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3作目
ガス・ヴァン・サント
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』
©2021 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
監督/ガス・ヴァン・サント 出演/ロビン・ウィリアムズ、マット・デイモンほか 販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント Blu-ray¥2,075
清掃員として働くウィルは、幼い頃のトラウマが原因で周囲に心を閉ざし、非行を繰り返す。ある日ウィルは、職場のマサチューセッツ工科大学で数学の難問をいとも簡単に解いたことをきっかけに、同大学の教授にその天才的な頭脳を発見され、心理学者のショーンを紹介される。妻を亡くして失意の中にいるショーンと交流していくうち、ウィルはしだいに心を開いていき…。
別れこそ青春映画の醍醐味(だいごみ)
誰かと親密になるって、すごく大変な作業ですよね。相手にとってのNGを慎重にかいくぐりながら、質問を重ね、共通点を見つけつつ自分のよさも(いい塩梅(あんばい)で)アピールする必要がある。恋愛もですけど、それ以上に誰かと友情を育む難しさについては常々考えてしまいます。
今回は、人とどう向き合うかっていうことがテーマのひとつである、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』について書いていきます。
天才的な頭脳を持ちながらある問題を抱えている青年ウィルと、ウィルのカウンセリングを担当することになる心理学者のショーン。親子ほど年の離れた2人の心の交流によってウィル自身が成長していく青春ストーリーです。
他人と話すときはきまって、自分が傷つかないように自らのことを語らずに本で得た知識をしゃべり倒すウィルを、ショーンは強く批判します。対してショーンは、相手を知るために、自分の話をします。自分の言葉で、何げないおしゃべりや完璧ではない自分をさらけ出すことによって、ウィルの心が解きほぐされていき、少しずつ距離が縮まっていく。年齢や性別、役職にとらわれず、こんなふうに人と対話できたらと心底思います。
余談ですが、ショーンの部屋の美術が本当に魅力的です。たくさんの本や物たちが適度にあふれているけどやたらと居心地のいい部屋は、懐の深いショーンというキャラクターを表しています。あらゆる映像作品の中でもトップクラスに好きな美術なのでぜひ注目してください。
それと好きなシーンをひとつ。序盤、一夜のから騒ぎを経てウィルと幼なじみたちが車で帰路につくシーン。朝日に照らされる車内の4人に会話はなく、窓の外をぼんやり眺めている。朝帰りの気だるさと将来への漠然とした不安が入り交じったそれぞれの表情には何とも言えない味わいがあります。対話が重要な役割を占める本作において、この無言シーンがものすごくいいんですよね。
また物語の後半では「どう生きていくか」というもうひとつのテーマが大きく前に出てきます。青春映画にとってかなり普遍的なテーマなのですが、本作では中年であるショーンもウィルから刺激を受けて新たなことを始めるようになっていきます。その相互作用もすばらしい。
そして、ラストにウィルはある決断をします。
僕は「青春映画」とは別れを描く映画でもあると思っています。ひとつの青春が終わるまでの時間だけでなく、その終わりをどう描くかも同じくらい重要。「青春」とは限られた期間だから。
今作で描かれる別れがまた秀逸なんです。予想を少し裏切ってくれて、泣けて、ユーモアもある。別れの寂しさと旅立ちの希望がまぜこぜになった名ラストです。あのラストカットのための映画だったんだなと思ってしまうほどです。
松本壮史
2021年『サマーフィルムにのって』で長編監督デビュー。その他作品に、映画『青葉家のテーブル』、ドラマ『ながたんと青と』(WOWOW)、『親子とりかえばや』(NHK)、『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)など。第13回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞 新人監督賞受賞。
Photo:Masanori Ikeda(for Mr.Matsumoto) Title logo & Illustrations:Tsuchika Nishimura Text:Soushi Matsumoto
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