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2作目
デヴィッド・フィンチャー
『ソーシャル・ネットワーク』
監督/デヴィッド・フィンチャー 出演/ジェシー・アイゼンバーグほか 販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント Blu-ray ¥2,619
2003年、ハーバード大学に通う19歳のマークは、親友のエドゥアルドとともに学内の友人を増やすためのネットワーキング・サービスを開発する。そのサービスはすぐに他校でも評判となり、「ナップスター」の創設者であるショーン・パーカーとの出会いも経て、社会現象を巻き起こすほどの巨大サイトへと急成長を遂げる。一躍、時代の寵児(ちょうじ)となった彼らだったが…。
主人公が超嫌なやつでも。
映画やドラマ、小説などを観たり読んだりするときは「主人公を好きになりたい」と誰しもが無意識に思うはずです。映画だったら約2時間もその人を追い続けなければいけない。だったら主人公にはなるべく感情移入して、一緒に泣いて笑って大きな壁を一緒に乗り越えたいと。ですが、今回取り上げる『ソーシャル・ネットワーク』の 主人公はとっても嫌なやつなんです。でも作品自体は死ぬほど面白い、最高の青春映画なので紹介させてください。
本作は、Facebookの創設者、マーク・ザッカーバーグ氏の半生を映画化したものです。彼が大学在学中、恋人にフラれた腹いせにつくったサイトが学内でバズって、それをきっかけに仲間たちとFacebookを立ち上げていくというTHE成り上がりモノです。
主人公は孤高の天才型なので葛藤なんてしないし、気難しくて嘘(うそ)つきで基本的に何を考えてるかわからないので、全く感情移入できないキャラクターです。なのに目が離せない。
そんな彼の、というかこの映画全体の魅力は最初のシーンに詰まっています。主人公と恋人がダイナーで口論になり、恋人が愛想を尽かして主人公を振るまでのたった5分25秒。舞台設定、主人公が何を敵としているのか、人との会話におけるいやらしさ、賢さとカッコ悪さ、あらゆる情報が散弾銃のような早口でまくし立てられます。なんと99テイクも撮ったらしく、確かにその執念というかとんでもないものが刻まれています。編集も最高。多くの人が「この主人公のことは嫌いだけど、絶対面白い2時間が始まる」と思うはずなので、ぜひこのオープニングだけでも観てください。Netflixにあります。
そんな今作ですが、映画化に当たってかなりの脚色が施されていることでも有名です。主人公のキャラクター造形はかなり極端になってるし、そもそも恋人にフラれたことを原動力になんかしていない。(今観るとテンプレすぎ! と感じる部分がなくもないが)事実に脚色を加えることで意図的に「青春映画」へ舵(かじ)を切ったことが本作を傑作たらしめている要因だと思います。
ここ最近“脚色”が悪い話題として取り上げられますが、僕はこの映画を初めて観たときから脚色の可能性を信じています。特にラストシーンで施された脚色は屈指のすばらしさです。
主人公が元カノに対してある行動をとります。「葛藤しない主人公」と書きましたが、嘘でした。最後の最後で一回だけします。すべてを手に入れたはずなのに、一番欲しいものだけはやっぱり届かない。観賞中、ずっと共感できなかった主人公が、最後の最後で見せるみっともなさにはどうしたってグッとくる。このラストがあることで青春の濃度が急激に上がって、主人公の見え方や作品全体の印象さえ大きく変えてしまうほどです。当のザッカーバーグ氏は絶対にそんなことしないんですけどね。
どんなに嫌な主人公だとしても、面白い映画にはその人を好きになってしまう魔力が潜んでいると思い知らされる作品です。
松本壮史
2021年『サマーフィルムにのって』で長編監督デビュー。その他作品に、映画『青葉家のテーブル』、ドラマ『ながたんと青と』(WOWOW)、『親子とりかえばや』(NHK)、『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)など。第13回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞 新人監督賞受賞。
Photo:Masanori Ikeda(for Mr.Matsumoto) Title logo & Illustrations:Tsuchika Nishimura Text:Soushi Matsumoto
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