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10代の頃にパンクロックに夢中になり、そこからファッションやアートの世界に興味を持つようになった。やがてグラフィックデザインの道に進み、その強靭(きょうじん)なクリエイティビティを武器に、映像や立体、インスタレーション、音楽など、ジャンルを超えたさまざまな表現方法で膨大な量の作品制作を行っている。「ずっと何か妄想していて、常につくりたいものがある」。そう語るこの人にインタビュー。
音楽との出会いから
世界は広がっていった
――まずはグラフィックやアートといったものに興味を持つようになったきっかけを教えてください。
YOSHIROTTEN 10代前半、それこそ12歳か13歳ぐらいのときに、音楽に出会って、そこからファッションだったり、アートだったりに広がっていったのが始まりです。音楽はパンクロックから入ったんですけど、レコードジャケットやミュージックビデオ、バンドTシャツなどを通して、普段目にしないようなアートワークやデザインがとにかくかっこよくて夢中になりました。あと、スケートボードをやっていたので、そこでグラフィックデザインに興味を持ったのも大きかったですね。
――いちばん影響を受けた人物は誰だったんですか?
YOSHIROTTEN この人というよりは、すごく幅広くて、スケーターもそうだし、ミュージシャンもそうだし、ファッションデザイナーも、グラフィックデザイナーも、何かたくさんいたんですよね。だから、絶対的な人というのはいないかも。本当にいろいろな人に影響を受けてきました。
――YOSHIROTTEN(ヨシロットン)という名前は、ジョニー・ロットン(セックス・ピストルズやパブリック・イメージ・リミテッドを率いたパンクのカリスマ)からつけていると思いますが、そこがいちばんというわけではないんですね。
YOSHIROTTEN 名前は、22歳ぐらいのときに、YATTという音楽ユニットを始めて、そのときの相方と冗談で決めたんですよ。「チャカ・カーン(R&Bの女王)とジョニー・ロットンが混ざったような音楽をつくろうぜ」みたいなノリで、相方がTAKAKAHN(タカカーン)という名前をつけて、僕がYOSHIROTTENになりました(笑)。もちろん、UKのパンクシーンは大好きです。特にピストルズのジャケットやロゴを手がけた、ジェイミー・リードが好きでしたね。シルクスクリーンを使ったアートワークがすごくかっこよくて、僕の中でシルクスクリーンといえば、アンディ・ウォーホルではなく、ジェイミー・リードっていうくらい好きです。
――「この道で生きていくんだ」みたいなことが明確に固まったのはいつ頃なんですか?
YOSHIROTTEN 高校生のときに、スケートボードも、ファッションも、音楽も、自分が好きなものすべてに関われるのがグラフィックデザインという仕事なんだってことに気づいたんです。ファッションデザイナーとかスタイリストはきっといっぱい大変なことしなきゃいけないんだろうし、音楽の仕事はやってみたいと思っていたけれど、かといってミュージシャンという感じでもないし。でも、グラフィックは「あれ、もしかしてこれはちょっとできるかも」と思ったんですよね。自分の好きなことに横断的に関わることができるかもしれないと思って、「じゃあ、そういう仕事をするにはどうしたらいいんだろう」と考えて動いていきました。
――これが転機だったと思うような出来事はありますか?
YOSHIROTTEN 転機というほどの大げさなことはないかな。強いて言うのであれば、東京に出てきたことと、海外も含めていろいろなところに遊びに行ったことですかね。それこそ20代の頃は、夜は毎日のようにクラブに行って、新しい人と出会って、気が合う友達や仲間ができて、パーティを開いて、みたいな日々をずっと過ごしていました。その中で徐々にグラデーションのように色がついていって、自分のやりたいこと、やれることが広がっていった感じです。
見た人が自由に
感じ取ってくれたらいい
――グラフィックデザインから始まり、現在は立体や映像、インスタレーションなども数多く手がけています。ボーダーレスに活動領域を広げていますが、作品づくりにおけるスタンスとかは変わりましたか?
YOSHIROTTEN まったく変わってないです。僕は、グラフィックというのは、あるアイデアや情報を最小の要素と最大のインパクトで視覚を通して伝えることだと思っています。ぱっと見た瞬間に、「うわっ、何かわかんないけどかっこいい」とか「何これ、面白い」とか、そういう衝撃ってパンクロックを初めて聴いたときの衝撃と変わらない気がするんです。そういうものを僕もつくってみたいと思って、今も変わらずやっています。当然、自分の中でつくりたいと思うものは変わっていくし、できることも変わっていったというのはあるんですけど、今まで見たことのない、わくわくするようなものをつくりたいという思いはずっと一緒です。
――どういうときに創作のアイデアが生まれるんですか?
YOSHIROTTEN ずっと何か妄想していて、常につくりたいものがあるような感じなんですよね。エネルギーが渦を巻いているような状態なので、生きている限りたくさん出して、出して、出しまくって、たとえ失敗しても次にかっこいいものをつくればいいと思うし、みんなが楽しんでくれるものをつくりたいという思いでやっています。自分ができることで、ほかの人がまだやっていないようなことをやってみたいんですよね。
――作品づくりの喜びってどういうときに感じますか?
