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今月は、公開中の最新作『ボーはおそれている』のプロモーションで来日中のアリ・アスター監督と対談した<特別編>の後編です! 『ヘレディタリー』や『ミッドサマー』などで新星のごとく現れた“ホラー界の新巨匠”。ゾクっとするようなエピソードや、アスター監督ならではの鮮やかで緻密な映像世界の生まれる秘密、撮影現場の様子などを教えていただきました!
『ボーはおそれている』
日常のささいなことに常に怯えているボー (ホアキン・フェニックス)は、少し前に電話で話したばかりの母親が突然、怪死したと連絡を受ける。ボーが母の元へ駆けつけようと、決死の覚悟でアパートを飛び出すと、世界は激変していた。ボーは奇妙な出来事に次々と遭遇しながら、なかなか実家にたどりつけない。現実なのか夢なのかも分からず、出会う人や現象に翻弄され彷徨い続けるボーは、遂に家へとたどり着くのだが――。
監督・脚本:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、パーカー・ポージー、パティ・ルポーン
配給:ハピネットファントム・スタジオ 原題:BEAU IS AFRAID
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全国映画館にて公開中
https://happinet-phantom.com/beau/
アリ・アスター
1986年生まれ、米・ニューヨーク出身。アメリカン・フィルム・インスティチュートの美術修士号を取得。いくつかの短編で注目される。A24製作の『ヘレディタリー/継承』(‘18)で長編監督デビューし、サターン賞新進監督賞受賞の他、ゴッサム賞、インディペンデントスピリット・アワードなど多数の映画賞にノミネートされる。続く長編第2作『ミッドサマー』(’19)は全米で大ヒットを記録。ノミネートこそ逃したが、その年のアカデミー賞授賞式では、オープニングでフィーチャーされるなど、大きな話題となった。
日々のメモから選りすぐった“おそれるべきこと”が、ボーを恐怖のどん底に
鈴鹿「ボーは常に不安になり怯えたりしていますが、彼の心配事の数々の元ネタは、どんな風に映画に盛り込まれたのかにも興味があります。例えば毒グモだとか、鍵を盗まれるとか……ボーを脅かすモノや事象が次々に登場して、それが可笑しかったりするのですが、そういうアイディアの一つ一つって、実際に監督自身が日々感じていることだったりするのですか? 例えば監督は感じることや思いついたコトを、メモして溜めていたりしているのでしょうか。」
アスター「そう、おっしゃる通り、この映画は色々なアイデアを編み出したり、それらを整理したりすることに、とても時間がかかったんです。もちろん僕はメモ帳みたいなものも、日々持ち歩いていますよ! 持って出るのを忘れた時も、思いついたり何かに遭遇したりすると、Google Docsなどに書き込んでおきます。そういうメモのストックの中から、自分が面白いと思ったり、ちょっと笑えるものを映画の中にちりばめました。例えば、“このシーンでは、こういう感じの何かが起こらないといけないんだよね”というプロットを決めてはいますが、そこにはめ込める具体的なアイディアが思い浮かぶまで時間がかかる時もあります。そういう意味でも今回は結構、時間がかかったというのもあります。なかなかインスピレーションが湧かないこともありましたから」
構想11年の作品のディテールを、ゼロから作り上げる楽しさ
鈴鹿「この映画を作ろうと思い立ってから、色んなアイディアを思いついて、それが出そろって映画を作り上げ、公開するまでには、どれくらい時間がかかったのですか?」
アスター「なかなか数えるのが難しいけれど……。この映画を作ろうと思い立ったのは11年前なんです。でも、すぐに取りかかったわけではなく、寝かしておいた時間があったり、あるいは計画が上手くいかずに途中で頓挫したり、ということを繰り返しました。その間、別の作品を撮ってもいますし、何稿も脚本を書き直しましたし、さらにはコロナ禍となって進まなくもなりました。そういう意味でも、かなり時間がかかったのは事実です」
鈴鹿「本作は、美術も本当に素晴らしかったです。例えば、ボーが住んでる街並みも、ボーのお母さんの豪奢な家も、最後に登場するスタジアムのような場所も、とっても独特でした。監督の作品は、そういう美術に対するこだわりが、すごく素敵だなと思っていて。すごくアートな印象を受けるのですが、やはり美術に関しても、相当なこだわりをもっていらっしゃるんですよね!?」
アスター「もちろんだよ! 今回は特に、本当に“在りもの”を一切使っていないんです。この映画の世界をイチから――いや、それこそゼロから構築しました。例えば画面の中に映り込むポスターがあったとして、そのポスターに書かれたサインも全てゼロから“作り物として”作っているんです。つまり美術班としても僕としても、隅から隅まで色んなアイディアを出さなければならないのでかなりプレッシャーがありました」
鈴鹿「そんな細かなところまで……」
アスター「だから企画段階が、かなり大変でした。大変なんだけれども、僕にとってはそういう製作前の段階の、細かなところから作れるっていうのは、楽しくて仕方のない過程だったりもするんですよね(笑)。だって要は、他に類のない世界を作っているということなので。この世界のおかしさを一つ一つこだわって表現しているので、それは楽しいことなんです。そして本作は、章ごとにその世界観が変わっていくんです。そのあたりも、別の世界観ということにこだわって作っていきました」
鈴鹿「監督がおっしゃられるように章ごとに、つまり1つ1つの場所――最初はボーが住んでいるアパートで、郊外の家、そして森の中と――それぞれの世界が全て強烈に印象に残っていて、それがスゴイなと思いました」
こだわり抜いた“水”と“鏡”、もちろん撮影は大変だった!
