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米津玄師のミュージックビデオやエルメスのドキュメンタリーフィルムも手がけた映像作家・奥山大史さんに最新作『ぼくのお日さま』についてインタビュー!

米津玄師のミュージックビデオやエルメスのドキュメンタリーフィルムも手がけた映像作家・奥山大史さんに最新作『ぼくのお日さま』についてインタビュー!

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大学在学中に制作した長編初監督作『僕はイエス様が嫌い』(2019年)で、第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞。活動のフィールドは映画だけにとどまらず、エルメスのドキュメンタリーフィルムや米津玄師のミュージックビデオの監督・撮影も手がけている。最新作は、長編2作目にして商業映画デビュー作となる『ぼくのお日さま』。本作は、第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品されるなど、国内外で高い評価を集めている。「子どもの頃の想像を映像にしてみたい」と語る、注目の映像監督にインタビュー。

奥山大史さん
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引き寄せられるように物語が
するすると動きだしていった

――最新監督作『ぼくのお日さま』は、フィギュアスケートが題材になっています。どういった経緯でこの作品が生まれたのですか?

奥山 僕自身、姉の影響で小学校に入るちょっと前から中学校1年生の初め頃までフィギュアスケートを習っていたことがあったんです。『僕はイエス様が嫌い』という作品で初めて長編映画を撮ったとき、実際にプロテスタントの学校に通っていた経験をもとにしてつくったので、次も同じように実体験から考えて、スケートを題材にした作品を撮ってみようと思いました。とはいえ、いざプロットを書き始めてみると、ただ思い出を映像にしたものだけでは面白みがないし、どうしようかなと悩んでいるうちに、ほかの仕事もいろいろあったりして、気づいたらまったく進んでいない状況で。

――その状態からどうやって動きだすことになったのですか?

奥山 2019年から企画を考え始めて、そこからコロナ禍になって、その時期にハンバート ハンバートの「ぼくのお日さま」という曲に出会ったんです。歌詞を聴いていると、おぼろげだった主人公の少年の姿がはっきりと浮かんできて、引き寄せられるように物語がするすると動きだしていきました。さらに、2020年にエルメスのドキュメンタリーフィルムの仕事で池松壮亮さんを撮影する機会があったんです。それまでは男の子2人と女の子ひとりの3人の物語を考えていたのですが、「池松さんに出てもらいたい」と思い、男の子のひとりを変えて、新たに池松さんをイメージした役に書き直しました。結局、数枚の企画書にまとめるだけで2年かかってしまいました。

――吃音(きつおん)のあるタクヤ(越山敬逹)と、フィギュアスケートを学ぶさくら(中西希亜良)、そして元フィギュアスケート選手でコーチの荒川(池松)の関係性がとてもよかったです。凍った湖のシーンをはじめ、タクヤやさくらと絡むシーンはかなり池松さんのアドリブがあったように思うのですが、実際はどうだったんですか?

奥山 この映画は上映時間がジャスト90分なんですけど、池松さんやプロデューサーが言うには、台本の厚さは一般的な90分程度の映画の半分にも満たないらしいです。それくらい余白がかなりある脚本なので、ある程度役者さんのアドリブだったり、間に任せる形で埋めていってもらいました。その中でもいちばんは池松さんで、それこそ湖のシーンは台詞(せりふ)も動きも具体的には何も書かれていなくて、もう本当に3人で遊ぶぞという感じで一緒にふざけてくれました。ほかにも、池松さん演じる荒川が初めてタクヤにスケートを教えるシーンも一切台詞は書いていなくて、あの場面で池松さんが「まっすぐ」とか「ブレる男はモテないぞ」と言っているのは全部アドリブです。なぜ荒川がホッケー少年であるタクヤにスケートを教えようと思ったのかが暗に理解できるような台詞になっていて、いいシーンになっていると思います。今回僕は撮影も担当していて、スケート靴を履いて滑りながら撮ることもあったので、正直言って現場ですべての台詞がはっきりと聞こえているわけではなかったんですね。だから、あとで編集作業をしているときに、こういうことを言っていたのかとわかって、はっとさせられることが何度もありました。

――このシーンが撮れてよかった、みたいな印象に残っているシーンはありますか?

