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第7回
逆境を生き抜いたアーティスト
ルイーズ・ブルジョワの
国内最大規模の個展
\ここに注目!!/
森美術館
「ルイーズ・ブルジョワ展:
地獄から帰ってきたところ
言っとくけど、素晴らしかったわ」
本展出品作の約半数は1998年以降に制作された日本初公開作。アジア初のお披露目となる初期絵画作品も!
ルイーズ・ブルジョワ 《かまえる蜘蛛》 2003年 撮影:Ron Amstutz ©The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
ブラックユーモアが炸裂(さくれつ)!
「六本木のあの蜘蛛」の
アーティストを深掘りする個展
皆さん、六本木ヒルズの広場にある、高さ約10mの巨大な蜘蛛(くも)の彫刻作品は見たことがありますか? 検索サイトでも「六本木ヒルズ 蜘蛛 なぜ」とサジェストが出るほどに、六本木ヒルズを歩いたら誰しも気にならずにはいられないほどのインパクトを20年以上にわたって放っています。
蜘蛛の作品名は「ママン」。この彫刻を制作したアーティスト、ルイーズ・ブルジョワによる個展「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」が9月25日より森美術館で開催されます。日本ではなんと27年ぶりの開催となり、約100点に及ぶ作品群で構成される国内最大規模の個展になります。惜しまれながらも2010年にブルジョワ自身は他界していますが、インスタレーション、彫刻、ドローイングなどさまざまな媒体を用いて活動した約70年の軌跡は、20世紀を代表するアーティストのひとりとして現在も多くのアーティストに影響を与えています。
話を戻して、「六本木ヒルズ 蜘蛛 なぜ」の背景をひもといていきましょう。ブルジョワの作品は、一貫して自身が幼少期に経験した複雑な家庭環境からのトラウマをもとにジェンダーや身体など普遍的なモチーフへと昇華しています。その壮絶な家庭環境は、まず誕生したときから。タペストリーの商業画廊とアトリエを営む父親が後継として待ちわびていたのは男児。そこに母親のお腹から生まれてきたブルジョワを見て父親は失望感に包まれたといいます。タペストリーの修復アトリエは母親が監督しており、両親は家業におけるパートナーでした。そんな折に、使い古されたタペストリーを修復するにあたって必要な絵柄のスケッチを母親がブルジョワに描いてみるかと提案したことをきっかけに、それまでは「必要ない」と言われ続けてきた娘の才能が開花。ここまでの話を聞くと一見、家庭環境は順風満帆なハッピーエンドを迎えたように思うのですが、そうした環境でも父親の横暴さは変わらず、なんと英語教師として雇われた20歳前後の少女が父親の愛人に。ブルジョワも女性を軽んじ、浮気を繰り返す父親の態度を肌で感じると、居ても立ってもいられずに母親になぜ黙認できるのか尋ねます。ところが、母親自身も「同じような家庭環境の中で育ったという理由で現状に従っている」という答えにショックを受けたといいます。そうした母親の家庭を壊さないように努める姿、糸でタペストリーを修復する姿が「ママン」の蜘蛛に重ね合わされているのです。
本展の副題となっている印象的な「地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」の言葉は、ハンカチに刺繍(ししゅう)で言葉をつづった晩年の作品から引用したもの。ブルジョワは芸術大学に入って以来、できるだけ早く父親から自立しようと、さまざまな逆境を乗り越えてきました。副題にある「地獄」から生き抜くような力強さを作品の端々に感じます。個人的に好きなブラックユーモアのセンスなので、彼女の精神性を知ることができる本展が非常に楽しみです。
ルイーズ・ブルジョワ 《無題(地獄から帰ってきたところ)》 1996年 撮影:Christopher Burke ©The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
個展は家族との関係にもとづく3つの章で構成。作品に加えて、文筆家としても才能を開花していた言葉の数々も展示。
「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」
9月25日(水)から2025年1月19日(日)まで、森美術館にて開催。港区六本木6の10の1 六本木ヒルズ森タワー53F
倉田佳子
大学卒業後、独学で編集・執筆業を始める。その後、5年間会社員と副業で編集・執筆業を並行し、2022年に独立。国内外のブランドやメディア、アーティストと仕事をする。
Instagram:@yoshiko_kurata
Title logo:Midori Kawano
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