▼ 広告枠 : front-page archive singular : header ▼

「こういう映画に出会うことは、一生のうちそんなにはない」役所広司ロングインタビュー

「こういう映画に出会うことは、一生のうちそんなにはない」役所広司ロングインタビュー

▼ 広告枠 : singular : article-top ▼

▼ WPの本文 ▼

長年にわたり、映画やドラマで活躍し続けている、名実ともに日本を代表する俳優のひとりだ。最新作は12月22日に公開される『PERFECT DAYS』。『パリ、テキサス』(1984年)、『ベルリン・天使の詩』(87年)などの作品で知られる名匠ヴィム・ヴェンダース監督とタッグを組み、本作の演技で第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した。「何だかしょっちゅう苦しんでいるような気がしますけどね」。これまでにも増して世界から熱い視線を注がれるこの人にインタビュー。

役所広司さん

スーツ¥492,800~[オーダー価格]・シャツ¥107,800~[オーダー価格](ともにジョルジオ アルマーニ)/ジョルジオ アルマーニ ジャパン


こういう映画に出会うことは
一生のうちそんなにはない

――主演映画『PERFECT DAYS』は、渋谷にある公共トイレを題材に、役所さん演じるトイレ清掃員・平山の静かに淡々と過ぎゆく日々を描いた作品となっています。オファーを受けたとき、どのようなことを思いましたか?

役所 この映画は、「THE TOKYO TOILET」(著名な建築家やデザイナーが参画し、渋谷区内にある17か所の公共トイレを誰もが快適に使用できるものに生まれ変わらせた)というプロジェクトを立ち上げた柳井康治さんが製作に関わっているのですが、柳井さんが「トイレを舞台にした清掃員の物語をつくってください」とおっしゃったんですね。「どういう客層に観てほしいとか、これだけヒットしてほしいとか、そういうことを考えずに自由につくってください」と。こんなことは初めてでした。トイレの清掃員でほとんどせりふをしゃべらないというキャラクターも初めて。しかも、テレビドラマの映画化とか、ベストセラー小説やコミックを原作とした映画はいっぱいありますが、これはまったくのオリジナルです。今の日本映画の状況を考えたらなかなかあり得ない企画なので、こういう映画に出会うことは一生のうちそんなにはないだろうなと思って、すごくワクワクしましたね。

――平山という役ははっきりとしたバックボーンが語られません。どのように役づくりを進めていったのですか?

役所 登場人物のこれまでの人生を回想で丁寧に見せていくものもありますけど、それは見せないで物語が進んでいくものもあります。今回は後者で、そっちのほうが観る人により豊かに伝わっていくんじゃないかということですよね。こういうとき、監督に全部を聞いてからやる人と、とりあえず自分で考えた物語でやってみようという人の両方いると思います。それこそ僕が俳優の仕事を始めた頃の監督って、「この役はどんな気持ちでやるんですか?」と聞くと、「それを考えるのはあなたの仕事でしょう」と言う人がほとんどでした。だから、僕は監督に説明してもらうとか、質問するということには慣れてなくて、自分で考えたことをまずは監督の前でやってみて、違っていたらどこが違うかを指摘してくれるから、そこで修正したりする。基本的にはそういう作業です。ただ、何も説明されていないキャラクターだとしても、台本にはその人物のこれまでの人生の匂いというのはちゃんと書かれていると思うんですよね。それをもとに自分で想像してつくっていくというのは大事だなと思います。


違和感があったら
できるかぎりなくす

――映画『PERFECT DAYS』は、2023年5月に開催された第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、役所さんは最優秀男優賞に輝きました。受賞が決まったときはどんな気持ちでしたか?

役所 授賞式の会場に呼ばれて、その時点で何がしかの賞をいただけることはわかっていても、何の賞かまではわからないんです。取材を受けているときから、作品をたくさん褒めてもらったり、男優賞もいけるんじゃないかと言ってもらったりしていたんですけど、「信じちゃいけない」と思って会場に行きました(笑)。発表されたときはやっぱり驚きました。ひとつの作品でいろいろな賞をもらうのは難しいから、男優賞で僕が代表してもらったと思っていますけどね。

――授賞式で何か印象に残っている光景はありますか?

