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凪良ゆう Yuu Nagira
地球が滅びる前に見た希望の光を書く
家で居場所をなくした少女と、彼女をかくまったことから犯罪者になってしまう青年の物語『流浪の月』で、第17回本屋大賞を受賞した凪良さん。彼女の新刊は、なんと、地球に滅亡の危機が訪れるというSF的な設定だ。
「映画でも小説でも滅亡ネタが好きで、昔から漠然と書きたいなと思っていました。ただ、書き切れる自信がなかったし、今じゃないなと棚上げしていたんです。それが去年の初夏に、急に書こうという気持ちになりました」
高校2年の友樹はぽっちゃり体型とおとなしい性格から、スクールカーストの上位メンバーからパシリに使われる日々を送っている。学年一の美少女・藤森さんと久々に言葉を交わした友樹は、小学校5年のときの彼女とのエピソードを思い出す。あのとき、友樹はこう願ったのだ。「人類を滅亡させてください」。そんなとき、地球に小惑星が衝突するというニュースが飛び込んでくる。
「人類が滅亡するって聞いたときに、心のどこかでちょっとホッとしている人たちを書きたかったんです。それまでの人生があまりうまくいってなかったから、やっときたかと思っているような人たち。でも、そこからもう一回、彼らが変わっていく何かがあって、生きることに希望が持てるような話を書きたかったんです」
物語は17歳の友樹から、やさぐれた生活を送る40歳の信士、同じく40歳で友樹の母・静香、そして29歳の歌手Locoへと視点を変えながら進んでいく。
「いろいろな年代、性別の視点で書きたかった。高校生の友樹と藤森さんという若い男女。信士と静香は同じ年ですが、若い頃に一緒にいたけれど、今はまったく違う生き方をしています。最後のLocoは、この大きい設定を昇華してくれる象徴的な存在ですね」
人は必ず死ぬ。しかし多くの人はそのことを忘れて日々を過ごしている。『滅びの前のシャングリラ』を読んでいる間、読者はきっと、あなたならどうする? と問われているように感じるだろう。
「インタビューで、凪良さんなら地球滅亡までの日々をどう過ごしますか? と聞かれるんですが、わからない(笑)。本で書いた答えは、登場人物それぞれが出した答え。人の数だけあると思います」
贅沢なのが、4つの章がそれぞれ違う要素を持つこと。青春、ヤクザ、シングルマザー、そして芸能界のバックステージものの要素を含みつつ、祝祭的なクライマックスへと盛り上がっていく。
「最後は神がかり的な何かがないと。最初からそこまで考えていたわけではないんですが、これしかないな、という展開になりました」
今回だけでなく、凪良さんの作品にはしばしば音楽が重要な鍵になる。凪良さん自身も音楽が好きで、執筆にあたり、BGMのプレイリストをつくるとか。
「小説の世界に入るための扉をつくるみたいな感じで、いつも音楽の力を借りてます。没頭すると聴こえなくなっちゃうんですけど」
『滅びの前のシャングリラ』の読者のために、読みながら聴いてほしい曲を挙げてもらった。
「チャットモンチーさんの『シャングリラ』。歌詞が印象的で、〝希望〟についてのフレーズを聴いたときに、第1章の友樹の話がぱーってきれいに立ち上がりました。『こころとあたま』という曲にも助けられたので、こちらもおすすめしたいです」
最後に残った希望の光がまぶしく感じられる作品だ。
『滅びの前のシャングリラ』
凪良ゆう
¥1,550/中央公論新社
PROFILE
滋賀県生まれ。2006年、『小説花丸』に「恋するエゴイスト」が掲載されデビュー。以降、ボーイズラブ(BL)作品を刊行。17年、非BL作品である『神さまのビオトープ』が高い評価を得る。20年、『流浪の月』が、全国の書店員が一番売りたい本を投票で選ぶ第17回本屋大賞を受賞。ほかに『わたしの美しい庭』など。
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