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編集部が気になる人に会いに行く連載「WEEKEND INTERVIEWS」。第40週は、大きな話題を呼んだ著書『佐久間宣行のずるい仕事術』に続き、『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』を発表した佐久間宣行さんにインタビュー! 『ゴッドタン』や『あちこちオードリー』などのテレビ番組や自身のYouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』など、数々の人気コンテンツを世に送り出す、名プロデューサーの心の中を知れるという新刊について、本人にたっぷり聞いてみた。
学生時代にやるべきは
長編の本を読むクセをつけること
──人気の自著『佐久間宣行のずるい仕事術』をはじめ、さまざまな番組やインタビューでご自身の仕事術や企画力について語られてきた佐久間さんですが、改めて「ごきげんになる技術」というメンタルのお話を書こうと考えたきっかけは?
特にフリーになってから、いろいろな人から悩みを相談されるようになったんです。その悩みの内容は、キャリアだったり、人間関係だったりさまざま。
私が思うに、自分のコントロールの仕方をうまく身につけないまま社会に出て、競争にさらされるようなプレッシャーのかかる場所に来てしまうと、苦しい思いをしてしまいます。周りにいる自分の同世代や、そのちょっと下の40代前半の人たちが、仕事や生活で苦しんでいたりモヤモヤしたりしている人がけっこういて、よく相談を受けていました。彼らの相談を受けている中で、今からできることもあるけど、30代からの準備が足りないと感じる人もいて、実際僕も40代前半の間に苦しい時代があっただけに、思うところがかなりあったんです。
僕自身も壊れにくいタイプではないなと思いながら、自分のコントロールの仕方を覚えていった結果、比較的楽しく仕事ができる人間になったので、そんな話をよく後輩に話していて。そうしたらいろいろな後輩たちから、「そういう話を、本にしてください」という要望をもらったのが一つのきっかけですね。
あと、もう一つのきっかけが、雑誌の『SPUR』でやらせていただいている悩み相談の連載(佐久間Pの甘口人生相談「え、それ俺に聞く⁉︎」)。長い間悩み相談に答えていくうちに、悩みがちな人の状況や理由がわかってきて、「これは単発じゃなくて、一冊の本にまとめて読んでいただいた方が伝わるな」と思ったんです。
──社会に出ている大人はもちろん、これから大人になって社会に出る人にも役立つ「技術」が詰まっていると感じました。
仕事をしていく中で、自分という人間の操縦の仕方とか、自分が耐えられることと耐えられないことの選り分けとか、放っておいたら錆びちゃう武器(自分の強み)の磨き方とか、その武器をどこに持っていくかを見極める力とか、こういうことを同時に考えたほうがいいと思うけれど、実践できていない人が、思ったよりいるなと思って。
どんどん閉塞感が増す日本の社会で、競争にさらされながら働いて疲れ果てたり壊れたりする人を少なからず見ていて、僕なりに養った心の負担を回避する方法をできるだけ伝えたいと思うようになったんです。
──その力を養うために佐久間さんが実践していたことは?
自分を客観視することですかね。客観視するというか、客観視できるように努力するようにしていた感じですね。20代の頃は日記をつけていて、それから忙しくなっていくにつれて、徐々にアイディアのメモと、その日にあった出来事を1行くらいで日記に書いていくようになりました。日記をつけていると、自分がいい状態にいるときと悪い状態になっているときの傾向が把握できるようになっていきました。それによって、「この佐久間という人間を、この組織の中だとどういうふうに持っていったら、もうちょっと楽しく、キャリアを築けるかな」と、次第に自分という人間の乗り方や、キャリアの作り方、メンタルが潰れない方法を少しずつ身につけていくことができたんです。
──そのノウハウは一朝一夕に得られないかもしれませんが、自分もすぐに実行できそうです。例えば具体的に、どんなことを身につけたんでしょうか?