奥山 たくさんあります。こういう質問って池松さんとかタクヤの話に偏りがちなので、さくらの話で答えると、さくらが通う中学校でのシーンはわりと序盤に撮ったんですね。ただ突っ伏しているだけとか、あまり台詞がないシーンが続いたから、どこまで彼女の心情だったり、スケートに対する思いみたいなものが見えてくるかなという懸念はちょっとあって。そういう状況でたまたま予定していた撮影時間が少し余ったので、急いでもうワンシーン撮ろうと言って、廊下で踊っているシーンを追加したんです。逆光の中でアイスダンスの練習をする彼女の姿が本当にきれいで。彼女は何か言葉を発するときよりも、黙って何かを見ているときとか、スケートの動きをしているときに圧倒的な魅力を放つので、その輝きを撮影の序盤に撮れたことはとてもよかったし、これでいけるなと思わせてくれたという意味でも印象に残っています。

 

どうすれば懐かしくも
新しい画(え)にできるのか

――今回は監督のほかに、撮影、脚本、編集を担当されています。とくにこだわった部分や気をつけたことはありますか?

奥山 まず時代設定が2001年ぐらいに見えたらいいなと思いながら撮りました。今回も前作と同じでスタンダードサイズで撮っているのですが、スタンダードサイズで撮ると、ちょっと気を抜くとすぐにレトロ感が前面に出てきてしまうので、たんなるノスタルジーにならないようにどうすれば懐かしくも新しい画にできるのか、照明部や美術部、衣装部とも話し合いを重ねながら撮影を進めていきました。そもそもスケートの映画って日本ではあまりなくて。フィギュアスケートを描いている映画ってほぼないんですよね。

――たしかに。そう言われると、あまり記憶にないですね。

奥山 海外はそれなりにあるにはあるんです。でも、日本では倉本聰さんの監督デビュー作『時計 Adieu l’Hiver』(1986年)で描かれているくらいだと思います。フィギュアスケートをやっていた自分として気になるのは、スケートシーンを撮ろうと思うと、どうしても競技っぽい映像になっちゃうんですよね。オリンピックとかで観るような映像になっちゃうというか。でも、僕が見ていた景色って一緒にリンクに入って見ていたもので、リンクの外から見る景色ってあまり記憶の中になくて。自分の記憶の中にある映像を撮りたいなと思ったから、なるべくリンクの中にカメラを入れてスケートをとらえるということは意識しました。

――実際に自分が滑って撮るってすごいですよね。できる人は少ないと思います。

奥山 方法はいくつか試しました。自分がスケート靴を履かなくても、よりいい画が撮れるんだったらそっちのほうがいいので、例えばそりに乗ってみたり、長靴を履いて走って追いかけてみたり、いろいろ試したんですけど、やっぱり自分が滑って撮っちゃったほうが圧倒的に自由度は高いし、滑らかな映像が撮れました。僕が尊敬する撮影監督に宮川一夫さん(黒澤明などの作品に数多く参加した日本映画を代表する名カメラマン)という方がいて、昔読んだ宮川さんの自伝の中に「スケートを滑りながら撮ったことがある」と書いてあったんです。そのとき、「撮影は到底及ばないけど、スケートだけは宮川さんより自分のほうがうまいだろうな」と勝手に思った記憶があって、そのことは最近まで忘れていましたが、無意識につながったうえでの今回の映画なのかなと。スケートシーンに関しては、観ている人も3人と一緒に滑っているような感覚の映像が撮れているんじゃないかなと思います。


奥山大史さん

「実体験の幅をちょっと超えた
想像の世界を映像にしてみたい」

 

どっちもやらないと
行きたい方向には行けない

――奥山さんは、映画だけでなく、広告やMV、ドラマの制作も手がけています。違いとかはあるのでしょうか?

