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第10回
アートを深掘りするためにできること
前回お話しした「DXP」展は、おかげさまで多くの方にご来場いただいています。続いて11月18日からは、僕がキュレーションするコレクション展「電気-音」展がスタートしました。気合が入った展示になっていますので、ぜひ足をお運びください! 今回は、美術館に行くのにも慣れ、よりアートを深掘りしたくなったときにできることというテーマでお話しします。
美術館で作品に出会い、もっと知りたくなったときに最初にできることはまずキャプション(作品の横にあるタイトルや素材、制作年などが記されたもの)を読むことかと思います。これらを書くのは僕たちキュレーターの仕事。作品を理解するための補助線のような感じで読んでもらえたらうれしいです。作品を見ていろんな解釈をすると思うんですけど、その答えはひとつじゃない。だから、キャプションに書いてあることだけが正解と思ってしまうのはちょっともったいないかもしれません。ひとつの出発点としてキャプションを読んでみてほしいです。
アーティストについてもっと知りたくなったら、まずおすすめなのは展覧会の図録を読むこと。キュレーターもその作家についての展覧会を企画するときに最初にするのは、過去の展覧会の図録を読むことです。展覧会の図録ってキュレーターが書くこともあれば、作家自身が編集することもあります。これこそ最強のキャプションです!
最近はオーディオガイドを提供する展示も増えています。金沢21世紀美術館でも数か月前からポッドキャスト/レーベルの「21Hz」を始めました。そのプログラムのひとつにアーティストが展示を前知識なしに見ながら感想を話し、それを視聴者に聞いてもらう新感覚オーディオガイド「Collection Walking」があります。正解がないものだからこそ、ひとりの鑑賞者の声を聞いて「こういうのもアリなんだ」と感じてもらえれば。現代美術ってぱっと見ではわかりにくいというか、視覚情報のみでは理解できないこともあるので、他の感覚を使うアプローチも必要です。
アーティストの立石従寛がノーヒントで展示を見て感想を話す「Collection Walking」。
視覚情報のみではないといえば、展示空間の演出も作品を理解するための一助になります。作品の前にベンチを置くのはよくありますが、この作品はここから見たらいいよっていう意味でキュレーターが設置することがあります。時間をかけて鑑賞すると変化する作品に置くこともありますね。もちろん、単にそろそろ疲れてくる頃かなという場所に置くこともありますけど(笑)。リラックスした体で見てほしいので、ぜひ座ってみてください。
そして最強の深掘りの方法は、アーティスト自身にコンタクトを取ること。SNSでもいいし、メールや手紙でもいいと思います。作家って神秘の存在ではなく同じ人間なので、作品をリスペクトしてくれるコンタクトに関しては返してくれることもあるはず。あなたの作品をもっと知りたいという気持ちは、誰が伝えてもいいんです。もちろん人間なので拒否されることもありますし、僕も拒否られることだらけですけどね(笑)。それも含め、いい経験になります。展覧会中であれば、アーティストを囲んでのトークイベントが企画されることも多いので、まずはそういう場に足を運ぶのもおすすめ。
現代美術のいいところは、作家がまだ生きていて直接対話できるというところ。ぜひ楽しめたらいいですね!
[左]カールステン・ニコライ《リアリスティック》 1998 金沢21世紀美術館蔵 ©carsten nicolai courtesy:Galerie EIGEN+ART Leipzig/Berlin photo:FUKUNAGA Kazuo [右]カールステン・ニコライ《ミルク(40hz)》 2000 金沢21世紀美術館蔵 ©carsten nicolai courtesy:Galerie EIGEN+ART Leipzig/Berlin
アルヴァ・ノトの活動名でも知られるカールステン・ニコライの作品。「電気-音」展で展示される。音をモチーフにしたロマンチックな作品に注目。
コレクション展 2:電気-音
美術館の所蔵作品を中心に構成された展示であるコレクション展。今回は、ジョン・ケージ、カールステン・ニコライなど所蔵作家の作品のほか、小松千倫、涌井智仁の招聘(しょうへい)作家の作品とともに「音」と「電気」、そしてその関係性に焦点を当てて、作品から発せられる電気的なつながりに耳を傾けていく。
会期:11月18日(土)〜2024年5月12日(日)10:00〜18:00(金・土曜は20:00まで)
会場:金沢21世紀美術館
髙木 遊
1994年、京都府生まれ。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修了、ラリュス賞受賞。The 5th Floorキュレーターおよび金沢21世紀美術館アシスタントキュレーター。実践を通して、共感の場としての展覧会のあり方を模索している。
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キュレーター髙木遊のアートってサイコー!!