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骨染 第11回
『ギョ』
©伊藤潤二/小学館
伊藤潤二 小学館/全2巻 (各)¥715
『富江』『うずまき』などの作品で知られる日本ホラー漫画界の巨匠・伊藤潤二によるパニック・ホラー。旅行で沖縄を訪れたカップルが、脚を持つ不気味な魚に襲われる。巨大なサメとの死闘を終え東京に戻った2人だったが、やがて歩く魚の大群が日本全土を覆い尽くしていく。『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載されていた。
天才が描く生理的な
気持ち悪さのオンパレード
「骨染」もいよいよ最終回ということで、満を持して伊藤潤二先生の漫画について話したいと思います。選んだ作品は『ギョ』。あらすじはシンプルで、昆虫のような脚を持つ魚が襲ってくるパニック・ホラーです。
これまで、アイドルやファッション、家族など、幅広いテーマの漫画を読み、作品の中に潜む「怖さ」について考えてきました。そのどれもが肌にまとわりつくような気持ち悪さを持っていたように思います。しかし、最後にたどり着いたのは「生魚って気持ち悪くね?」という直球の恐怖。
人間の感覚として、動物の死骸ってめちゃくちゃ気持ち悪いはずなんです。ただ、僕らが日々スーパーの鮮魚コーナーで目にする生魚も、言ってしまえば死んでいる状態の魚なわけで。それを食品として売買することが必要な社会の中では、人間が持っている生理的な恐怖を無意識にシャットアウトしているんですよね。その違和感を伊藤先生の異常な漫画力でカリカチュアするとこういう作品に仕上がるんだなと。
それに加えて、この漫画では多足動物への生理的な嫌悪感が乗っかります。ゴキブリとかムカデって、戦闘力でいえば人間に圧倒的に分があるはずなのに、なぜか怖いと思ってしまう。カサカサと音を立ててこちらに向かってくるあの動きのダイナミズムそのものに気持ち悪さを感じているんです。死骸と多足動物、人間が生理的に受けつけない2つの要素を悪魔融合させているんですから、それはもう最悪のモンスターが生まれざるを得ません。
さらに作品が進むにつれて、この「歩く魚」の動力源が、魚の中に充満したガスであることがわかります。やがて魚が腐ると、人間を次のエネルギーにしようと襲い始めるんです。途中でこの謎理論が説明されるんですが、それを読むとどんなに清潔な人間の内部にも汚いガスが充満しているんだよなとか考えてしまって。本当に気持ち悪さのオンパレードというか、正直「もうやめてくれ」って思いました(笑)。
気持ち悪いのに引き込まれてしまうのが伊藤潤二作品の魅力ですよね。日本の漫画界にはこんな天才がいますし、最近は映画や小説にも斬新な手法を取り入れたホラー作品が増え、限りない可能性を感じています。また、どんなジャンルの作品であっても、少し目線を変えれば骨まで染みるような怖さが隠れているのかもしれません。次はどんな「骨染」が僕らをゾクッとさせてくれるのか、とても楽しみです。
TaiTan
ヒップホップグループDos Monosのラッパー。Podcast番組「奇奇怪怪」やTBSラジオ『脳盗』のパーソナリティも務めている。Podcast番組を書籍化した『奇奇怪怪』が発売中!
Title logo:Shimpei Umeda Composition:Shunsuke Kamigaito
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TaiTanの骨染漫画読破録