鈴鹿「さらに映画全体を通して、水や鏡といったモチーフがとても印象に残っています。経験上、水や鏡を使う撮影ってすごく大変な印象があるのですが、監督も苦労されたのではないでしょうか。水や鏡といったモチーフには、どんなこだわりがあったのですか?」
アスター「そこに気づいてくれるとは、嬉しいですね! 鏡を使ったのは、僕の中で今回は<鏡の回廊的な映画>にしたかったからなんです。僕は映画を語る時に“コレは、こういうメタファーです”ということは、あんまり説明しないようにしてるんですが、もちろん鈴鹿さんが気づいて指摘してくれたように、水や鏡はたくさん登場しますし、とても大事なモチーフとして用いています。そしておっしゃる通り、水を使う撮影は難しいです。CGを使って再現しちゃえば簡単なんですが、使うことが(予算的に)不可能に近いので(笑)、CGはほぼ使っていないんです。だからこそ、とても難しかったです」
皆さんが映画作りを楽しんでいることが伝わって来ました」
鈴鹿「作品を観ると、色んな大変なことがあったり、とても時間がかかったというのも納得ですが、お話を聞いてると、監督ご自身はもちろん、チームの皆さんが映画を作るということを、すごく楽しまれてると感じられて、すごく素敵だなと思います。それって、僕が初めて映画に出演した時に教えられたことでもあるんです。自分たちがその作品を愛することが何より一番大切だよ、って。今、それをまた思い出しました。やっぱり楽しんで作品を作ることが、すごく大事ですよね」
アスター「もちろんだよ! 僕もそう思って作っています。何よりも、自分の作品に満足できるかどうかが肝心だと思います。そうして今回の『ボーはおそれている』は、我ながら満足しているんですよ(笑)。鈴鹿さんのおっしゃる通り、まさに作品作りを楽しむこと、に尽きますよね!」
鈴鹿「はい! ありがとうございます。監督にお願いしたいのですが、いつか日本でも映画を撮って欲しいです。日本にも色んな笑える要素や、特に伝統的なものの中に、面白いものがたくさんあるんです! そういうものを取り入れながら、是非監督に日本を舞台にした映画を撮って欲しいな、と思います」
アスター「もちろん! 日本は、世界中で僕が一番好きな国でもあるんです。美的センス、美意識が最高峰の国だと思っているので、前々から僕も日本で映画を撮ってみたいと思っていました。とはいえ、まだ……具体的なアイディアや物語は何も思い浮かばないので、まだ時間は掛かりそうだけど……」
鈴鹿「いつか実現することを、楽しみにしています!」
最近は、はちみつにハマってます。朝のパンにかけたり、何か飲み物に入れたり。何にでも使えるし、体にも良い。
健康な体とは…みたいなのを考えたことがあって、栄養も偏りがちなので、はちみつを取り入れてみました!食生活、気をつけていきます!
[鈴鹿]ジャケット¥35,200・シャツ¥22,000・Tシャツ¥13,200・パンツ¥24,200(すべてフォル)/アンフォロー トウキョウ[TEL:03-3486-0906] 靴(スロウ)¥42,900/スロウ自由が丘店[TEL:03-5731-3374]
Photos:Teppei Hoshida Hair&Make-up:Yasushi Goto(OLTA) Stylist: Masashi Sho Text:Chizuko Orita
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