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「岩井俊二監督とは感覚がちょっと似ている」俳優 アイナ・ジ・エンド   ロングインタビュー

「岩井俊二監督とは感覚がちょっと似ている」俳優 アイナ・ジ・エンド ロングインタビュー

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2015年、"楽器を持たないパンクバンド"BiSHのメンバーとして活動を開始。唯一無二の歌声とパフォーマンスでカリスマ的な人気を誇るも、23年6月、BiSHは解散してしまう。次は何をするのか? 多くの人が注目する中、岩井俊二監督の最新作『キリエのうた』で映画初主演を務めることが決定。さらに劇中で自ら歌う詞と曲も書き下ろしている。多彩な才能を発揮し続けるこの人にインタビュー。

アイナ・ジ・エンド 1

ドレス(ヌメロ ヴェントゥーノ)¥126,500/イザ 中に着たキャミソールワンピース(スーベニア)¥53,760/リディア ピアス(ジュスティーヌ クランケ)¥10,450/ザ・ウォール ショールーム


「新人の気持ちでイチから夢を
かなえ直していきたい」

――岩井俊二監督の最新作『キリエのうた』で映画初主演を務めました。どういった経緯で始まったんですか?

アイナ 私、岩井さんの『PiCNiC』(1996年)という作品が好きで、一番かわいい映画だと思っているんです。だから、お話をいただいたときは「あの岩井さんからお誘いが来た!」とうれしかった半面、ちょっと恐れ多いというか、少しひよる自分もいて。でも、「やっぱり飛び込みたい」と思って、お引き受けすることにしました。

――監督とはどういうやりとりがあったんですか?

アイナ 岩井さんはすべて委ねてくださって、お芝居のことについてはあんまり言われませんでした。ただ、岩井さんの言わんとしていることって何かわかるんですよ。感覚がちょっと似ているところがあるんだと思うんですけど、「たぶんこういうことをしたいんだろうな」と思うことをやってみるとハマることが多くて。なので、とてもナチュラルに進んでいった感じですね。

――主演だけではなく、本作では劇中曲を6曲制作しています。どういうふうに曲はつくっていったんですか?

アイナ 私が演じたキリエは、幼い頃に経験したある出来事がきっかけで歌うことでしか声が出せなくなったので、もしかしたらあんまり言葉を使えないのかなと思ったんです。だから、歌詞に関しては、あえてシンプルな言葉にしています。ギターで初めてつくった曲もあって、私の実力不足でコード進行がずっと2コードという簡単なものなんですけど、逆にそれがキャッチーでキリエらしくなったかなって。初めてヘタでよかったと思いました(笑)。


岩井俊二監督とは
感覚がちょっと似ている

アイナ・ジ・エンド 2

――印象に残っている場面や出来事ってありますか?

アイナ たくさんあるんですけど、やっぱり曲が全然できなかったことですね。撮影期間中にBiSHのライヴハウスツアーとホールツアーが同時にあったり、12か月連続リリースという企画をやってたり、夏にはミュージカルがあったりして、もう頭がてんやわんやで。その状況で夜中に曲をつくらなきゃいけなくて。でも、BiSHの振り付けもあるとなって、1回うわーってなったことがあったんです。そういうときでも岩井さんは待ってくれて。本当にもうギリギリで、明日撮影という状況で何とか間に合ったこともありました。それでも待ってくれていたので、本当にありがたいなって思います。

――「うわー」ってなることはよくあるんですか?

アイナ ないんですよ(笑)。だから、珍しいです。事務所の社長に電話して「私はもうムリです」って言ったこともあったんですけど、そうしたら次の日に撮影現場に喉のケアグッズを大量に買って持ってきてくれました(笑)。本当に周りの人に支えられて何とかやりきることができたなと思います。


私は何もまだ
成し遂げられてない

アイナ・ジ・エンド 3

――お芝居って面白いなって思ったりしましたか?

