばや』(NHK)、『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)など。第13回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞 新人監督賞受賞。
Photo:Masanori Ikeda(for Mr.Matsumoto) Title logo & Illustrations:Tsuchika Nishimura Text:Soushi Matsumoto
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