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これまで、いつか紹介したいと何度も候補に挙げていた作品が『ミッドサマー』。独特な世界観を持つサイコホラーで、怖いけど忘れられない作品なのですが、なんとその『ミッドサマー』を作ったアリ・アスター監督と、お会いする機会に恵まれました! 新作『ボーはおそれている』のプロモーションで来日されたんです。
そこで今回は<特別編>ということで、僕が質問して、監督自身に答えていただきながら『ボーはおそれている』をご紹介します。とっても緊張しましたが、聞きたいことを思い切ってお話しして来ました! 作品のホラー度とは全く違う(笑)、とても柔らかな雰囲気の優しい監督さんでした!
『ボーはおそれている』
日常のささいなことに常に怯えているボー (ホアキン・フェニックス)は、少し前に電話で話したばかりの母親が突然、怪死したと連絡を受ける。ボーが母の元へ駆けつけようと、決死の覚悟でアパートを飛び出すと、世界は激変していた。ボーは奇妙な出来事に次々と遭遇しながら、なかなか実家にたどりつけない。現実なのか夢なのかも分からず、出会う人や現象に翻弄され彷徨い続けるボーは、遂に家へとたどり着くのだが――。
監督・脚本:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、パーカー・ポージー、パティ・ルポーン
配給:ハピネットファントム・スタジオ 原題:BEAU IS AFRAID
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2月16日(金)より全国ロードショー
https://happinet-phantom.com/beau/
アリ・アスター
1986年生まれ、米・ニューヨーク出身。アメリカン・フィルム・インスティチュートの美術修士号を取得。いくつかの短編で注目される。A24製作の『ヘレディタリー/継承』(‘18)で長編監督デビューし、サターン賞新進監督賞受賞の他、ゴッサム賞、インディペンデントスピリット・アワードなど多数の映画賞にノミネートされる。続く長編第2作『ミッドサマー』(’19)は全米で大ヒットを記録。ノミネートこそ逃したが、その年のアカデミー賞授賞式では、オープニングでフィーチャーされるなど、大きな話題となった。
カタルシスなし!“選択できない”ボーの苦しみの先にあるのは?
鈴鹿「最新作『ボーはおそれている』を拝見して、とても素敵でした!」
アリ・アスター監督(以下、アスター)「すごく嬉しいです。ありがとうございます!」
鈴鹿「特に、ボーの主観の映像が、とても印象的でした。何度も出てくる回想シーンなどで、僕はずっとボーに自分の視点を重ねて映画を観ていたんです。つまりボーが生きている世界を、僕もそのまま見ていたみたいで……、ずっと苦しかったんです。当然、ボーもずっと苦しんでいたと思いますが。だから最後は、少し解放されたような気持ちになりました。あのラストシーンによって、どこか楽になった自分がいたんです」
アスター「それは、非常に面白い感想ですね。というのも、僕のこれまでの作品では、中盤あたりまで、観客が解放されるような瞬間や出来事、ホッとできるような瞬間を必ずちりばめていたのですが、本作に限っては、完全には解放されないように寸止めしているんですよ。開放感の直前で留めているんです」
鈴鹿「そうだったんですか」
アスター「僕の監督1作目『ヘレディタリー/継承』(2018)や2作目『ミッドサマー』(2019)では、僕は思いきりカタルシスを描きました。でも今回は、“変わることができない”または“選択することができない”、ボーという人物を主人公に据えたので、敢えて完全なる解放やカタルシスを避けているんです。そういう意味でも、鈴鹿さんの感想は面白いな、と思います」
鈴鹿「作品の冒頭、出産シーンで始まりますよね。つまりボーは産道を通って生まれてくる、言い換えると“穴から出てきた”とも言えると思うんです。そしてラストは……あのスゴいシーンを明かすことはできませんが、ある種、“穴に入っていく”と言えるなとも思ったんです。この映画は、穴から出て来て穴に戻っていく」
アスター「ふむ、ふむ。なるほど」
鈴鹿「観ている間じゅう苦しかったのは、ボーの苦しさを僕が受け取っていたとも言えますし、そこに自分を投影していたとも言える気がするんです。だからボーが迎えた最後の結末が、僕の中では“解放”に思えたのかな、と」
アスター「実はまさに、その通りなんですよ。始まったところが終わりになる――。つまり始発点が終着点になる、再びそこへ戻っていく――とも言えるわけなんですよね」