アイナ 面白かったし、楽しかったんですけど、それは岩井さんの現場だからかもしれないので、これをきっかけに役者とかはあんまり考えてないです。というか、自信ないです。(広瀬)すずちゃんと松村(北斗)さんに引っ張ってもらって、何とかできたという感じで、ひとりだったらわからなかった。本当に何もわからないんですよ。何がわからないかがわからないぐらいわからないという状態でしたから。

――そうだったんですか。「もうちょっとこの時間が続けばいいのに」と思うようなことはなかったんですか?

アイナ ありました。それはすごくあって、体力的にはキツかったけど、ずっと楽しくて、みんなが大人の青春をしているように見えたんですよ。出演者もスタッフもみんながこの映画に懸けている感覚があって、何だか大人の文化祭って感じでとても楽しかったし、終わってほしくないなって思いました。

――BiSH時代のライヴ活動とはまた違うものですか?

アイナ そうですね。BiSHはやっぱりもうちょっとヒリヒリしているというか。BiSHのときはライヴとかも基本的にメンバーだけで練習するんです。スタジオでバンドメンバーと練習するときに、ライヴ制作の人が入って何か言ってくれるけど、それ以外は指導してくれる人がいないので、メンバー6人でダンスも歌もそろえなきゃいけない。で、メンバー同士で注意し合ってちょっともめたりするんですよ。機嫌悪いときに注意されると「もうわかったから」みたいになるじゃないですか。ただ、それがあったから、BiSHは強かったと思うんです。ちゃんと言い合える環境にいさせてもらえたからこそ強くなれたと思っているんですけど、そういったヒリヒリは今回の現場にはなかったですね。


――お芝居をするうえで心がけたことって何かありますか?

アイナ 私の場合、呼吸がすべてに共通して大事だなと思っていて、歌も深く吸わないと高い声が出ないですし、踊りも息がちゃんと体に入ってないと足が高く上がらないんです。演技も相手と呼吸を合わせないと独りよがりになっちゃうと思ったので、どんなときも呼吸をしっかり吐いて、吸って、というのをやろうと心がけていました。

――今年6月にBiSHが解散しました。そこからどんなふうに過ごしていたんですか?

アイナ 7月はもう誇り高いニートという感じでしたね。毎日夜な夜なギターでビートルズの「ブラックバード」を練習して、ひのきのアロマを焚いて、YouTubeで焚き火動画を流して、最高みたいな(笑)。BiSHの活動をしているときはそんなことできなかったので。やろうとしたら頭が焦っちゃうんです。「やばい、振り付けしないと」「何でこんなくつろいでいるんだ」とか思っちゃって。そういう焦りがなかったから、本当に最高でした。でも、8月に入ってそんな日々も終わりました。

――次の新たな目標地点はあったりするんですか?

アイナ BiSHで東京ドームライヴとか紅白歌合戦出場できたけど、それは6人で成し遂げたことであって、ひとりになったら私は何もまだ成し遂げられてないんです。なので、あらためて新人の心でやっていこうと思って社長に話をしたら「お前はもう新人ではない」と言われたので、今また違う言葉を探しているんですけど、私としては新人のときのような気持ちでこれからイチから頑張りたいです。ツアーもまたやりたいし、ひとりで夢をかなえ直していきたいですね。


誰か受け止めてくれる人が
いないと意味がない

アイナ・ジ・エンド 4

――かなえ直すっていいですね。そのためにやっていることはありますか?

アイナ インプットをしっかりしようかなって。でも、インプットしようと思って映画を観て、「この言葉は使えるかも」ってやるのは違うと思うんですよ。さっき言ったニートの状態じゃないですけど、フラットな状況で取り入れるインプットが本物だと思うので、焦らず、いろいろな空気を吸って、BiSHのアイナ・ジ・エンドではないアイナ・ジ・エンドとしての表現を考えていきたいなと思っています。

――何げない日常からだって得るものはありますからね。

アイナ そうですよ。夜中にただただ天井をぼーっと眺めたりする時間があってもいいと思うんです。

――例えばそういうときってどんなことを考えてたりするんですか?