好きなことと得意なことは別物であり、それぞれを把握すること。好きなことをお仕事にするとけっこう苦しいこともあって、そんなときに得意なことって自分の強み=武器であり、逃げ場所になってくれる。でも、自分がどんな武器を持っているかって、自分でわからないこともあるし、他人から教えてもらうことのほうが多いんです。やりたい仕事を気持ちよくやるために、自分はどんなキャラクターでどんな人間だと思われているかを、把握する努力をすることが大事。ちなみに、僕の得意なことは、「仕事を苦労と思わないこと」だと理解しています。
たまに大喜利に例えるんですけど、答えを出す芸人がどういう人かというフリがちゃんとされていないと、どんな答えを出してもウケないということがあるんです。仕事もそれに近い。ただこの仕事をやりたいとか、こうしたいと意見を言っても受け入れてもらえない。いわゆる周りへのフリを作るために、自分が他人からどう見えているのか冷静に把握して振る舞う必要がある。ただその結果、人から見えているキャラクターが、自分が思っている自分と乖離しすぎているのなら、それはなぜか、またはどう修正するかを考えた方がいいと思っています。
──本著では主に、社会人としての心持ちや仕事での振る舞いについてのお話が出てきますが、語られている技術は、『メンズノンノ』読者に多い学生にも有益だと思いました。加えて、今の学生にアドバイスをするとしたら、どんなことを伝えますか?
まず「これはもしかしたら一生の趣味になる」と思うものを見つけてほしいですね。そのために時間を使えるのが学生時代。一生の趣味があると、当たり前ですが人生が豊かになりますし、たまたま僕みたいなメディアやエンターテインメントの仕事に就くと、趣味自体が武器になります。
あと、学生時代のうちに長編の本を読めるクセをつけておいた方がいい。大人になってから長い本を読めるようになる人って、なかなかいないんですよ。学生時代に時間をかけて、物語が長いSFや小説を読めるような体や頭を作っておかないと、いざというときに大切な情報を得ることができないし、質のいい娯楽も楽しめないですから。
SNSは見せたい自分を表現する場所
それに左右されるなんて意味がない
──佐久間さんは「ネガティブでいるのは悪いことではない」ということを、章をまたいで語っています。その真意とは?
決してネガティブでいようという意味ではなくて、「ネガティブさ」を持ってないと、痛みを感じない人間になってしまうし、危険を感知しづらくなるし、自分のキャリアに対する不安も抱かなくなるから、ネガティブな気持ちとうまく付き合っていくべき、ということを語っています。「ネガティブさ」に支配されないようにと不安な気持ちになると、逆にどんどん意識してしまうので、「ネガティブな自分は常に存在していて、なくならない」という感覚で生きていく方がツラくないし健全だなと思う。「ネガティブさ」があるおかげで、努力しなきゃと思えるわけで。
例えば、僕は仕事でも私生活でも、不安になることがあると、「お、不安アラート出てきたぞ。ということは、この辺で努力しなきゃいけないな」「自分のやっていることを見直さなきゃいけない時期が来たな」と、むしろネガティブになることを嫌なものだと思わない。それを何回か繰り返すことで、不安が解消されていって、人生が改善できるって思うんですよね。そう思って暮らしていた方がいい。
──なるほど、その考え自体がポジティブで素敵です。現代社会でネガティブな気持ちになる一つのきっかけとして、つい不特定多数の人と自分を比較したり、他人を羨んだりしてしまうSNSがあると思います。佐久間さんはSNSとどのように付き合っていますか?
よっぽどの友達じゃない限り、人は見せたい自分を見せているから、どのSNSも「見せたい自分を見せているんだろうな」と思って付き合っていますね(笑)。ほとんどの人はSNSで発信しているのは自分の本音ではなくて、“表現”だと思うんです。だから、「この人は、自分のことをこういうふうに表現するんですね」と見ればいい。SNSは“表現”の集積体であって、自分、または自分の人生が左右されるほどのものではないと思っていますね。もちろん我慢できずに本音をこぼしちゃう人や大事な情報源として捉えている人もいるとは思うけど、基本的に僕はSNSは一貫して「みんな、元気そうだな!」と思って見ています(笑)。
──「本音じゃなくて表現」という言葉にすごく納得しました。本著を最後まで読むと、“ごきげんになる”ことは、今話していただいたようなライフハックであるだけでなく、セルフブランディングや自己投資につながることもわかります。佐久間さんは、どんな時、「ごきげんになる技術」を身につけてよかったと思いますか?
