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初めてこの作品を観たのは、20歳の頃だったかな。5人が変な格好で並んでいて、『ブレックファスト・クラブ』ってタイトルが書いてあるポスタービジュアルにも惹かれました。粗筋を読んだら、“土曜日に5人の生徒が補習授業で学校に呼び出される”とあって、なるほど青春群像劇か、見てみようって軽い気持ちで入りました。そうしたら、すごく面白かった!
『ブレックファスト・クラブ』
Blu-ray: 2,075 円/DVD: 1,572 円 (税込み)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
アメリカの高校での1日。“青春物語”といっても一癖も二癖もあり・・・。
朝、5人が登校してくるシーンから、それぞれのキャラクターや生活環境などが現れているのが面白いんですよね。親の車で送ってもらう人もいれば、一人でフラリと歩いて来る人もいる。親の車の車種でもある程度、家庭環境がわかったり。お父さんにBMWで送られて来た女子はお金持ちだな、とか。降りる前に交わす短い会話や挨拶にも、それぞれの状況が実は現れているんです。
5人が集められた図書館の、どの席に座るかにも校内のヒエラルキーが現れていました。BMWのお嬢様や、イケてる体育会系の男子は一番前の席。真面目な男子がその後ろに座るのですが、後からやって来た不良にどかされたり。ほとんど何も喋らない暗めな女子は一番後ろの席で一人の世界に入っていて。冒頭でサッと5人のキャラクターや立ち位置を説明しちゃうのが、上手いし説得力がありました。
普通に生きていたら触れ合うことのない人たちが一ヵ所に集められ、そこから始まる大騒動――。“出会うはずのない人たちが一か所に集められる”という設定って、今ぼくが出演しているドラマ「ゆりあ先生の赤い糸」とも、ちょっと重なるんですよ。そういう“異色の組み合わせ”が僕、好きなんだなって思いました。
お嬢様のクレア、レスリング部のアンドリュー、不良のジョン、真面目な秀才ブライアン、そして喋らない不思議女子アリソン。てんでバラバラの5人は、先生から「自分とは何か」という作文を書く課題を与えられるんです。でも、そんな課題を与えられても、多分、高校生当時の僕も書けなかったんじゃないかな。その大きな「自分とは何か」というテーマが一つあるからこそ、それをベースに僕も6人目になったつもりで観ている感じもありました。
ジョンの荒れっぷりは寂しさの表れ?
最初は不良のジョンがとにかく引っ掻き回す(笑)! 乱暴にキレて怒鳴って、レスリング部のアンドリューに絡んで、次に勉強ができるブライアンに。お嬢様のクレアにも、結構セクシャルなことを言いながら絡むんです。最初は“何やねん、こいつ!”って思ったけれど、きっと寂しいんだろうなとも、ずっと感じていました。人との関わり方が苦手で、自分から何かをフッかけないと自分を見てもらえないと思っていて、誰かにかまって欲しい気持ちが、ああいう形で出たりするんだなって。
僕も学生時代に誰かと関わる時、人と違うところーー何か特有のものがないと自分でいる意味がないんじゃないか、誰かが僕と付き合う意味がないんじゃないか、みたいなことを考えた時期がありました。とにかく何か自分特有なものが欲しいと思ったけれど、特になくて……。すごく得意なこともなかったし、知識が特別に豊富なわけでもなかったし。でも、ずっと仲良くしてくれる友達がいて、一緒にいることに特に理由もいらないよな、別に特別なものがなくてもいいんだな、って思えるようになりました。
ジョンは家庭環境が過酷で荒れていて、でも不良仲間もいなさそうだし、一番友達がいないんじゃないかな、と思いました。そんな彼が、天井から落ちてきたシーンは、ちょっと笑っちゃいました(笑)。そうして段々と、5人それぞれの心に傷があることが分かって来るんです。最初は本当にバラバラだけど、後半で5人が輪になって、補習に呼ばれた理由を語り出す。何となく本音で喋り合うようになっていくんです。
彼らの気持ちがわかるし、僕も大人になりたくない。今も(笑)
「大人になると、心が汚くなってる」的なセリフがありましたが、あの頃の自分もメッチャそれ思ってたなと。いや、今も思っているんですが(笑)。大人になるって、身体的に大きくなるだけじゃなくて、心も変わっていくじゃないですか。でも、いろんな物に向き合う時に楽しむ心とか、子供のままでいたいよなって思っていて。そんなことを同級生や同世代の友だちと、よく話していたんですよね。
大人になると色んな場面で我慢することも覚えるし。我慢ももちろん大事ですが、そういうことを通して心が汚れるみたいなところもある気がするんです。この5人は思春期だし、反抗期特有の気持ちもあって、“自分は何をしたいんだろう!?”と思いつつ、大人たちに対して“あなたたちとは違うんだよ!”と言いたい気持ちが強いというか……。そういうことも含めて、懐かしいな高校生~!!って思いながら観ていました。
全く違うタイプに見える5人だけれど、1つだけ重なるところがあったわけですよね。大人への反発や将来への不安――不良男子ジョンは、家の中がぐちゃぐちゃで傷ついているけれど、家族の難しさがあるのは彼だけじゃない。“悪ぶった”いたずらのせいで補習に呼ばれているアンドリューは、その理由が「お父さんに褒められるため」で笑うに笑えないけど、その真っ直ぐさが良かったです。
