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ミュージックフリークの鈴鹿央士が、昨年レコードショップで偶然出合いハマった一枚のレコード。それというのは、80年代シティポップブームをけん引するアーティストのひとり、当山ひとみさんの「SEXY ROBOT」だ。
なんと今回、ふたりの対談が実現。音楽とお芝居、異なる表現のフィールドで活躍するふたりが、エンタメ作品の楽しみ方や仕事への向き合い方など、自由にトークを繰り広げた。
当山ひとみ●沖縄県出身。愛称はPENNY(ペニー)。1981年に、シングル「ドア越しのGOOD SONG」でデビュー。『NEXT DOOR』『SEXY ROBOT』など計13枚のオリジナルアルバムをリリースした。近年のシティポップブームの後押しもあり楽曲の再評価が高まっている。2023年には、Night Tempoのアルバムに歌と作詞で参加。現在も精力的にライブ活動を行なっている。今年3月に、オールタイム・ベスト・アルバム『Pretty Penny』がリリースされた。
日本コロムビア公式サイトでもチェック!
https://columbia.jp/artist-info/tohyamahitomi/discography/COCP-42211-2.html
入口は有名な一曲でいい。そこから探り出す“自分の感性に刺さる音楽”
鈴鹿:今回、当山さんにお会いできて光栄です。
当山さん(以下敬称略):私もすごく嬉しいです。鈴鹿さんは音楽好きだと伺ったのですが、普段はどんな音楽を聴くんですか?
鈴鹿:いろいろ聴きますが、最近は、(フランツ・)リストにハマっています。
当山:クラシックを聴かれるとは! 私のファミリーは音楽好きで、父はクラシック、母はカントリーと沖縄民謡、私と姉はソウルとロックに夢中でした。父が家にいる時は、クラシックしか聴けなかったので、一時期はクラシックが大嫌いの時期もあったんですが、今はすごく好き。リラックスしたい時にいいですよね。私は、特にチャイコフスキーがお気に入りです。
鈴鹿:チャイコフスキーもいいですよね! あと、僕はドビュッシー、モーツァルト、ショパンも聴きます。全員、超有名どころですが……。
当山:何でも最初は有名どころから入るものですからね。ポップスにしても入り口は、誰もが知る有名曲かもしれないけれど、そこから色々と掘っているうちに「自分だけしか知らないのでは?」という曲にたどり着く。その瞬間ってすごくうれしいですよね。
鈴鹿:たしかに、そうですね。新しい音楽との出合いってワクワクします。それこそ、当山さんの音楽との出合いは、レコード屋さんでした。いいレコードがないかな?と探っている時に、『SEXY ROBOT』を偶然見つけて。ジャケ写のカッコ良さと、値段の高さに興味をそそられて聴いてみようと思ったんです。
当山:そんなに高かったの?
鈴鹿:そうなんです。そこのお店は安いレコードが多いので時々行くのですが、『SEXY ROBOT』は14,000円くらいしたんですよ。
当山:わぁ、それはすごい!
鈴鹿:購入して聴いてみたら、しみじみいいなと思いました。
当山:若い方にそう言ってもらえるのはすごくうれしいなぁ。
鈴鹿:ちなみに収録曲の中で、特に好きな曲は、「BEHIND YOU」です。
当山:さすが! センスが素晴らしい! あの曲は私のイチ押しでもあって、ソウルっぽさがいいんですよね。
鈴鹿:レコード屋さんから帰ってきたのが20時半頃で、その時間に聴いたらすごく沁みて。この曲に包まれるような感覚に陥りました。
BEHIND YOU (2021 Remaster)
鈴鹿:「SEXY ROBOT」のレコーディングは、どんな感じだったんですか?
当山:ドタバタでした(笑)。作詞家の先生からなかなか歌詞が上がってこなくて(笑)。1番のレコーディングが終わった頃に、2番の歌詞があがってきて……といったように、レコーディングと歌詞の出来上がるタイミングが同じということもありました。コーラスは、昔六本木にあったバーで歌っている黒人の方にお願いしていたのですが、そのことも鮮明に記憶に残っていますね。その方たちは、19時〜朝4時まではバーで働いているのに、13時〜18時のレコーディングに参加してくれて。いつも「喉が強いな。すごいな」と感動していました。
鈴鹿:鉄人ですね!
当山:もうひとつ、レコーディングといえば、当時はアナログの時代で、今のように機械でボーカルを補正することが簡単にできない時代だったんですね。だから、毎回自分が納得できるまで、その時点の自分のパーフェクトを目指してレコーディングに挑んでいた。今の時代まで曲が残って聴いていただけるのは、そういうところにあるのかなともふと思います。
映画がインスピレーション源。
ふたりが刺激を受けた作品とは?