僕の“ごきげん”って、とにかくフラットでいるということで、いいことが起きても、悪いことが起きても心が左右されないんです。だから今まで調子に乗らずにこられたと思いますし、自分を低く見積もるから、常に「自分はこの場所では通用しないんだ」と思って努力を怠らなかった。フラットでいることは、今後の人生においても大事にしていきたいと思っています。
豊かな感情を見せる人をうらやましいと思うこともあるけど、やっぱり感情に左右されないと精神的に楽なんです。もちろん感情を持ちながら、今の自分の立場や今やらなきゃいけないことと切り離して考えられるテクニックを身につけたので、「なんだよっ!」って人を怒る前に、一瞬「俺、怒ってんな」と思って、冷静なアクションを取ることができる。
「俺、怒ってんな。でもここは怒らないと状況が変わらないから、ちゃんと怒るようにしよう」「でも、事態を大きくしないように、地雷だけは踏まないようにしよう」みたいなことを考えてから怒れるので、それだけで人生で何度か自分の身が助かっている気がします。要は、怒りの中に余白を作って、心の入れ物をパンパンにしないことが重要。パンパンのまま感情が溢れて、よくないと思っているのに自分の負の気持ちをぶつけてしまうと、大抵の場合よくないことが起きますね。
──「心の入れ物をパンパンにしない」はすごく重要ですね。これまでの人生で身につけた「ごきげんになる技術」を、改めて言語化したことで気づいたこと、発見したことはありますか?
以前執筆した『ずるい仕事術』はテレビ局に入社してから身につけたテクニックを書いたんですけど、そのテクニックの源泉になっているのは、今回の本で書いた「まず不安と楽しく付き合う」とか「他人と自分を比較しすぎない」とか「感情を仕事場に持ち込まない」という心得や作法なんです。
それらを実践してきたことで、僕は仕事も人間関係もトラブルって起こしたことないんですよ。だから、人としての“負債”が少ない。“負債”が少ないぶん、楽に生きていけるということが、今回改めて確認できました。自分の人生が番組だとしたら、最初の企画書をちゃんと読み直して、「面白くするには、ここを大事にしなきゃいけないんだな」ということがわかったという点でも、自分にとても大きかったです。
──この「ごきげんになる技術」を生かして、これから佐久間さんが目指す場所とは?
キャリアで言うと、今後も自分を冷静に見ながら、ネガティブな部分をうまく使って、まだまだ自分の武器を磨いたり、自分のやってなかったことに挑戦したりできる気がするから、面白い仕事ができる50代、60代になりたいですね。
あと、妻のおばあちゃんが、僕が人生で会った人の中で、飛び抜けて性格がいい人で、彼女みたいになりたいなって思いますね。もう笑っちゃうくらいいい人。親族でもない近所のおじいさんのお世話をしていて、本当の家族のように信頼されていたみたいで(笑)。最近、そのおばあちゃんが97歳で亡くなったんですけど、死ぬ前の言葉も「ありがとう」で、老人ホームや病院の人にとにかく好かれたまま死んでいった人です。孫の婿の僕にもたまに電話をかけてきて、バカみたいに褒めてくれました。
すてきなお風呂のある宿に
泊まりながらドラマを一気見したい!
──身近に憧れる人がいるって素敵ですね。最後に、プライベートについてお聞きかせください。本著でも「メンタルを整えるために、自分の興味にエネルギーを注ぐ」といったお話が出てきますが、佐久間さんが今ハマっていることは何ですか?
