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役所広司×小栗旬。『キツツキと雨』という青春映画【映画監督 松本壮史のいま観たい青春映画】

役所広司×小栗旬。『キツツキと雨』という青春映画【映画監督 松本壮史のいま観たい青春映画】

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映画監督 松本壮史のいま観たい青春映画10選

作目
沖田修一
『キツツキと雨』

キツツキと雨

監督/沖田修一 出演/役所広司、小栗 旬、高良健吾、臼田あさ美、古舘寛治、黒田大輔、嶋田久作ほか 発売・販売元:KADOKAWA DVD(通常版)¥5,170

映画の撮影で、ある山村へやってきた撮影隊一行。25歳の新人映画監督・幸一(小栗旬)はその気弱な性格ゆえに、現場をまとめきれずにパニック寸前になりながらデビュー作の撮影を進めていた。そんなある日、彼は60歳の木こり・克彦(役所広司)と出会う。最初は無理やり撮影を手伝わされていた克彦だったが、徐々に映画の面白さを知り、幸一は克彦との交流を通して成長していく。

 

初めての感情に出会うこと

沖田修一監督の映画が纏(まと)うユーモアがたまらなく好きだ。面白いことをして笑わせるのではなく、人が必死に生きているだけで笑いを起こす。カッコつけたり、ズルかったり、間違えてしまったり、その人間くさい可笑(おか)しみに僕たちの心は動かされる

本作では、ある村に映画の撮影隊がやってくる。地元の武骨な木こりの克彦(役所広司)と若手映画監督の幸一(小栗旬)が出会って、なんだかんだ映画を一緒に撮ることになっていく。

映画なんて1mmも興味のない克彦が、巻き込まれる形でエキストラ出演(しかもゾンビ映画)し、ラッシュ(撮影した素材をみんなで確認すること)を観たり、脚本というものを初めて読んでみたらつい感動してしまったり―。序盤、創作の世界に初めて足を踏み入れた克彦のワクワクが描かれていく。

主人公が「初めての感情」に出会っていくというのは青春映画の醍醐味(だいごみ)のひとつだ。そこに年齢は関係ない。だんだんと前のめりになっていく克彦と村人たち。呼応するように、やる気がなさそうだった映画スタッフたちにも活気が出てくる。出演者のほとんどがおじさんとおばさんなのに、何故(なぜ)ここまで創作の喜びを瑞々(みずみず)しく描けるのかと感動してしまう。

脇役がやたらと魅力的なのは沖田映画の特徴のひとつだと思っている。監督のまなざしが登場人物たちの端っこにまで行き渡っているからこそ、映画全体が独特な豊かさに満ち溢(あふ)れているのだろう。そうだ、沖田監督の映画は、出ている俳優たちがみんな楽しそうなのもいい。ハッピーなシーンだけじゃなくて、喧嘩(けんか)しているシーンでも俳優たちが楽しんで演じる空気がにじみ出ていてとてもいい。優れている映画には、俳優もスタッフもその場にいるみんなが、自分たちの物語を信じているからこそのバイブスみたいなものがあって、それはスクリーンで観るとわかる。沖田映画にはそんな幸福な時間がずっと流れている気がする。

克彦と幸一。全く違う世界で生きてきた2人にはそれぞれの悩みがあるが、自分の悩みを相談することはない。映画製作という創作を通じて、それぞれの悩みが解きほぐされていく。将棋を指しながら、温泉につかりながら、弁当を食べながら、2人はゆっくり成長・変化していく。直接的なことは描かれず、そこには何げない会話があるだけ。なんと粋なことか。

若い監督の幸一は、現場で用意された監督用の椅子に座らない。「恥ずかしくて座れないです」と言う。激しくわかる。自分もまだ堂々と座れない。

そんな幸一に克彦は手作りの椅子をプレゼントする。その椅子自体がまたいろいろとズレていて、たまらなく愛(いと)おしい。数年後、克彦がその椅子に座ろうとするのだが、そこでもズレが起きる。映画を振り返るとあらゆるところでズレが発生していた。ズレてすんなりいかないからこそ、でこぼこで愛すべき瞬間が溢れているのだ。ズレから生まれるものこそ、沖田監督のユーモアの一端なのかもしれない。

 

※西村ツチカ氏の挿絵完成後に、急きょ掲載予定作品を差し替えることになり、今回挿絵はありません。ご了承ください。

松本壮史

松本壮史

2021年『サマーフィルムにのって』で長編監督デビュー。その他作品に、映画『青葉家のテーブル』、ドラマ『ながたんと青と』(WOWOW)、『親子とりかえばや』(NHK)、『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)など。第13回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞 新人監督賞受賞。

Photo:Masanori Ikeda(for Mr.Matsumoto) Title logo & Illustration:Tsuchika Nishimura Text:Soushi Matsumoto

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