YOSHIROTTEN いちばんの喜びは、当たり前ですけど、自分が最初につくったものを見るので、その瞬間はいつも「うわーっ!」って興奮します。音楽家が新曲をつくって、まだ発表してない状態でいるのに近いのかもしれないですし、ファッションデザイナーが新しい服をつくって、どうやって出していくかを考えている状態に近いのかもしれません。そもそも何かものをつくっていることが喜びですね。
――現在、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで展覧会「YOSHIROTTEN Radial Graphics Bio ヨシロットン 拡張するグラフィック」が開催中です。こちらはどういった展示になっているのですか?
YOSHIROTTEN タイトルにあるRadial Graphics Bioというのは、直訳すると「放射状に広がるグラフィックの経歴」で、それを「拡張するグラフィック」と言い換えています。そして、Radial Graphics Bioのそれぞれの頭文字をとるとRGBとなって、これは光の三原色を表します。この展覧会では80台ほどのモニターを並べるのですが、僕のキャリアはこのモニターで何かつくることから始まっていて、そこから印刷物や映像、立体作品など、放射状に広がるようにしていろいろなものをつくってきました。今回はたんに時代を追って作品を並べていくのではなくて、過去につくったものと今あるものが同時に同じ空間に現れたら何が起きるのかということを試すような展示にしているので、見た人が自由に感じ取ってくれたらと思います。どんなに小さなことでもいいんです。僕も「あの人のDJがよかった」とか「あの本のあの一文がよかった」とか、そういうのは大事にしてきたので、何かのきっかけになったらうれしいですね。
「今まで見たことのない、
わくわくするようなものをつくりたい」
やりたいことには
ブレーキをかけない
――何かを表現したいと思っている人に向けて、どういったことを伝えたいですか?
YOSHIROTTEN 自分の経験でいえば、楽しいと思うことはどんどんやったほうがいいです。僕も自分なりにたくさん遊んだし、その中でいろいろなことを覚えました。勉強して何かをつくっていくというよりは、遊びながらつくっていく感じでしたね。そこでの出会いや経験が今の自分を間違いなくつくっているので、楽しいこと、やりたいことにはブレーキをかけないほうがいいと思います。
――ライフスタイルに変化はないんですか?
YOSHIROTTEN 少しずつは変わってきましたね。ここ数年は自然とかを作品のモチーフにしていたりするので、山に行ったり、海に行ったりして過ごすことも同じぐらい自分の遊びになっています。今いちばん興味を持っているのが、地球の自然を僕なりのやり方で伝えていくことなんです。だから、日本に限らず海外も含めて、いろいろな場所の面白いところに行ってみたいですし、そこで何かをつくったりしたら面白いだろうなって。
――それでいうと、太陽をモチーフにしたアートプロジェクト「SUN」を2023年に幕張など各所で展開していましたが、ああいった形で世界各地で展示できたらいいですよね。
YOSHIROTTEN そうなんです。実際、「SUN」はそう思ってつくっていました。国内外問わずいろいろなところで展示できたらいいし、お年寄りから子どもまで、みんなが何かいいかもと思うような空間を各地で展開していけたら最高ですね。
――理想の姿ではないですけど、最終的にこういうふうになっていたいみたいな目標はあるんですか?
YOSHIROTTEN そういうのはあんまりないです。つくりたいものをいっぱいつくることができて、やれてないことをいっぱいやれている人になれたらいいかな。
――今とはまったく違う世界に挑んでみたいと思うことはありますか?
YOSHIROTTEN それもないですね。今やっていることが好きですし、正直これ以外のことが自分にできるのかなと思うので、このスタンスのまま変幻自在に活動していきたいです。
――10代、20代の頃に遡(さかのぼ)って、今の自分の姿は想像できていましたか?
YOSHIROTTEN 当時は漠然とグラフィックの仕事をしたいと思っていて、けっして大規模なものをめざしていたわけじゃなかったけど、それを仕事にして生きていくためにはちゃんと周りから評価されて、依頼が来る状況じゃないとダメだと思っていました。だから、絶対にいいものをつくろうという意識でやってきましたし、そうやって今に至るっていう感じですね。
――何かをクリエイションすることに対して、苦しいとかつらいと思うことはないんですか?
YOSHIROTTEN つくるということに関してはないです。というか、むちゃくちゃ楽しんでいます。やりたいことや実現したいことがありすぎて、そのぶんスタッフに迷惑をかけていると思います(笑)。感謝しております。
ギンザ・グラフィック・ギャラリー第400回企画展
YOSHIROTTEN
Radial Graphics Bio
ヨシロットン 拡張するグラフィック
開催中~2024年3月23日(土)
ギンザ・グラフィック・ギャラリー
11時~19時 日曜・祝日休
ロゴ、タイプフェイス、アートディレクション、空間デザイン、映像など、異なる領域に広がっていくYOSHIROTTENの「グラフィック」史を表現する一連の作品群を展示。
ARTIST / ヨシロットン
1983年、鹿児島県生まれ。グラフィックデザイナー、アートディレクター、アーティスト。2015年、自身が代表を務めるクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。国内外のミュージシャンのアートワーク制作やファッションブランドへのグラフィック提供、広告ビジュアル制作、店舗空間デザインなどを手がける。23年、マルチメディア・アートプロジェクト「SUN」を日本各地で展開。https://yoshirotten.com/
Photos:Kanta Matsubayashi Composition & Text:Masayuki Sawada
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