奥山 映画とひと言で言ってもいろいろな種類がありますけど、少なくとも僕の場合は、自分で企画を考えて、一緒に動いてくれるプロデューサーや協力してくれるスポンサーを探して、動きだしていきます。原作のないオリジナル作品だと、自分がどこに行きたいのかもわからないままに、いろいろな人に「あっちだよ、こっちだよ」と言ってもらいながら冒険していく感覚が強いです。一方で、広告やMV、ドラマは、すでに何かしらの目的が存在していて、「あなたにこれをやってほしい」と依頼されるもの。それは冒険というよりも、「あそこに行きたい」と言っている人を乗せて頑張って運転しているイメージで、それはそれで楽しいんです。だから、どっちがいいとかじゃなくて、自分はどっちもやることで行きたい方向に行けるようになるタイプなのかなと思います。

――どっちも大切なものだと。

奥山 そうです。それこそ今回の技術部のスタッフは、MVや広告の仕事で出会った人たちで構成されていますし、だからこそほかでは見ないようなルックだったり、雰囲気がつくれていたりもするのかなと。そうやってらせん階段を上るように、いろいろな人に出会って、いろいろなアイデアを蓄えて、いろいろな技法を学んで、回り道に見えても地道に歩んで、少しずつでも階段を上がっていけたらいいなと思っています。

――映画をつくることの楽しさ、喜びというのはどういうものなんですか?

奥山 ドラマやCMとの違いでいえば、やっぱり海をいちばん超えられるのが映画だと思っていて。ドラマやCMの場合、なかなか海外で放映される機会はないですよね。でも、映画は往々にして国境を超えて海外の人にも届く。そこは大きいです。今回カンヌ国際映画祭に行かせてもらいましたけど、いろいろな人たちがいろいろな感想をくれたり、批評を書いてくれたりして、そういったものに触れるたび、映画をつくってよかったなと思いますし、映画だからこそ体験できる喜びのひとつだなと思います。

――では、クリエイティブの原動力はどういったところにあるのですか?

奥山 子どもの頃の想像を映像にしてみたいという気持ちがずっとあるんです。『ぼくのお日さま』であれば、荒川コーチみたいな人が近くにいたらよかったなとか、『僕はイエス様が嫌い』であれば、小さい神様が近くにいたらどうだったのかなとか、そういう実体験の幅をちょっと超えた想像の世界を映像にしてみたいという思いが原動力になっている部分はあります。

――子どもの頃にしていた想像の世界ですか。たしかに自由だし、ワクワク感があったような気がします。

奥山 やっぱり子どものときのほうが楽しかったなと思うことってあるじゃないですか。でも、それってべつに悲観的なことではなくて、そのときの感覚を忘れているから、大人になってつまらないと感じてしまうのかなと思うんです。子どもの頃って本当に些細(ささい)なことでうれしくなったり、逆に悲しくなって落ち込んだりしましたよね。映画を観ていると、そのときの感覚が呼び起こされる瞬間があって、そういう映画を自分もつくりたいんです。観る人が子どものときに感じていた気持ちを思い起こしてくれて、日常がちょっとだけ刺激的に見えたり、きらきらして見えたりしたら、それ以上にうれしいことはないなって思います。

 

『ぼくのお日さま』

『ぼくのお日さま』

9月13日(金)より全国公開
 

監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」
出演:越山敬逹、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也ほか
配給:東京テアトル
 

吃音のあるアイスホッケーが苦手な少年(越山敬逹)。選手の夢を諦め、恋人の地元でスケートを教えるコーチ(池松壮亮)。コーチのことが少し気になるスケート少女(中西希亜良)。田舎町のスケートリンクで、3つの心がひとつになって、ほどけていく――。
 

©2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

FILM DIRECTOR / HIROSHI OKUYAMA
奥山大史

1996年、東京都生まれ。長編初監督作『僕はイエス様が嫌い』(2019年)が、第66回サンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞など、国内外の映画祭で数多くの賞を受賞。そのほかの仕事に、Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』(5、6、7話の監督・脚本・編集)、エルメスのドキュメンタリーフィルム『HUMAN ODYSSEY-それは、創造を巡る旅。-』(総監督)、乃木坂46「僕は僕を好きになる」MV(監督)、米津玄師「地球儀」MV(監督・撮影・編集)、NHK夜ドラ『ユーミンストーリーズ』の第3週「春よ、来い」の演出などがある。

Photos:Kanta Matsubayashi Composition & Text:Masayuki Sawada

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