秀才のブライアンは、両親からの期待が大きすぎて、赤点を取っちゃったことを言えずにいる。それで、ロッカーの中に隠し持っているモノがおとなしい彼からは想像もできないような“スゴいモノ”で・・・。それを告白した時、思わずみんなで笑い始めちゃうんですよね。僕も笑いましたが、彼自身も段々と笑っちゃって。5人みんなが笑い始めちゃったのが、ターニングポイントだった気がします。決定的に5人の気持ちが近づいて行った瞬間ですよね。
親の過干渉、過剰な期待、高圧的な支配やネグレクトなど、みんな何かを抱えていて、それについてみんな本音が出せたのが大きかったと思います。5人が今後も友達でいられるかどうかは分からないけど、すごい救われた気がしました。でも、できたら友達でいて欲しいな。
僕、男子2人――ブライアンとアンドリューが好きでした。特にキャラクター的には、秀才のブライアンを演じてみたいです。こうしたら(役が)メッチャ広がりそうだな、とか考えちゃったりして……。そこも「ゆりあ先生」で演じている稟久(りく)と重なるんです。稟久って言葉として出るセリフと、表情と、心の中で思っていることがすべて違ったりします。ブライアンも同じように、やっぱり言わないこと、思っていること、言動が違うので。
“この年齢だから感じること”がある。若いうちに一度観てほしい作品です
僕は仲のいい家族の中で育ったけど、それでもやっぱり反抗心や、親や大人が嫌になってしまう時期もありました。親と喧嘩したこともあるし、怒られたことも当然あって。そういうモヤモヤって、意外に誰かに喋れないんですよね。友達にも、仲がいいからこそ喋りづらかったりして。もちろん親には喋れない、学校の先生に話すのも違う、みたいな。だから自分で抱えてしまうのだけれど、この5人が偶然集められた関係性だからこそ、本音が言えたのかもしれないですね。
高校時代、受験対策用の放課後のクラスに行っていたのですが、クラスや部活とはまた違うメンツが集まっていて、なんか不思議な結束力があったんです。そこで話すことや過ごした時間が、普段過ごしてる生活からは少し離れていて、どこか特別だったなと思い出しました。あれもすごい青春だったな、って。
きっとこの5人も、すごく青春を感じていたんじゃないかな。23歳くらいになって振り返った時、この日の出来事は特別だろうと思うし、忘れられない1日になっているはずですよね。作文はさておき、輪になって話していたことこそ、まさに「自分とは何か」に一人一人が向き合った時間になっていて。すごく大切な時間だったと感じました。
だからこそ若い時に、是非見て欲しい作品です。今まさに学校生活を送ってる人たちに、すぐ1度は観て欲しい。当たり前に過ごしてる時間が、後から振り返るとそのひとつひとつが大切な青春で、それが本作にはたくさん詰まっているんです。キラキラした恋愛映画とは、また違う彩りが生まれる作品だと思っています。
ランチシーンがまたユニークで面白いんです。中でもお嬢様のクレアが、袋から寿司下駄を取り出して、そこに寿司を並べて食べているのには驚きました(笑)。周りのみんなの、「え、寿司!?」みたいな反応も面白かったですね。その反応からすると、80年代当時のアメリカって、まだ生魚って受け入れ難かったのかな。それとも当時、お寿司ってお金持ちの食べ物で珍しかったのかな。
レスリング部のアンドリューは、さすが運動部って感じで、袋から何個も何個もバーガーみたいなのを取り出して、“それ全部、食べるの?”と見ていたら、最後にバナナまで出て来て可笑しかったです(笑)。秀才のブライアンが海外でよくみかけるクシャクシャできる茶色い紙袋から食べ物を取り出すのを見たときは、何だかすごく懐かしくなりました。僕もイギリスに留学していた時に、ホームステイ先のお母さんから、ハイって渡された袋があれだったな、と。
ほとんど喋らないアリソンは、袋からサンドイッチを取り出し、なぜかハムを捨てて、コーンフレークをパンに挟んで、そこに砂糖をたっぷりかけてバリバリ食べていてビックリしました。でも不良のジョンだけは何も持ってきていなくて、人のものを取ったりして、喧嘩をふっかけて……。ランチにも5人それぞれの個性が出ていて、メッチャ面白かったです。
『ブレックファスト・クラブ』(1985/アメリカ)
1984年、イリノイ州シャーマー・ハイスクールの5人の生徒が、高圧的な先生に呼び出されて登校してくる。先生は5人に「自分とは何か」をテーマに作文を書くという課題を出す。それまで接点のなかった5人は、ぶつかり合いながらも次第に家族や学校への鬱屈した気持ちや本音を語り、心を通い合わせていくが――。監督は、監督作『すてきな片想い』(84)や、製作・脚本を務めた『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(86)などで“青春映画の名匠”と謳われたジョン・ヒューズ。両作のヒロインを務めたモリー・リングウォルドを、本作でもお嬢様のクレアとして起用。スポーツ男子を演じるのは、青春スターとなるエミリオ・エステベス。
ドラマ「ゆりあ先生の赤い糸」を絶賛、撮影中です。僕が演じている稟久(りく)という役は、複雑で難しい役なので、いろいろと苦労しつつ役をどう広げていくか楽しんでいます。これからさらに色んな人物が登場してくるので、楽しみにしていてください!
Text:Chizuko Orita
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