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骨染 第10回
『アマゾネス・キス』
©Natsuko Ishitsuyo
意志強ナツ子 リイド社/全3巻 1巻¥791・2巻¥968・3巻¥999
カリスマ経営者と駆け出し占い師が導き出した、成功をつかむための「すごいやり方」。漫画家にして魔術師、奇才・意志強ナツ子が放つ、いかがわしくも誇り高き「自己啓発ヒューマンドラマ」。リイド社が運営する漫画Webサイト「トーチ」にて連載され、予想のはるか斜め上をいく展開と圧倒的なメッセージ性でSNSでも話題を呼んだ。全3巻。
間違い続ける人々と
それを楽しむ無邪気な加害性
どうして僕たちは、間違った方向に進み続ける人々に面白さを感じてしまうんでしょう? 今回はそんな話をしたいと思います。取り上げる漫画は『アマゾネス・キス』。狂気的ながらも現実社会と地続きの設定を描くのが非常にうまい意志強ナツ子先生の作品です。
物語の主人公である岡本はづきは、大手菓子メーカーに勤める傍ら、副業で占い師をしています。彼女は同じ会社の天野純子という先輩に陰ながら憧れを抱いていました。ようやく尊敬する純子と関わるチャンスを得たはづき。しかし、純子は会社を辞めて新しいビジネスを始めることにしたというのです。そのビジネスこそが、会員制ジムの「アマゾネス・キス」。ジムの内部で行われているトレーニングは到底理解できないものばかりなのですが、作中の言葉を借りれば「超感覚知覚力」の開発を目的とした施設のようです。
この「アマゾネス・キス」を巡って暴力沙汰や他団体とのバトル、純子の後継者争いなど、とにかくいろんなことが巻き起こります。登場人物たちは誰もが真剣。でも読者からすると全員が間違っていて、どうかしているようにしか思えないんです(笑)。そしてなぜか、そんな間違いだらけの展開にどんどん引き込まれていってしまいます。
特にキツかったのが小森というキャラクターです。彼は暴走しがちな性格で、「アマゾネス・キス」への出禁を命じられたこともありました。「超感覚知覚力」を手に入れたと調子に乗った小森は、パーティでその力を披露しようとします。しかし結果は大失敗。もう何もかも間違いすぎているんです。しかし、怖いもの見たさで小森の次の行動を楽しみにしている自分もいる。
世の中には間違いを売りにしているコンテンツがあふれていますよね。炎上系YouTuberや他人の黒歴史を拡散するSNSアカウント、絶対に成功しないであろうビジネスに次々と手を出す実業家……。小森を見ていると、それらを安全圏から楽しんでしまっている自分の加害性を突きつけられるような感覚に陥ってすごく怖かったんです。
間違い続ける人々を“イタい”という言葉で片づけてしまうのは簡単です。しかし、彼らには彼らなりの思想があって、外部からはそれを理解できていないだけだとも思っています。だからこそ僕たちは外野から好き勝手に面白がることができる。例えば、こうして僕が漫画好きとして話している内容も、漫画に興味のない人からすれば意味不明で滑稽に映るかもしれません。そして、そんな理解し合えない状況が続けば続くほど、身内で結束を強めて外部との分断が深まっていくんですよね。そうしたところにまで考えが波及して何重にも恐怖を感じた作品でした。
TaiTan
ヒップホップグループDos Monosのラッパー。Podcast番組「奇奇怪怪」やTBSラジオ『脳盗』のパーソナリティも務めている。Podcast番組を書籍化した『奇奇怪怪』が発売中!
Title logo:Shimpei Umeda Composition:Shunsuke Kamigaito
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TaiTanの骨染漫画読破録