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8作目
今泉力哉
『街の上で』
©『街の上で』フィルムパートナーズ
監督/今泉力哉 出演/若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、 萩原みのり、中田青渚、成田 凌ほか 発売・販売元:アミューズソフト Blu-ray¥6,380
下北沢に住む荒川青は、この街の古着屋で働いている。休みの日や仕事終わりには行きつけのカフェや古書店、バーへ行き、ときにはふらっとライヴハウスなんかにも。そこで出会う人たちとたわいもない会話をしたりして、青の日々は流れる。そんなある日、古着屋に来た大学生に学生映画への出演を依頼されて、演技なんかしたことないのに引き受けるのだった。会話や物語が予想外に横道にそれていく、今泉映画の真骨頂。
魅力を知っている人や場所を描きたい
連載8回目にして、手前味噌(みそ)ですが私の映画について語らせてください。
『街の上で』は、これまでこの連載で紹介してきた監督や映画から多くの影響を受けてつくられました。プロットを書いている時点では、初回にも取り上げたアキ・カウリスマキの作品が頭にあって。寡黙で朴訥(ぼくとつ)としていて、恋愛とかにも慣れていない男がどんどん周りに巻き込まれていくような。結果的にはいつもと同じく会話の多い映画になってしまったんですが…最初に考えていたのは、映画監督志望の大学生から出演依頼をされて出てみるも、うまく演技ができなくて結局本編には採用されないというあの一連の場面でした。『愛がなんだ』をつくっているあたりから主人公の成長のしなさとか、ふつうの映画では切り取られない準備や過程の時間を描きたいという思いが強くなっていて。『街の上で』では、存在しているけど誰も見ていない時間、残らない時間を映画に収めたいと思っていたんです。東京の下北沢を舞台に撮ることが決まっていたので、その当時どんどん新しい建物ができて変化していた街を撮ることと、そのテーマがリンクするようにも思いました。
ただ、下北沢で撮るというのは怖さもありました。下北沢を舞台にしている映画や漫画はこれまでもたくさんあるし、この街に思い入れのある人もいっぱいいると思うから。だから映画のために新しく撮影場所を探すんじゃなくて、もともと知ってる場所で撮ろうと決めたんです。知ってる場所だとそこの魅力も、どう描けばその魅力を引き出せるかもわかる。
それはキャストに対する考え方も同じで。この映画では、すべての役柄に対して自分の希望で俳優をキャスティングすることができたんです。企画段階で主演俳優が決まっていることもあるのでそれは割と特別なことで。撮影前にワークショップをしてそこから選んだ人も15人くらいいるんですけど、しっかり演技を見て選ぶのと、初めましての状態で撮影に臨むのとではぜんぜん違う。ワンシーンだけ登場する人とかもみんな魅力的だったりするのは、人を見てセリフを当てているからです。たとえエキストラであっても誰でもいいとは思ってないので、極力顔や芝居を確認させてもらっています。この現場は自主製作に近い環境だったからこそ自由に満足のいく形でつくれた部分も多かったですね。
昨年の連載で取り上げましたが、山下敦弘監督の影響もすごくあります。山下さんの『リアリズムの宿』や『街の上で』のような作品は、映画を志す若い人が観たときに「自分でもつくれそうだな」と感じられるような映画だと思う。映画をただ受け取るものとしてではなく、自分も創作してみようと思えるような。実際は派手な映画をつくるのと同じくらい、オフビートで面白くするのも難しいとは思います。そういう誰でもつくれそうで誰もつくっていない映画をつくり続けたいですね。
次回は『普通の人々』。
今泉力哉
1981年生まれ。2010年『たまの映画』で長編監督デビュー。2019年『愛がなんだ』が話題に。その他に『his』『あの頃。』『街の上で』『かそけきサンカヨウ』『猫は逃げた』『窓辺にて』『ちひろさん』など。10月6日に豊田徹也原作、真木よう子主演の最新作『アンダーカレント』が公開予定。
Photo:Masahiro Nishimura(for Mr.Imaizumi) Composition:Kohei Hara
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映画監督 今泉力哉のオフビート映画に惹かれて