アイナ 人に傷つけられて悲しいというよりかは、人を傷つけたことのほうがへこむよなとか。そのくせ、悲劇のヒロインぶってた時期あるよなとか。過去の自分を振り返ることが多いですね。夜中の1時から朝の4時まで天井を見つめてたこともありました(笑)。

――わりと長めなんですね(笑)。

アイナ でも、それをやると自己嫌悪になっちゃったりするので、やりすぎはよくないなって思ってます。

――理想の自分みたいなものはあるんですか?

アイナ 理想はあんまりないんですけど、自分の大切な人をひとりでも失いたくないというだけかな。でも、気は使いたくないというか、使いすぎたら楽しくないし。とにかく周りの人を大切にしていきたいってことですかね。


アイナ・ジ・エンド 5

――アイナさんは何をしているときが楽しいんですか?

アイナ 誰かとおいしいものを食べたり、犬と寝るのも好きだし、最近でいうと曲をつくっているときも楽しいかな。苦しかったりもするし、汗もめっちゃかくんですけど、楽しいです。

――汗をめっちゃかくんですか?

アイナ かきます。そもそも曲づくりがあんまり得意じゃないと思うんですよね。ぽんぽん生まれてくる人とかいるじゃないですか。でも、私はそうじゃなくて、13パターンぐらい出したりするので、だんだんと神経がとがってきて、汗が止まらなくなるんです。

――曲づくりで楽しいと思えるときって何ですか?

アイナ 自分がつくった曲に対して、誰かがピアノのコードを足してくれたり、ここはメロディ繰り返しのほうがいいんじゃないと言ってくれたり、信頼できる人の意見を聞いてまたつくり直すときがけっこう好きかも。というのも、私はひとりでやっていた時期があって、それだと意味がないなと思ってBiSHのオーディションを受けたので、曲づくりに関しても誰か受け止めてくれる人がいないと意味がないと思っちゃうんです。だから、自分がつくる曲であっても、誰かの意見を聞いたり、サポートを受けながらつくっていくことが好きですね。

――挑戦したいことはありますか?

アイナ サウナですかね。周りの人もみんな好きって言ってるけど、まだ行ったことがないので。お仕事としては、レコードを出してみたいです。宅録でやったり、環境音を録りに行ったり、そんなふうにアナログ感満載でつくってみたい。それが直近の夢かな。

――本当にそうですね。

佐藤 だけど、さらにまた10年たったときに、手取り足取り「ここはこうだよ」「あそこはああだよ」と教えてもらうことが果たして正しい形なのかどうかはわからないですよね。結局、正しいか正しくないかなんてことはよくわからなくて、大事なのは自分がどうしたいかってことなんですよ。あとで悔やまないようにやるっていうことなんだと思います。


『キリエのうた』公開中
住所不定の路上ミュージシャン、キリエ(アイナ・ジ・エンド)は歌うことでしか声を出せない。キリエのマネージャーを買って出る謎多き女イッコ(広瀬すず)、姿を消したフィアンセを捜す夏彦(松村北斗)、傷ついた人々に寄り添う教師フミ(黒木華)。石巻、大阪、帯広、東京を舞台に紡がれる、出会いと別れを繰り返す4人の物語。

原作・脚本・監督:岩井俊二
音楽:小林武史
出演:アイナ・ジ・エンド、松村北斗、黒木 華、広瀬すずほか

製作:ロックウェルアイズ
配給:東映
©2023 Kyrie Film Band

ARTIST / AiNA THE END

大阪府出身。2015年3月、"楽器を持たないパンクバンド"BiSHのメンバーとして活動を開始。ヴォーカリストだけでなく、ほぼ全曲の振り付けも担当。
21年、全曲作詞・作曲の1stソロアルバム『THE END』をリリース。23年6月、BiSH解散。現在はソロとして活動中。
主演ドラマ『夏至物語』(1992年に放送され、今なおカルト的人気を誇る作品を岩井俊二監督がセルフリメイク)が10月8日に関西テレビにて放送、10月9日よりYouTubeチャンネル「岩井俊二映画祭」にて配信予定。10月18日にはKyrie(キリエ)名義となるアルバム『DEBUT』が発売される。

Photos:Kanta Matsubayashi Hair & Make-up:KATO[TRON] Stylist:Ai Suganuma[TRON] Composition & Text:Masayuki Sawada

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