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近年何かと話題のホラー作品。ホラーを愛する漫画家・田口翔太郎さんに、その魅力を取材。暑い夏の夜も恐怖で涼め!
『裏バイト:逃亡禁止』の
作者・田口翔太郎先生、降臨!
ホラー漫画は面白い!
各所で話題沸騰の最恐ホラー漫画『裏バイト:逃亡禁止』の作者をお招きし、怪異の生み出し方から、恐怖の演出に至るまで、その心の内を丸裸に!
©田口翔太郎/小学館
Profile
漫画家
田口翔太郎
漫画アプリ「マンガワン」、漫画配信サイト「裏サンデー」にて『裏バイト:逃亡禁止』が大人気連載中。最新コミックス13巻は7月11日に発売! 実は単行本のカバー裏にはオマケ漫画もあり、それも見逃し厳禁だ!
ギャグ描写があるからこそ
恐怖が冴(さ)えて感情が揺れ動く
漫画アプリ「マンガワン」で2020年より連載がスタートした『裏バイト:逃亡禁止』。本作は主人公の黒嶺ユメ(以下、ユメちゃん)と白浜和美(以下、ハマちゃん)が、常識から逸脱した“超”高時給な裏バイトを通じ、得体(えたい)の知れない怪異と対峙(たいじ)していくお話だ。今や同アプリの看板作品のひとつとして知られるホラー漫画だが、作者の田口翔太郎先生は、いかにしてこの怪作を描くに至ったのだろう。ホラーに魅せられた漫画家の心の内をのぞいてみる。
「ホラーを意識し始めた原体験を振り返ってみると、衛星放送で観たアニメ『ザ・シンプソンズ』のハロウィン回を思い出します。ふてぶてしくもかわいげのあるキャラが殺し合うお話で、やりすぎなグロ描写がかなり怖いのに、どこか面白おかしい。その着地が新鮮だったんです。以来、ジャンルを問わずホラーを摂取するように。それを続けていく中で、ホラーとギャグは両立させられると気がついて。笑いと怖い、その感情の振り幅があるからこそ、読み手側がいっそう恐怖を感じてくれる気がします。過去に一度、笑いを排して恐怖だけをあおった読み切りを描いたことがあるのですが、手応えがあまりなくて。だから僕のホラー漫画は、恐怖をより際立たせるエッセンスとしても、ギャグの要素が欠かせません」
どんなコンテンツよりも
自由なホラー漫画の世界
「推理小説やサスペンス映画って、謎を解明するまでが一番面白い。あくまでも僕の場合ですが、黒幕の正体がわかってしまうと没入していた緊迫感が薄れちゃうんですよね。こと漫画において、最近のミステリーや王道のバトルものは、まいた伏線や謎をきちんと回収し、読者をすっきりさせて終わるのが一般的。だけどホラー漫画は、謎を謎のままにしても許される。怪異や超常現象など、人間の理解が及ばない“大きな何か”が存在するという構造が、創作の幅を広げているんです。話としてある程度の決着はつけても、大枠の謎はそのままに、ストーリーを進めることができる。そんな自由度の高さがホラー漫画の醍醐味(だいごみ)かな。単純だけど、“わからないもの”って怖い。だから謎の正体や怪異の意図が明かされないことで魅力が増す……と思うのだけれど、連載を続けるうえでは、読者を置いてけぼりにしないのも大切です。なので人間の理解がとうてい及ばない怪異と、意図が少しだけ透ける怪異。そのバランスを意識し、恐怖を演出しています」
実在するバイトに始まる
“恐怖”の作り方
主人公のユメちゃんとハマちゃんが手を出す様々な裏バイト。ホールスタッフやコンビニ店員など、肩書だけは身近なアルバイトだが、その業務の内容は常に狂気へとつながる可能性をはらんでいる。このストーリーはどのようにして生まれたのだろうか。
