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1作目
山下敦弘
『リンダ リンダ リンダ』
©『リンダ リンダ リンダ』パートナーズ
監督/山下敦弘 出演/ぺ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織、三村恭代、松山ケンイチほか 販売元:バップ DVD¥5,280
舞台は地方都市の高校。高校生活最後の文化祭の直前、ガールズバンド崩壊の危機に陥った女子高生3人は、韓国からの留学生ソンを半ば強引にメンバーに引き入れる。ザ・ブルーハーツのコピーバンドを結成し、文化祭当日に向けて練習を重ねるうちにたどたどしくも絆が生まれていくが…。女子高生たちの奮闘ぶりや何でもない日常、もどかしさをリアルに描いた青春映画。
青春とその距離。
はじめまして。今号から映画の連載を担当する、映像ディレクターの松本壮史と申します。
この連載では僕が好きな青春映画を毎回1本取り上げ、作品の解説をしながら青春映画そのものの魅力を一緒に見つけていけたらと思っています。
そもそも青春映画ってなんなんでしょうか? 僕が思う定義は「ある限定された期間の輝きの物語」です。終わりが見えている儚(はかな)さの中にあるまっすぐさ、みっともなさ、甘酸っぱさなどたくさんの感情をすくい取る映画のことかなと思います。卒業間近とか、最後の夏とかがわかりやすいですかね。と同時に、年齢は関係ないとも思っているので、おじさんがメインの青春映画とかもそのうち取り上げたいです。
最初に取り上げる青春映画は、『リンダ リンダ リンダ』です。卒業を控えた女子高生たちが文化祭でブルーハーツの曲を演奏するというシンプルなストーリーで大きな事件も起きないのに、僕の中で一番星のように、今も輝き続けている傑作青春映画です。
これほどまでに“空気”の記録に成功している作品を、僕は知りません。大きな特徴のひとつは、「登場人物とカメラの遠さ」かなと思います。序盤の、彼女たちが文化祭でカバーする曲を探すシーン。軽音部の部室には3人だけ。あれでもない、これでもないと段ボールをひっくり返してカセットテープを漁(あさ)った挙げ句、ふと再生ボタンを押すとブルーハーツが流れてくる。テンション低めだった3人が一気に「これだ!」と盛り上がります(彼女たちが陽気なタイプではないのでこれまたグッとくる)。
そのほほ笑ましい瞬間を、カメラは少し離れた位置から「フィックス」(固定カメラ)で捉えます。ポンと置いたカメラにたまたま映ったかのように、その場の空気も自然に記録されているのです。登場人物とカメラが遠いシーンはその他にも。夜の学校に忍び込んでの練習、文化祭を抜け出して田舎道を走るバスの中、中学の卒アルを見ながらのガールズトーク、もっとあります。
彼女たちのあらゆる瞬間に「わかるよ」と近づいていくのではなく、「わからないけど」と少し離れた位置から見守るような山下監督の距離感が、この映画を唯一無二なものにしていると思います。僕自身、青春とは縁遠く勉強しか存在しない男子高に通っていたのでキラキラしたものはむしろ苦手なんですが、この映画の“青春”とは握手できる。監督がつくる絶妙な距離感のおかげです。彼女たちの演奏を体育館の後ろのほうで見ている松山ケンイチ氏(フラれた直後)の隣に走っていきたい。
しかめっ面、口数少ない、友達少ない、恋愛下手なとびきり愛(いと)おしいメンバーたちには曇り空がよく似合っている。最後には雨まで降ってくるし、ラストステージを見ている人たちもこの日のことを忘れてしまうことでしょう。多くの人にとってどうでもいい、どこにでもある文化祭の風景です。彼女たちも今後バンドなんて続けないと思う。
それでも、どこにもない特別な時間が刻まれた、大好きな青春映画です。
松本壮史
2021年『サマーフィルムにのって』で長編監督デビュー。その他作品に、映画『青葉家のテーブル』、ドラマ『ながたんと青と』(WOWOW)、『親子とりかえばや』(NHK)、『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)など。第13回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞 新人監督賞受賞。
Photo:Masanori Ikeda(for Mr.Matsumoto) Title logo & Illustrations:Tsuchika Nishimura Text:Soushi Matsumoto
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