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4作目
細田 守
『時をかける少女』
©「時をかける少女」製作委員会2006
監督/細田 守 声の出演/仲 里依紗、石田卓也、板倉光隆、垣内彩未ほか 販売元:株式会社KADOKAWA Blu-ray¥7,260
時間を飛び越えて過去に戻れる「タイムリープ」の力を手にした、女子高生の真琴。その力を繰り返し使って、自分の過去をやり直すうちに「人生のかけがえのない時間」の意味を見つけていく…。1983年公開の大林宣彦監督&原田知世主演映画版を筆頭に、あらゆる形でリメイクをされた『時かけ』。こちらは、細田守監督の手によって初めてアニメーション映画化された作品。
台詞(せりふ)が作り手のもとを
離れるとき
10代の終わりに観たアニメーション映画『時をかける少女』(細田守監督)は、特別な映画体験となった。
夏、三角関係、初恋、進路――。青春の定番モチーフでいっぱいにしながら、そこにSFの要素が絡んでくる本作には、自分の長編デビュー作『サマーフィルムにのって』でも、隠せないほど大きな影響を受けている。
ひょんなことからタイムリープの能力を身につけた真琴は、カジュアルに時を戻しては、同じような日常を繰り返す。
本作では、タイムリープがモラトリアムの延長装置として機能しているのが面白い。友情が恋愛という形になってしまいそうな瞬間に、エイヤッと過去に逃げたりして、真琴は大人になることを拒み続ける。しかし、モラトリアムには必ず終わりがくる。
真琴がタイムリープできる残りの回数を知ったとき、物語は動きだす。青春映画といえば、タイムリミット。このあたりから、今まで何度もリメイクされてきた『時かけ』をアニメーション映画にした意義がだんだんと見えてくる。
真琴はことあるごとに走って、跳んで、転がる。エネルギッシュにスクリーンを躍動し、物語を推進させる。
友達のために全力疾走するが坂を転げ落ちてしまい、間に合わないというシーン。ここの表現がすごい。華奢(きゃしゃ)な女子高生が地面に跳ねつけられ、青あざと血にまみれる。前半のほんわかしたラブコメっぽい雰囲気から一転。実写ではまず表現できないほどの痛みと、絶望が画面を支配する。
僕が好きな青春映画の成長には、必ず痛みが伴う。主人公の成長のためになくてはならない後悔を含む、苦くて痛い感情が、説得力を持って描写されている。
そして終盤。あるシーンで出てくる、「未来で待ってる」という千昭の台詞。「この世の創作物で一番好きな台詞は?」と聞かれたら、即答するほど好きな台詞である。
正直、この台詞の真意は僕にはわからない。解釈の余地が多分にある台詞だ。その後に続く真琴の「うん、すぐ行く。走って行く」も文章としてはおかしい。だけど最高なのである。今まで散々走りまくってきた、真琴が言うからこそいい(CV:仲里依紗氏による少女と少年の間のような声によって、永遠の輝きを放っている!)。
この台詞のやりとりは、監督や脚本家の奥寺佐渡子氏さえも、本当のところの意味はわかっていないのではと(勝手に)思っている。言葉が作り手のもとを離れて、登場人物である2人だけのものになったように見えた。
初めて本作を観たとき、台詞の意味はわからないけど感動した。そのわからないけど感動したという感情は、わかって感動するよりも出会ったときに心に残る気がしていて、自分は今もその感情になりたくて映画や本に手を伸ばしている。
松本壮史
2021年『サマーフィルムにのって』で長編監督デビュー。その他作品に、映画『青葉家のテーブル』、ドラマ『ながたんと青と』(WOWOW)、『親子とりかえばや』(NHK)、『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)など。第13回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞 新人監督賞受賞。
Photo:Masanori Ikeda(for Mr.Matsumoto) Title logo & Illustrations:Tsuchika Nishimura Text:Soushi Matsumoto
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