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この映画は、3、4年前に一度観たのですが、“数学”の話、というくらいにしか記憶に残ってなくて、もう一度観たいな、と思っていた作品です。ちょうど撮影していた作品で参考にしたいことがあり、観直してみたんです。そうしたら思いのほかすごく響いて、僕の中に刺さりまくりました!
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』
Blu-ray:2,075 円 (税込) / DVD::1,572 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
©2021 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
主人公はスラム育ちの数学の天才! 素直に本心を見せない繊細な青年
主人公はマット・デイモン扮するウィル。貧しい環境で育ってきて教育もちゃんと受けておらず、すぐ暴力をふるう粗暴な面があってケンカ三昧みたいな日々を送っています。幼なじみと一緒に清掃のバイトをしているのですが、ある時、MIT(マサチューセッツ工科大)の清掃に行くんです。そこで、優秀な生徒たちにも解けない難問をウィルが解いてしまったことから、その大学の教授に数学を学ぶようスカウトされるんです。
序盤の、“スラム育ちの天才が現れる!”みたいなところから、“おお~”とすごくワクワクしました。でもウィルは暴力沙汰で逮捕されちゃいます。留置場に先の教授が迎えに来てくれるのですが、ウィルの態度が悪すぎて話にならない。そこで教授は、ウィルを更生させようと色んな精神科医のセラピーを受けさせます。
反抗的で素直にセラピーを受けないウィルに、みんな匙を投げてしまうのですが、そこでMITの教授が頼ったのが昔の大学の同窓生。今は小さな大学で心理学を教えているショーンという先生です。そのショーン先生の言葉が深くてしみじみと胸に刺さるんです。最初のセラピーの時、いつも通りウィルは先生を傷つけることを言って挑発し、激しく怒らせます。そして2度目のセラピーの時、白鳥のいる池がある公園で、先生が「(君に言われたことで)眠れなくて、君の言葉について考えた」と話し始めるんです。
人生も芸術も、五感を使って体感することが大事だと実感!
その時に先生が、「君は、自分の言葉を何も分かっていない若者だ」と話します。それを聞いて僕も、本を読んで得た知識で知った風になっていることを、分かったことにしちゃいけない、ってすごく思わされました。写真も美術も芸術全般、実際に自分の目で、生で見るものに勝るものはないな、と。何かに触れるって、知識を得て分かった気になることではなく、自分自身が五感を使って体感すること、それが大事だと強く感じました。
ショーン先生とウィルが出会って以降、2人の関係性や話してる内容、人間同士の向き合う描写がすごく丁寧で、どんどん面白くなっていくんです。最初は頑なだったウィルも、野球の話で笑ったり、おならの話にふき出したり、だんだん反応が素直になっていってすごく面白かったです。あの「おならの話」のシーンって、アドリブなのかな。ウィルの反応というか笑い方がとても演技とは思えなくて。もしあれが演技だとしたら本当にスゴい! 普通、あんな反応は出来ないですよ。
そうして二人は少しずつ会話をするようになるのですが、先生の言葉に本当に色々と考えさせられました。自分が何をしたいのか。与えられた環境と自分のしたいことについて。受験や就職、仕事を始めてからも、いろんな選択やいろんな出会いがありますよね。そういうこと、生き方について考えるときに、この映画って一つの素晴らしい参考書だなって思いました。
セラピーとしてではなく、人間として本気でウィルにぶつかるショーン先生
ウィルがショーン先生と出会わなかったら、まったく違う人生になっていましたよね。セラピー初日には、ウィルの挑発に対してショーン先生が激怒して、感情的になって胸倉を掴む、というセラピーの先生として絶対にやってはいけないことから始まるのですが、あそこで先生が感情をむき出しにしてウィルと向き合ったからこそ、その後の2人の関係が始まったとも言えると思います。
ショーン先生は自分の亡き妻を侮辱されたと思った時に激しく怒ったのですが、ウィルからしたら、自分のことじゃなく、誰か他の人のことを思って真剣に怒る人間に驚いたと思うんです。こんなふうに突き動かされる思いがあるんだって。その初めての体験はウィルにとって大きかったと思います。