地方での講演の依頼をいただいたら、一人でぽんっと身軽に行くんです。仕事の合間に、「そんな場所、行くの?」っていうくらいの地元のごはん屋に行くのが好き。以前静岡で仕事をしたときは、焼津に行って、めちゃくちゃうまいフレンチに行ったんです。そこを訪れた理由は、オーナーが、とある魚屋さんが出す魚が好きすぎて、近所に出店しちゃったという面白いレストランと知って。僕は、飛び抜けて高い店ではなく、そこでしか食べられないもの、味わえない味を、仕事のついでに見つけるということを楽しんでいます。
──出張も自分だけの楽しい旅になりますね。
ごはんの話で余談ですが、最近YouTubeで『NOBROCK TV』のサブチャンネルの『BSノブロック〜新橋ヘロヘロ団〜』を始めまして、『NOBROCK TV』のYouTubeを撮っているスタジオが新橋に近いのもあって、主に新橋、虎ノ門、銀座あたりのごはん屋でロケするんです。このサブチャンに取り上げた後、どのお店もとんでもなく混むらしくて、感謝のメールが届くんですよ。こうやって新橋近辺の店を盛り上げていくことにハマっていますね。勝手に地域創生に貢献したい(笑)。僕の予約は取りにくくなるけど、いい店が潰れるよりは断然いいですから。
──『ヘロヘロ団』を観ていると、食べに行きたくなります。日々お忙しいと思いますが、リラックスしたいときにやっていることは?
今やっていることを一旦横に置いて、意識的に情報を遮断することですね。スマホを意識しない時間をつくるために、映画館に行ったりお風呂にゆっくり浸かったりしているときにリラックスできます。たまに無になるって大事なんです。
──もし近々、週末のように続いたお休みがあったら、何をしたいですか?
いいお風呂のある宿を予約して、一泊二日一人旅に行くかな。旅先で気になるところを回りつつ、基本はお風呂に入った後、ビールを飲みながら配信番組を観たい。これはかなり幸せな時間。今だったらNetflixで韓国ドラマの『涙の女王』を観始めているので、残り6話ぐらいまで観たら旅に出て、残りを宿で一気に観る。あとは、同じくNetflixの『地面師たち』はめちゃくちゃ面白くて、またじっくり観直すのもありですね。
佐久間宣行|NOBUYUKI SAKUMA
テレビプロデューサー、ディレクター、演出家、ラジオパーソナリティ、作家。 『ゴッドタン』『ピラメキーノ』『トークサバイバー!1・2』『インシデンツ1・2』『LIGHTHOUSE』などのテレビ番組、配信作品を手がける。2019年から「オールナイトニッポン 0(ZERO)」の最年長パーソナリティ、「オールナイトフジコ」 「伊集院光&佐久間宣行の勝手に『テレ東批評』」のMCとしても活躍。著書に『ラジオパーソナリティ佐久間の話したりない毎日〜佐久間宣行のオールナイトニッポン 0(ZERO)2022 – 2023〜』(扶桑社) や 『佐久間宣行のずるい仕 事術—僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』(ダイヤモンド社)などがある。企画・出演・プロデュースを手がけるYouTube チャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』は登録者数214万人を突破(2024年8月現在)。サブチャンネル『BSノブロック〜新橋ヘロヘロ団〜』も大好評配信中。
公式Instagram:https://www.instagram.com/nobrocktv_info/
公式X:https://x.com/nobrock/
公式YouTube:https://www.youtube.com/@NOBROCKTV
『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』
佐久間宣行著
¥1,540/集英社刊
発売中
日本のエンタメ界を牽引する著者・佐久間宣行自身も実は、元来のネガティブ思考、自分の弱さに悩み、不安を抱えながら生きてきた。だからこそ磨きあげられた、自分をすり減らす生きるための「自分自身をごきげんにする技術」を、余すことなく公開!
よみタイ:https://yomitai.jp/book/gokigen_gijutsu/
Amazon:https://amzn.asia/d/fTo0OhF
Photos:Kanta Matsubayashi Interview & Text:Hisamoto Chikaraishi[S/T/D/Y]
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