「この物語は、職業と怪異がセット。なのでまず、題材となるアルバイトを決めるところからプロット作りが始まります。僕自身や編集さんが過去にやっていたアルバイトを参考にしたり、ネットで変わった仕事を探したりして。そして打ち合わせを重ね、大まかなテーマを決めた後、オチを考え、恐怖の種となる仕掛けをちりばめて、ひとつの話ができあがります。そして実は、2人が手を出す裏バイトは基本的に現実にあるものだけ。4巻に登場する『空き地探し』のように、とっぴと思える仕事も実際に存在するバイトです。そうすることで作中のリアリティが増して、そこに怪異という異物を投げ入れたときに起こる恐怖が、読む人にとっても隣り合わせのものとして感じられる。“怖い”を鮮明にしていく要因ですね」
4年という週刊連載を今日まで続ける中で、ストーリーの構成にも変化があったそう。
「連載が始まったばかりの頃は、ひとつのテーマを、起承転結の4話構成で描いていたのですが、書き込まれるコメント数などを見て、現在は3話の構成になっています。こうしてリアルタイムのリアクションを踏まえたうえで、作品作りができるのもWEB漫画ならではの手法ですね。おかげで1話のページ数が増え、毎週の締め切りはキツくなってしまいましたが(笑)」
漫画ならではの演出で
根源的な恐怖を膨らませる
作中で起こる種々雑多な怪異はなぜこんなにも恐ろしいのか。田口先生の内にある、恐怖の根源を探っていく。
「前提として、死という概念が根源的な一番の恐怖だと思っています。死=終わり。そんな最も避けるべき結末が、音もなく迫ってくる恐ろしさ、さらにそれを切り抜けたくとも、怪異相手にこちらの常識が通用しないという心許(こころもと)なさ。そんな不条理を描きたいんです」
読者が思わず引き込まれてしまう、手に汗握る超常現象との攻防。圧倒的不利を人間に押しつける怪異は、何げない発想から生まれてくるのだという。
「自分の中にある恐怖の種を育てて、物語に肉づけしていくんです。例えば、僕は人間の顔にだって恐ろしさがあると思っていて。目や鼻、口などの位置が少し変わるだけでおぞましい表情になるし、逆に配置が整いすぎていても不気味になる。笑顔がどれだけすてきな人でも、裏では何を考えているかわからない。顔が怖いっていう感覚だけでも様々なバリエーションがある。このように発想を積み重ねて、怪異の輪郭が見えてくるんです。あとはオチのここぞという場面で、コマの外まで使って恐怖や笑いの表現を加速させるなど、漫画ならではの表現も非常に有効です。この手法を使って10巻収録の『実験助手』の回で、ぶっとびキャラの橙(だいだい)が他人の精神を侵食するさまを表現しています」
得体の知れぬ怪異を前に、毎度なんとか生き延びるユメちゃん、ハマちゃんの奮闘をはじめ、超ド級の低脳っぷりで、だいたいの狂気をはねのける人気キャラクター・橙が登場するギャグ回など。多種多様な神回が生まれた『裏バイト:逃亡禁止』だが、作者の田口先生が一番気に入っている回とは。
「これはぜひ読んでほしいのがあって、5巻収録の『海の家スタッフ』の回ですね。夜の海の怖さをテーマに描いた話で、人知の及ばない自然の恐ろしさ、正体が判然としない怪異の表現、物語としての着地点など、そのどれもが自分の想定していた以上の出来栄えになりました。この漫画のすべてが、この回に詰まっていると言っても過言ではありません! 意味不明なバケモノも登場するし、当たり前のように人がたくさん亡くなるし、よくよく考えると内容はかなり重め……。だけど自分の追求する、この作品の面白さが凝縮されていると思います。ハードな物語ですが、主人公2人のポップな掛け合いや、今後の展開にも注目してもらえたらうれしいです!」
My favorite ホラー
Shotaro Taguchi
漫画『不安の種』
中山昌亮作/秋田書店
「じっとりと迫る狂気、気味が悪すぎる異形の造形など、ページの全部がとにかく怖い。参考にしているところもたくさんあります!」
Text:Kanta Hisajima
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