最初にウィルを見出したMITの教授は、ウィルなら数学のノーベル賞を取れる、とその才能を埋もれさせるのが惜しいんだけど、ウィルの人生なんだから、彼のやりたいことをやらせてあげようとするショーン先生とは、ものさし自体が違う。最優先事項は自分の功績なんだろうな、って。でもショーン先生は、ウィルの人生に一番重きを置いているんです。
終盤、ショーン先生に心を開いているようで、なかなかトラウマから抜け出せないウィルが、ついに泣きながら気持ちを話すシーンは、本当に心が動かされました。いろんなものがほどけていく感じがすごくしたし、それまで積み重ねてきたものがあったからこその、あの感動になったんだな、と。
愛されたことがない者は、愛を失うのが怖くて壊してしまう
ウィルの恋愛エピソードも出てきますが、ちょっと辛かったですね。ショーン先生とのセラピーの次のカットで、彼女に電話をかけたり、彼女の学生寮の前で待っていたり、めっちゃ先生の言葉に影響されてるやん、って可愛く思ったりもしました。でも、家族の愛に恵まれなかったウィルは、彼女から「愛している」と言われても、どうしても素直になれないんです。失うのが怖くて自分から捨ててしまう。すごく痛くて悲しいけれど、その気持ちって、共感できるんですよね。
というのも、ドラマ「ドラゴン桜」で藤井遼を演じた時、「愛されていないんだ、自分…」って強く思ったんです。その時、愛ってなんだろうと調べて、色々と読んだり考えたりしました。その時に学んだことからも、“失うのが怖いから行かないのではなくて、飛びこまないと何も分からないから、飛び込むことが大事なんだ”と思ったんです。それがずっと、僕の中ではこの作品までずっとつながっているんです。
実はショーン先生も、自宅のシンクは洗い物だらけだし、酒浸りになっている。きっと奥さんが亡くなってからずっと荒れていたんでしょうね。だからウィルとの出会いは、先生自身も自分を見つめ直すきっかけになったんだろうな。やっぱり人間対人間だよなって。お互い、なにかが欠落した者同士の出会いだったからこそ、化学反応みたいなものが起きたんだろうと思いました。
本作はウィル役のマット・デイモンさんが脚本を書いていて本当にスゴイですよね。演技も、最初から最後まで選べないほど、ずっといい! おならで噴き出すシーンもそうでしたが、留置所にやって来たMITの数学教授と話すシーンも、ウィルはすごく複雑な表情をしていて魅せられました。
“頑張ろう”という気持ちになれる人生の参考書
この映画は見る人によって響いてくるところも違うし、年齢によってもきっと違いますよね。どんな発見をするかも、多分人によって違うと思うんです。僕自身、3、4年前に観た時の印象と、また全然違っていたのが面白かったです。自分の変化や見る目の変化も感じられました。
僕はこの映画を観て「人生頑張ろう」って思えたので、ちょっと疲れた時に見るのもおススメです。逆に元気な時に観て、「愛すること」について、じっくり考えたりもしてみてください。人生に迷ったときの参考書になるような、本当にいい映画なので!
やっぱりショーン先生の言葉ですね。本当に深いんですよ。演じるロビン・ウィリアムズさんが、また本当にいい。ひとつ「スゴッ」となったのは、MITの教授が、最初にショーン先生に会いに行くシーン。先生が授業中の教室に行って名前を呼ぶ。一瞬、間をおいてから、ショーン先生が返事をするんですが、そこですごい違和感を覚えたんです。話が進むと案の定、やっぱり2人には過去にわだかまりがあることがわかる。それを一瞬の“間”で表現したロビン・ウィリアムズさん、本当にスゴイです。静かだけど深い演技というか。僕はどうしても「お芝居しよう、しよう」と思っちゃうのですが、ああいうシーンや演技を見ると、やっぱり人間の深さというか、何をもってして味というのか、そういうものが本当に大事なんだなって思いました。
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年 アメリカ)
天才的な数学の才と頭脳を持ちながら、幼児期に受けたトラウマから、周囲に心を閉ざして投げやりに生きているウィル。そんな彼が、妻に先立たれて人生を見失った精神分析医ショーンに出逢う。マット・デイモンとベン・アフレックがアカデミー脚本賞を受賞。ロビン・ウィリアムズも助演男優賞受賞。監督はガス・ヴァン・サント。他の出演にステラン・スカルトガルド、ケイシー・アフレック、ミニー・ドライヴァー。
少し長めの夏休みが取れまして、海外に行ってみたりもしました。勉強をしたり、お芝居を観たり、一人でわりとゆっくりと時間がとれてリフレッシュできたので、これでまたがんばるぞ!という気持ちです。
Text:Chizuko Orita
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