「苦悩や狂気を撮りながら、ずっと笑いっぱなしだった」
鈴鹿「でもボーの混乱や苦悩に一緒に苦しみながらも、同時につい笑ってしまうような場面やコメディ要素も多々あると思いました。苦悩や狂気に思えるものが笑いに変換される“ダーク・コメディ”の、こだわりやバランスについて教えてください」
アスター「実は僕、撮影中ずっと笑いっぱなしだったんですよ!」
鈴鹿「え!?」
アスター「自分で自分がおかしいんじゃないか、みたいな感覚で撮っていました(笑)。苦悩や狂気のシーンも含め、僕は全編がダーク・コメディだと思って撮っているんです。同時に、この物語は悲劇でもあるので、感情を揺さぶられるような作品にしたつもりです。だから鈴鹿さんの“苦悩や狂気が笑いに変換されている”というコメントは、とても嬉しいです」
鈴鹿「こちらこそ、ありがとうございます。でも俳優として観ると、ボーという役は演じていて本当に辛いだろうな、なんて感じました。もし僕がボーを演じることになったら、気が変になっちゃうんじゃないかな、なんて」
アスター「本当? ボーを演じたホアキン・フェニックスは、すごく楽しかったと言っていましたよ(笑)!」
主人公のボーを演じたのは、世界中で、もちろん日本でも大ヒットした『ジョーカー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞した演技派俳優・ホアキン・フェニックス。『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』(05)、『ザ・マスター』(12)でもオスカーにノミネートされた。現在、もう一つの主演作『ナポレオン』も公開中。
アスター「彼は、どんな作品でも、本当に全身全霊を込めて体当たりで演技をしてくれる人なんです。今回も例に違わず、全身全霊でボーに成り切ってくれました」
鈴鹿「はい、すごかったです」
アスター「しかも彼は、スタントマンをほぼ使わないんですよ。つまりフィジカル的にも、落ちたり転んだりと体を張った演技すべてを彼自身が演じてくれました。安全上の観点から、どうしても必要な時だけスタントマンを使うこともありましたが、ガラスを突き破って飛び出したり、屋根裏部屋の階段から落ちてくるところなども、全て自分でやってくれました」
鈴鹿「うわ、すごい」
アスター「しかも彼が素晴らしいのは、何度テイクを重ねようが文句を言わずに必ずやってくれるところなんです。というのも僕は元々テイク数が多い(何度も同じシーンを繰り返して試す)方なんですよ(笑)。もちろん、さっき挙げた危険を伴う体を張って演じてもらうシーンは、出来るだけテイク数を少なめにOKを出せるように意識して臨みますけどね」
鈴鹿「何度もテイクを重ねる時って、監督としては、何を見極めているのですか? そういう時、途中で演出も変えたりするのですか?」
アスター「もちろんシーン毎に注文は具体的に出していきますよ。……と言っても、今すぐには例を思い出せないのだけれど……。背景をこう直して撮り直そうとか、前方の方はこうしてやってみようとか、表情をもう少しこういう風に、とか。毎度、具体的な注文は出していきます」
鈴鹿「ちなみに、最もテイク数を重ねたシーンって覚えていますか?」
アスター「そうだなぁ……。確かボーが電話で母親と喋っているシーンは、長回しで撮っているのですが、それだけに完璧にしなければならなかったので、それこそ25テイク~30テイクぐらい撮りましたね」
鈴「え、30テイク(笑)!? す、すごいですね……」
アスター「ハハハハ(笑)」
一観客として、そして俳優として、撮影現場のことも聞けて嬉しかったです。監督のさらなる“こだわり”について、後編(次回)に続きます!
対談終了後、ポスターでボーが着ている“Beau”という名前入りのパジャマをいただきました! でも着て寝ると悪夢を見そうで……(笑)。現在、放映中のドラマ「闇バイト家族」の撮影も終盤を迎えています。現場では、光石(研)さんが面白すぎて、思わず吹き出さないようにするのに必死です(笑)!
[鈴鹿]ジャケット¥35,200・シャツ¥22,000・Tシャツ¥13,200・パンツ¥24,200(すべてフォル)/アンフォロー トウキョウ[TEL:03-3486-0906] 靴(スロウ)¥42,900/スロウ自由が丘店[TEL:03-5731-3374]
Photos:Teppei Hoshida Hair&Make-up:Yasushi Goto(OLTA) Stylist: Masashi Sho Text:Chizuko Orita
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