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近年何かと話題のホラー作品。ホラーを愛するお笑い芸人・みちおさん(トム・ブラウン)に、その魅力を取材。暑い夏の夜も恐怖で涼め!
トム・ブラウン みちおが説く。
ホラーと笑いは表裏一体!
スプラッターやゾンビものなど、大のホラー映画好きとして知られるトム・ブラウンのみちおさん。話を伺って見えてきたホラーと笑いの共通点とは?
Profile
お笑い芸人
みちおさん(トム・ブラウン)
1984年12月29日生まれ、北海道出身。高校時代の先輩、布川ひろきと2008年よりコンビでの活動を開始し、2009年には正式にトム・ブラウンを結成。「M-1グランプリ2018」の決勝で披露した“合体漫才”など、独自の視点で生み出されるネタが注目を集める。
笑わせるも怖がらせるも
根っこの部分はだいたい同じ!?
映画に出てくるゾンビよろしく、パイナップルやリンゴを握りつぶす……。そんなすさまじい特技を持つ、お笑いコンビ、トム・ブラウンのみちおさん。ゾンビやスプラッター作品を愛する彼が、これまでに観てきた映画を振り返り、ホラーと笑いの関係を考える。
「ホラー映画に惹(ひ)かれるようになったキッカケは、子どものときに観た映画『セブン』にあります。七つの大罪をモチーフにした猟奇殺人を追うサスペンスで、ストーリーも面白かったんですけど、記憶に強く残っているのは凄惨(せいさん)な事件現場。人が殺された場所の生々しさが徹底的につくり込まれており、画面越しからそのにおいが伝わってくるようでした……。それから過激な描写を求め、スプラッターやゾンビものにのめり込んでいきました。そして『死霊のはらわた』シリーズにも手を出し、高校を卒業する頃にはホラー映画をかなりの本数観ていましたね。大量の血液の飛沫(しぶき)や人体破壊など、やりすぎなまでのグロ描写は清々(すがすが)しくもあり、怖いを通り越してどこか笑えてしまう。そんなホラーの“お約束”と、その定石を打ち破ろうとする作り手の魂が合わさって生まれる、モラルやルールを超越したホラー映画の世界。あまりに突拍子もない映像表現が突然目の前に広がると笑ってしまう不思議! 実は僕らトム・ブラウンのお笑いでも、必要以上に過激な設定があったり、大ぶりのツッコミがあったり、どこかバイオレンスな要素があるんです(笑)。かつての僕が、スプラッター映画の見せ場で大爆笑していたように、今は漫才の中での過剰な演出でお客さんを笑わせています。予想を裏切るという点において、恐怖とお笑いはかなり近いものがあると思います!」
やりすぎ描写が面白い
ホラー映画3選
『死霊のえじき』
ジョージ・A・ロメロ
「ジョージ・A・ロメロのリビング・デッド3部作の最終作。大量のゾンビの個性もさることながら、指を目に引っかけて首を引きちぎったり、生きたまま腹をさばかれたり……。過激なスプラッター描写の連続が痛快」
生者と死者の数が逆転し、地球全土がゾンビで埋め尽くされた、近未来のアメリカを描く!(1985)
『スペル』
サム・ライミ
「主人公に襲いかかる、キレた老婆の迫真の演技がとにかくやばい! 緊張感が最高潮に達した瞬間に飛び出す入れ歯のカットは、思わず笑ってしまうほど。何も悪くない主人公が、不幸に巻き込まれる不条理さもいい」
仕事上のトラブルでとある老婆の恨みを買い、呪いをかけられてしまう主人公の行く末とは。(2009)
『ドーン・オブ・ザ・デッド』
ザック・スナイダー
「ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』のリメイク版。走るゾンビの怖さやパワーが印象的で、オリジナル版よりもグロ表現に磨きがかかっています。ショッピングモールに籠城した後で起こる、人間同士のドラマも面白い!」
ゾンビパンデミックが発生した地獄絵図の中で始まる、人類の生き残りをかけたサバイバル!(2004)
みちおが考える
スプラッターホラー3要素
飛び散る血は、非リアルな量出なくちゃ!
「『死霊のはらわた』シリーズをはじめ、ジョージ・A・ロメロのリビング・デッド3部作など、様々なスプラッター映画の定石ともいえる血の飛沫。ここで流れる血が多いほど怖さが増し、それと同時に笑えてもくる。大量すぎる&勢いのいい出血にスカッとします」
キャラ設定は盛るほど推せる
「スプラッター・ホラーの帝王、サム・ライミの『スペル』に登場するのは、住宅ローン滞納+ほぼ二重人格+フィジカル強め+逆恨み気質+入れ歯+呪い使いの老婆です。このように設定はてんこ盛りなほうが、推せるキャラクターになる。記憶にも残って最強!」
襲われる理由は不条理であれ
「ある日突然、脈絡なく襲いかかる不運にぐっときます。殺人鬼でもゾンビでも、または人知の及ばない何か大きな存在でも、恐怖の対象は不条理にやってきてほしい。物語の入り口までもが暴力的であるほどに、こちらもバカになって没入できると思うんです」
「怖がらせる」か「笑わせる」か。
感情の緩急がすべてだ!
