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5作目
グレッグ・モットーラ
『スーパーバッド 童貞ウォーズ』
©2007 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
監督/グレッグ・モットーラ 出演/ジョナ・ヒル、マイケル・セラほか 発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント デジタル配信中
卒業を2週間後に控えた男子高校生のセス、エバン、フォーゲルは冴(さ)えない童貞3人組。ふとしたきっかけで、人生で初めて女の子からパーティに誘われたセスだったが、思わずその場にお酒を調達していくことを約束してしまう。高校生には難しいミッションだが、夢見た初体験への絶好のチャンスを逃すまいとする3人は、お酒をゲットするためにあらゆる行動に出て…。
お前に泣かされるとは
『スーパーバッド 童貞ウォーズ』。日本版でつけられたこの謎の副題のせいで、本作は男子たちによるおバカで下品なB級映画というイメージがついてしまっている。許せない。本作は青春映画の最重要作だ。気だるそうに車を運転しながら登場するジョナ・ヒルのファーストカットから、ラストカットまで毎秒青春で埋め尽くされている。
本作では、卒業を2週間後に控えた男子3人が初めてパーティに参加する一夜が描かれる。後悔ばかりの高校生活に終止符を打つべく、その晩、意中の女子とセックス致すことをめざし奮闘するのだ(あらすじだけ書くと下品でバカっぽいことは否めない…)。
まずメインの3人組がちゃんとみっともなくて、青春そのものの顔をしているところがいい。ルックスも性格も、キャラクターとしての3人のバランスが秀逸だ。3人そろえば最強!…ってわけではないけど最高なのだ。最強じゃなくていい。僕は「3人組」が大好きで自作でもたびたび描くのだが、『スーパーバッド』の3人はいつでも最初に思い浮かべる。
先日、久々に観賞してみたら、下ネタを女性蔑視的なギャグのように扱かったり、間違った男同士の連帯を示すようなホモソーシャルノリがさすがにしんどい瞬間もあった。だがしかし、この手の題材を扱っている割には、作品としての古さを感じることは少なかった。
主人公が、「女子としっかり向き合うことができない思春期のこじらせ」から脱却していくさまが描かれていくので、下ネタの数々も彼らの成長にとって必要なピースであることが徐々にわかってくる。
なんだかんだあり(その過程がいちいち面白い)、結局セックスには至らなかったが、それぞれが学びを得る。
孤独のよりどころとしてや、酒の力を借りてやるセックスの無意味さや危険性をコメディの中でしれっと描いているところがニクい。実は孤独な男性性と向き合う一作でもあり、そのあたりの価値観こそが、今でも古く感じないゆえんなんだと思う。
そしてなんと言ってもラストである。
「時間はいくらでもある」とダラダラ過ごしていた、おバカな男子たちの時間が突然終わりを告げる。急だと感じるけど、それと同時にいつか終わるとわかっていた時間でもある。無意味で愛(いと)おしい季節の終わりにはとびきりの切なさがある。ここでのエスカレーターを使った演出がこれまた胸を締めつけてくるのだ。なんてことないショッピングモールがドラマチックに変容する。おバカで下品なB級作品と思わせてのこのラストはずるい。
まさに、入り口と出口が違う映画。「まさかお前に泣かされるとは」っていう映画は至高だ。
そう考えれば、『童貞ウォーズ』というバカみたいな邦題も悪くない。というか、実はかなりいいネーミングなのかもしれない。
松本壮史
2021年『サマーフィルムにのって』で長編監督デビュー。その他作品に、映画『青葉家のテーブル』、ドラマ『ながたんと青と』(WOWOW)、『親子とりかえばや』(NHK)、『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)など。第13回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞 新人監督賞受賞。
Photo:Masanori Ikeda(for Mr.Matsumoto) Title logo & Illustrations:Tsuchika Nishimura Text:Soushi Matsumoto
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