役所 たぶん関係者が遅れてきたんだと思うんですけど、授賞式のレッドカーペットでけっこう待たされたんですよ。待っているときに、坂本龍一さんの『戦場のメリークリスマス』のテーマ曲がかかって、あれはジーンときましたね。見ているのかなという気がして。亡くなってそんなに時間がたってなかったし、坂本さんは『戦場のメリークリスマス』の音楽をつくって、出演もして、そのときにカンヌに初めて参加しているので、そういうことを思ったら感じ入るものがありました。

――今回、カンヌで最優秀男優賞を受賞したことで、あらためて何かを考え直したりしましたか?

役所 あらためてはないかな。ただ、ヴェンダース監督が「大きく公開するよりも、長く観てもらえる作品にしたい」とおっしゃっていて、こういう映画づくりも商業的にあり得るんだなって多くの映画会社が思ってくれるとうれしいですね。映画も経済と直結しているからビジネスとして成功しなきゃいけないんですけど、成功の仕方はさまざまですし、いろいろあったほうが豊かになるような気がします。


――役所さん自身、演技をすることは喜びや楽しみになっているのですか?

役所 どうでしょう。何だかしょっちゅう苦しんでいるような気がしますけどね(笑)。僕は自分の映画を映画館で観たりしないんですけど、映画祭に行くと、お客さんと一緒に観る機会はあって、そういうときにお客さんが楽しんでくれている様子を感じたり、取材で会った人に「面白かったです」と言われたりしたときが一番うれしいですかね。やってよかったなって。現場で撮影しているときは「これでよかったのかな」「やりすぎかな」とか、そんなことばかり考えていますから。

――そうなんですか! 役所さんほどのキャリアであれば、すべてをわかったうえで楽しくやっているんだろうなと勝手に思っていました。

役所 いやいや、そうなれば一番いいですよね。『男はつらいよ』で寅さんをあれだけやった渥美清さんだって、何か自由に楽しんでやっているように見えますけど、おそらく苦しんで生み出していた部分はあったんじゃないでしょうか。きっとそうだったと思うんですよね。

――俳優としてめざすべき境地とか理想の姿みたいなものはあるのですか?

役所 好きな俳優さんや憧れの俳優さんはいますけど、自分とは違うタイプだと思うし、まるっきりマネしてしまうとコメディになっちゃう恐れがあります。そういう意味で、具体的にめざすべき何かがあるわけではありません。でも、役を演じているときに、「この人物っぽくないな」とちょっとでも違和感を覚えたことに関してはできるかぎりなくそうとはします。たとえ顔は映っていなくて、一瞬背中が映るだけだったとしても、気持ち悪いと思ったままで残ってしまうのはイヤですね。そういうものはできるだけなくしていきたいですし、そうすることで自分のお芝居というものができていくのだと思います。


役所広司さん 2

毎年何百本と撮っていても、
残っていく映画はほんのひと握り

――若い頃、それこそ10代後半から20代前半の頃はどんなことを考えていましたか?

役所 ほとんど何も考えてなかったですよ。先のことなんて何も考えてなかった。その場しのぎで楽しいことばっかり追い求めていたような気がします。先のことを考えることができていたらもうちょっと早く大人になれたんでしょうけど(笑)。

――人生というのはいろいろな選択の積み重ねの上に今があると思うのですが、「もしあのときこうしていたら…」みたいに、あり得たかもしれない人生について考えることはありますか?

役所 僕は長崎の諫早(いさはや)市出身ですけど、東京に出ずにそのまま長崎にいたらどうしていたんだろうなとよく考えます。あのとき東京を見たいと思って出てきたことが今につながっているわけなので、そうじゃなかったらどうしていたんだろうって。でも、それくらいですね。その先のあり得たかもしれない人生まで考えたりすることはないかな。

――そうなんですね。

役所 そういえば今度、諫早市民栄誉賞というのをいただくんですよ。

――おめでとうございます!