お笑いもホラーも、静と動のバランス次第
「お笑いとホラー映画は、方向性は真逆のように見えるかもしれないけれど、実はお客さんの感情を動かすという、根本的な部分では同じだと思うんです。ではどうやって動かすかというと……人の心を揺さぶるリズムのようなものがあると思うんです。緊張と緩和ですよね。お笑いの場合の漫才やネタでは、ボケとツッコミが緊張と緩和の役割。それを繰り返しながら、大きな笑いの“見せ場”まで観客を引き込みつつ、感情の高まりを盛り上げていく。対してホラー映画は、物語の進行に合わせて徐々に緊張感を高めながら、ここぞ!という怖さの最高潮のところまで持っていく。でも、その間にも必ず緊張と緩和があると思うんです。さらに、お笑いのオチや、ホラー映画のクライマックスでは、予想を裏切る展開が必須! そんな構造になっているからなのか、お笑い芸人やクリエイターには、ホラー映画好きが多いように思います。お笑いとホラーは感情のプラスとマイナスを起こす、真逆のイメージがあると思うんですが、実はすごく似ているんですよ」
やりすぎ!?くらいでちょうどいい!
トム・ブラウンの漫才の場合……
ツッコミもできるだけ過剰に
みちおさんの頭頂部に、目にも留まらぬ速さと大きな動きで繰り出される相方、布川さんのツッコミという名の一撃。トム・ブラウンの世界観を象徴する、なかなかにハードな演出だが、ここまでの話を聞くと、ホラーの過剰演出と重なる部分が感じられる。
「今どき、あんなふうに頭をたたかれる人を見る機会なんてそうそうないじゃないですか。一般社会でやってはいけないようなことを、テレビや舞台で堂々と披露しているわけだから、スプラッターホラーのお約束である“不条理”プラス“過剰な暴力”に通じる面白さは、確かにあるように思います」
漫才に欠かせない“ツッコミ”だからこそ、そこにオリジナリティが出るというのも、ホラー映画の“定石を押さえながら、いかにインパクトを残すか”という点にも通じる。トム・ブラウンの漫才では、ツッコミの炸裂(さくれつ)音もなかなかのインパクト!(見たことない、なんて人はぜひチェックを!) だが、それがお笑いとして成立するのは、みちおさんの体格やキャラクターあってこそなのだという。
「僕がもしガリガリで弱そうな見た目だったら、あのツッコミも笑えないかもしれません。“みちおならあれくらい平気でしょ”っていうふうに、観てくださる皆さんの中で、なんとなく共通するイメージが形成されているおかげで、僕らのホラーなお笑いをお届けできています(笑)。過剰なキャラ演出という点も、やっぱりホラーと似ていますね!」
ネタそのものにホラーを投入!
お笑いの舞台に狂気を持ち込む
設定やボケにはバイオレンスな要素も
M-1グランプリ2023の敗者復活戦で披露され、お茶の間に大きな反響を呼んだ「スナックの迷惑な客の首の骨を折る」ネタなど、猟奇的かつバイオレンスな世界観を、巧みなさじ加減でお笑いとして成立させるトム・ブラウン。このようにぶっ飛んだ発想が生まれてしまうのも、やはりスプラッターホラー好きのサガなのだろうか。
「何かしらの骨を折るシリーズの始まりは、“先生をお母さんと言い間違えた生徒が、それをごまかすために先生の首の骨を折る”というものから。そして“盗撮してきたサラリーマンの腕をお尻で折る”ネタ、次にM-1グランプリ2023の敗者復活戦の“首折り”というように、どんどん派生していったんです(笑)。本来であれば、嘘(うそ)っぽすぎる設定はウケないというお笑いの定石があるのですが、このシリーズはお客さんからも芸人仲間からも、なぜか抜群にウケがいい気がします。怪力というキャラのせいか、本当にやりかねないと思われているのか。僕がやると違和感がないのかもしれませんね(笑)。あとは漫才の中で、“何かと何かを合体させる”シリーズとか。ああいうとっぴな設定が頭に浮かんでくるのも、何でもアリなスプラッターホラーを観て育ったからなのかなぁ。けど間違いなく、僕がついついバイオレンスな設定をネタに入れたくなってしまうのは、突き抜けた設定の先にある笑いが好きだからですね。バイオレンスシリーズの今後にご期待ください!」
My favorite ホラー
Michio
映画
『ゴーストランドの惨劇』
「暴漢に襲われたトラウマを抱えた姉妹が、再び恐怖に見舞われる。ありがちな設定なのに、迫りくる男の描写が恐ろしすぎて!」
Illustrations:Shun Suzuki Text:Kanta Hisajima
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