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8作目
ドリュー・バリモア
『ローラーガールズ・ダイアリー』
©2009 BABE RUTHLESS PRODUCTIONS,LLC All Rights Reserved.
監督/ドリュー・バリモア 出演/エレン・ペイジ マーシャ・ゲイ・ハーデン クリステン・ウィグ ドリュー・バリモアほか U-NEXTにて配信中
田舎町でさえない生活を送る女子高生のブリス。母から美少女コンテストへの出場を強いられる日々に嫌気が差していたとき、親友と出かけた隣町で、“ローラーゲーム”に出会う。ローラースケートを履いた2チームがスピードを競い、体を激しくぶつけ合って相手選手の間を素早く駆け抜けて点を稼ぐスポーツだ。その競技に魅了されたブリスは、母親に内緒でチームに加入して──。
青春映画の軽やかさとは
自分は、青春映画が持つ「軽やかさ」については一家言ある。「軽やかさ」とは、リズミカルな語り口にユーモアを織り交ぜて、エンドロールまで映画を推進させる力だとしよう。…軽やかじゃなくてもすぐれた青春映画というのも勿論(もちろん)ある。だがしかし、青春映画だけに許されたその軽やかさにはどうしても惹(ひ)かれるし、自分自身もそこを強みとしている監督でもあるので語らせてほしい。
今回取り上げる『ローラーガールズ・ダイアリー』の持つ軽やかさは、それはもう極上だ。
17歳の主人公ブリスは、母親から常に品行方正を求められ、美少女コンテストに無理やり出場させられている。冒頭、お姫様のように着飾ったコンテスト出場者たちが映される一方、控室では、手違いで髪を青く染めてしまったブリスがギャーギャー喚(わめ)いている。ずぶぬれの青髪のせいで、この時点では視聴者には顔も見えていないその主人公のことを大好きになってしまうはずだ。初手から実に手際がいい。
もちろんコンテストはボロボロ、母親にもキツく怒られる。そんな中で出会うのが「ローラーゲーム」だ。長年、母親から押しつけられてきた「女性らしさ」とは真逆のワイルドで不良の世界。本作は、主人公が抑圧から解放されていくさまを、テンポよくローラースケートというアクションでもってパワフルに物語っていく。ドーナツのように丸いスケート場をグルグル回り続けるその運動はとても心地がよく、ローラーの回転音とともに独特なリズムを生んでいて、とてもフレッシュだ。
そして、軽快な語り口で紡がれていくストーリーは気持ちいいくらいの王道。しかし、軽いだけにとどまらない志の高さがこの映画にはある。
あらゆる関係がこじれて、八方塞(ふさ)がりになってしまったブリスと母親が仲直りをするシーンがとてもすばらしい。失恋したこと(「初めてを捧(ささ)げたのに…」と)をブリスが母に告げると、母は急に煙草(たばこ)を吸い始める。実は物語の序盤、母がブリスに隠れて煙草を吸っているシーンがある。「常に品行方正であること」を娘にも自分にも課していたはずだが、後半のここでは豪快に煙を吐き出す。秘密を共有することで2人の距離が近づいていく。それにしても、なんと気持ちのいい喫煙っぷりだろうか。数々の名画で喫煙シーンが描かれてきたが、個人的には屈指だと思っている。場所はキッチンで、しかも母娘の後ろにはハートのマグネットが壁にくっついていて、そんなところもいちいちラブリーで最高だ。問題解決のシーンに、切実さと軽やかさがしっかりとある。
母親、親友、ライバル、仲間…と、主人公が密接に関わる人物は全員女性で、異性との恋愛描写も少しはあるものの、結局王子様なんかいないし、この映画にそんなものは必要ない。女たちが体ごと激しくぶつかり合って、笑って泣いて、喧嘩(けんか)して仲直りして、勝ちも負けも軽やかに超えていく。ローラースケートのスピードと暴力がひたすら眩(まぶ)しい最高のガールズムービーだ。
松本壮史
2021年『サマーフィルムにのって』で長編監督デビュー。その他作品に、映画『青葉家のテーブル』、ドラマ『ながたんと青と』(WOWOW)、『親子とりかえばや』(NHK)、『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)など。第13回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞 新人監督賞受賞。
Photo:Masanori Ikeda(for Mr.Matsumoto) Title logo & Illustrations:Tsuchika Nishimura Text:Soushi Matsumoto
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