当山:休みの日は、何をして過ごすの?
鈴鹿:映画を観ることが多いかもしれないです。
当山:私も映画を観ることが好き。去年は、ゴスペルのアレサ・フランクリンの『リスペクト』をはじめとした音楽映画をよく観ましたね。鈴鹿さん、何かおすすめの作品はありますか?
鈴鹿:最近観ていいなと思った作品は、ジュリア・ロバーツがヒロインの映画『ノッティングヒルの恋人』です。少し前に、ひとりでロンドンを旅したのですが、ホテルがハイドパークの近くで。映画のロケ地として有名な本屋を見に行ってきました。
当山:私も『ノッティングヒルの恋人』は好き。
鈴鹿:素敵な作品ですよね。その映画を観たあとに、『プリティ・ウーマン』と『終わらない週末』といったジュリア・ロバーツが出演している他の作品も見ました。
当山:『終わらない週末』は観たことがないわ。
鈴鹿:オバマ夫妻がプロデューサーを務めた、昨年に公開されたNetflixオリジナルの社会派映画です。サスペンスやミステリー作品がお好きだったらおすすめです。
当山:ミステリー系は大好きだからチェックしないと。でも面白いですね。ひとつの作品を観たら、そこに出ている俳優さんの他の出演作品を深掘りしていくところが。
私は歌詞を書くためのアイデア探しで、毎日1作品観ていた時期があるのね。曲を作る時に私の場合は、最初にタイトルを決めるのですが、映画を観て「スクリーム」という言葉がいいなと思ったら、そこから想像を膨らませて、何をスクリームする? 恋愛? それとも……といった感じで作詞を進めていました。
鈴鹿:タイトルから作るんですね!
当山:そうなの。曲もイントロが大事だと思っているので、いちばんこだわりますね。
鈴鹿:あぁ、いい人間関係は初対面が肝心というし、音楽も最初に聴いた時の感覚が大事というのは分かる気がします。僕自身、イントロで「あ、この曲はいい」となることが度々ありますし。ご自身の曲で、イントロがお気に入りの曲はどれですか?
当山:「言い出しかねて」ですね。ファンのみんなもこのイントロが流れたとたんに、「あ! あの曲が始まる」と一瞬で分かるくらい印象的な始まりです。でも、ライブではイントロをやらないことも(笑)。音源通りに歌うことも大事だけれど、同じ曲を何十年も歌い重ねていると、アレンジを加えたくなってしまうのよね。
鈴鹿:俳優の場合、同じお芝居を繰り返すといっても、ドラマや映画だとせいぜい1時間か半日。何十年も同じ作品に取り組むってことがない。舞台だと、同じストーリーを何度も演じることがありますが、音楽のように何十年も、ということは基本的にないんですよね。
当山:舞台に出たことは?
鈴鹿:まだなんです。月日をかけてひとつの表現を練って、ブラッシュアップさせていくという経験をしたことがなくて。音楽を生業にされている方が、ライブで同じ曲を歌い続けている様子を見ていると、表現を磨いていける点はいいなと思う一方で、大変そうだなとも思います。やっぱり、人は同じことをやると、“飽き”や“慣れ”が出てくると思うので、そことはどう向き合っていますか?
当山:“飽き”や“慣れ”というのはないかも。毎回100%で歌っていても、1〜2時間後、1年後の自分は成長しているから、 同じ曲でも歌うたびに違うんですよ。例えば、「あの時に出なかったファルセットが、今は出た」といったようにね。ささいな変化に目を向ければ、そこは乗り越えられると思います。
音楽は“3分間のドラマ”。イメージを膨らませてカッコいい自分になる。
鈴鹿:「SEXY ROBOT」もそうですが、当山さんの作品は、すごく大人っぽいムードが漂っていますよね。
当山:大人っぽい曲を歌っていた20代の時は、映像作品を見てイメージを膨らませていましたね。行ったこともない、体験したこともないけれど、想像して表現する。私の曲の中に、ハイスピードで運転している曲があるんですが、それを歌うたびに、ドライブするカッコいい自分を思い描いて、「自分はいい女だな〜」と思っていました。実際は運転できないけれど(笑)。音楽は、“3分間のドラマ”と言われるけれど、そこが歌手という仕事の面白さですね。
鈴鹿:“3分間のドラマ”で思い出したのですが、よく若手の俳優仲間とこんな話をするんです。ドラマだと約45分、映画だと約2時間、僕らはそれだけの時間をかけてメッセージを伝えるけれど、音楽は、たった3〜4分の言葉とメロディで人の心を動かせることがすごいよね、と。
先ほど、“曲の主人公を想像してなりきる”とおっしゃっていましたが、俳優という仕事の面白さも、お芝居を通して別人になれるところにあるかなと。自分を生きているだけでは体験できないことを体験できる。そこは、歌手という職業と似ている部分だなと思いました。お芝居中は、何をやってもいいというか。そこが演技の楽しさですね。
当山:ドラマ『闇バイト家族』を観ています!(注:対談は3月末に行いました)。この作品の役も、また面白い体験ですよね。
鈴鹿:そうですね、闇バイトなんてお芝居上でしかできないので(笑)。
当山:やっぱり、役柄を通して、自分とは違う人生を生きると新しい自分を発見できますか?