役所 僕、仲代達矢さん(若手俳優のための「無名塾」を主宰。役所さんの恩師)に芸名をつけてもらうとき、諫早広司というのも候補にあって、「そんな名前をつけたらもう帰れなくなっちゃうから、それだけは勘弁してください」と言ったんです(笑)。そんな僕に市民栄誉賞をくれるというので、ありがたくいただいておこうかなと。

――いい話ですね! 役所さんは、どういうときにこの仕事をしていてよかったなと思うのですか?

役所 僕は自分のことをそんなに仕事人間だと思っていなくて、それでも自分が携わった仕事に関して、観てくれた人が評価してくれたり、生きやすくなったとか、ちょっと踏みとどまって考えることができたとか、勇気が出たとか、そんなことを聞くとやっぱりうれしいですよね。じかに聞くことはあまりないんですけど、みんなでつくったものがそうやって受け取ってもらえてよかったなって。僕自身も映画や演劇を観たとき、同じ職業の人たちがこんなにいい仕事をしているんだと思って、「俺ももうちょっと頑張ろう」って勇気が出てくるときがあるから、それと同じことが自分もできていたらうれしいなと思います。


「100年後に『この俳優、誰?』
と言われるような映画に出たい」

――新たに挑戦したいこととか、やってみたいことはあるのですか?

役所 僕は役者しかできないんで、あとそれほどたくさんはできない中で、やっぱり日本の映画史の中に残っていけるような作品に出会いたいというのはずーっとあります。これだけ毎年何百本と撮っているのに、残っていく映画というのはほんのひと握りじゃないですか。挑戦というわけではありませんが、100年後に「この俳優、誰?」と言われるような映画に出たいなという思いはいつも持ち続けています。

――自分でつくってみようと思ったりはしないのですか?

役所 自分で企画を出して何とかって考えたこともありますけど、相当エネルギーが要りますからね。ただ、よっぽど「これは!」というものに出会ったら、提案してみたいと思っています。今は本当にスマホでも映画を撮れる時代ですから、面白い発想があったり、すばらしい出会いがあればやってみたいですね。


 

『PERFECT DAYS』

『PERFECT DAYS』
12月22日(金)より全国公開
東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司)。彼は淡々と過ぎていく日々に満足している。毎日を同じように繰り返しているように見えるが、彼にとってはそうではなかった。毎日は常に新鮮な小さな喜びに満ちていた。あるとき彼は、思いがけない再会をする。それが彼の過去に少しずつ光を当てていく――。

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中 泯、三浦友和

配給:ビターズ・エンド
©2023 MASTER MIND Ltd.

ACTOR / KOJI YAKUSHO

1956年生まれ、長崎県出身。95年に『KAMIKAZE TAXI』で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。
96年、『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』で国内の主演男優賞を独占。東京国際映画祭主演男優賞を受賞した『CURE キュア』(97年)、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『うなぎ』(97年)など、国際映画祭への出品作も多数。2012年、紫綬褒章を受章。
公開待機作に、声優として出演するアニメーション映画『窓ぎわのトットちゃん』(12/8公開)がある。

Photos:Teppei Hoshida Hair & Make-up:Katsuhiko Yuhmi[THYMON Inc.] Stylist:Daisuke Iga[band inc.] Composition & Text:Masayuki Sawada

▲ WPの本文 ▲

▼ 広告枠 : singular : article ▼

▼ 広告枠 : singular : article-center ▼

▼ 広告枠 : singular : article-bottom ▼

RECOMMEND

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-cxense-recommend ( trigs ) ▼

FEATURE

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-feature ▼

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-popin-recommend ▼

MOVIE

MEN’S NON-NO CHANNEL

YouTubeでもっと見る

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-movie ▼

REGULAR

連載一覧を見る

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-special ▼

▼ 広告枠 : front-page archive singular : fixed-bottom ▼