鈴鹿:新しい価値観を得られますし、役について考えている時に、「自分にもこういう考えのベクトルがあったんだ」と発見することはよくあります。
当山:やっぱり! 素敵ですね。
私、ひとつ聞きたいことがあって。突然ですが、鈴鹿さんは歌いますか?
鈴鹿:歌ですか!? 歌わないです……。
当山:なんだか歌えそうだなと思って。
鈴鹿:役で歌手役がきたら……!
当山:(窓の外に向かって)ドラマ関係者のみなさん、鈴鹿さんにシンガーの役をお願いします! ピアノも弾けるんですよね?
鈴鹿:ピアノは、映画『蜂蜜と遠雷』でピアニスト役だったので練習して弾けるようになったというくらいで。
当山:きっかけは役柄でも、弾けるようになることが素晴らしい! 役者さんは音楽にしろ、スポーツにしろ、短期間レッスンしただけでできるようになってしまうところが本当にすごいですよね。いつも感動するんですよ。私と集中力が違うんだろうなと。
鈴鹿:そう見えるのは、編集の力もあると思います(笑)。ひとつ面白い話があって、ハリウッド映画では、手元をCGで描いているものもあるそうです。でも『蜂蜜と遠雷』は、「実際の手で撮りたいので、できるだけ弾けるようになってください」とのことで、3ヶ月くらいかけてマスターしました。
当山:すごいですよ、たった3ヶ月。今もピアノは弾くんですか?
鈴鹿:今は弾かないですが、一応部屋にはキーボードがあって、ドビュッシーの「月の光」はちょっとだけなら弾けます。
当山:そばに置いてあると、思い立った時に弾けますよね。私は今、ウクレレを練習していて、いつかライブでウクレレを弾きながら歌いたいなと思っています。
鈴鹿:僕はベースを弾く先輩俳優さんに、「鈴鹿くん、ギターはいいよ。弾こうよ」と言われて、ギターを買ったんですけど、指が全然動かなくて……部屋のオブジェになっています。
当山:ギター似合う! 弾いている姿が想像できるし、カッコいいと思う。もちろんピアノを弾いている鈴鹿さんもいいんだけれど、ギターいい。
鈴鹿:あ、本当ですか? じゃあ今日、家に帰ったら弾こうかな…。
当山:先輩とデュオでやったら? 私、歌いに行きますので。アコースティクライブをいつか。
鈴鹿:練習しないと……‼︎
当山:コーラスもやってもらって。
鈴鹿:僕がコーラスも!?
当山:そう、いつかね(笑)。鈴鹿さんは、今やってみたいことはあるんですか?
鈴鹿:やっぱり音楽が好きなので、楽器はやってみたいなと。最近、ジャズを聴いた時に、サックスが入っていてすごくカッコいいなと思ったので、サックスとか?
当山:あぁ〜サックスも似合う。カッコいい! テナーサックスができるようになると、フルートもできるようになりやすいんですよ。
鈴鹿:そうなんですね。あぁ〜時間が足りない!
当山:じゃあ、まずはギターかサックスを。
鈴鹿:とりあえずギターで!
当山:ふふふ、音楽が本当に好きなんですね。今日はいろんなお話ができて楽しかったです。
鈴鹿:僕もです。ありがとうございました。
J-DIGS
日本で最も長い歴史を持つ音楽レーベル「日本コロムビア」の膨大なアーカイブを中心に日本に眠っている良質な音楽を発掘し、世界に紹介するプロジェクト。当山ひとみをはじめとする、7~80年代シティポップ・ジャズを中心に作品を発信中。
当山ひとみインタビュー映像: https://www.youtube.com/watch?v=86evPAnzw5A
Official HP: https://columbia.jp/j-digs/
YouTube: https://www.youtube.com/@J-DIGS
Spotify: https://open.spotify.com/user/hewaor7wh2rmwrc3qd4ji8lux
Instagram: https://www.instagram.com/j_digs_/
Photos:Shintaro Yoshimatsu Hair&Make-up:Yumiko Chuugun Interview&Text:Rie Kaido
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