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骨染 第7回
『カリクラ 華倫変倶楽部(カリンペンクラブ)』
©華倫変/太田出版
華倫変 太田出版/上・下巻 (各)¥1,210
28歳の若さでこの世を去り、今なお語り継がれる鬼才・華倫変の伝説的傑作短編集。1995年にちばてつや賞を受賞した「ピンクの液体」のほか、妖しくも不条理な人間模様を描いた「赤い鎖骨」「張り込み」「スウィートハネムーン」「殺しのナンバー669」「バナナとアヒル」などを収録。上巻に「究極タイガー ボンバーナイツ」、下巻に「フルカワとウサギ」が初収録されている。
ネタバラシのない
『水曜日のダウンタウン』の絶望感
この連載を知ったDos Monosのメンバーの荘子it君が、「絶対に読んだほうがいいよ」とオススメしてくれた漫画が『カリクラ』でした。
『カリクラ』は夭逝(ようせい)の鬼才漫画家・華倫変先生の傑作短編集です。全体的に過激でナンセンスな作風ですが、人間が抱えるアンビバレントな感情やその機微が絶妙に表現されています。
なかでも特に印象に残ったのが、「張り込み」という作品でした。冒頭、あるマンションの一室を男が訪ねます。部屋には女がひとり。男は張り込みをするためにやってきた警官だと名乗り、彼女は少し不審に思いながらも男を部屋に入れます。ズカズカと上がり込み、プライバシーを侵害するような発言を繰り返す男。ここまでは男がかなり怪しいんですが、話題がマンション内で起こった事件に及んだとき、状況が一変します。男が話す内容は、この女が犯人であることを示すようなものばかり。読んでいるこちらも、一体どっちが怪しいのかわからなくなってくるんです。
この作品、何かに似ていると思ったんですが、少ししてそれが『水曜日のダウンタウン』のドッキリ企画だと気づきました。『水ダウ』のドッキリって、ターゲットがありえないシチュエーションに追い込まれて、疑心暗鬼になったタイミングでネタバラシがあるじゃないですか。どんなに最悪な状況に陥っても、最後にはカメラが入ってきて終わらせてくれる。ただ、「張り込み」には一切ネタバラシがないんです。男は目的を明かさないまま部屋に居座り続け、最後は膠着(こうちゃく)状態のまま「暑いなー」という何げないセリフで漫画が終わってしまう。何ひとつ解決していないその終わり方に、もしかしたらこの不条理な時間が永遠に続くのかもしれないと絶望させられてしまうんです。そう考えると、終わらない『水ダウ』ってめちゃくちゃ怖くないですか?
「スウィートハネムーン」という短編からも同じような怖さを感じました。主人公は冴(さ)えない日常を送る男。彼はある日、怪しげな男から外国人の少女と結婚してくれないかと頼まれます。現実にはまずありえない状況で、『水ダウ』だったらドッキリなんですが、この漫画ではそのままふたりの結婚生活が始まってしまいます。
ドッキリって、TVを通して観ていると「さすがにわかるでしょ」って疑っちゃいますよね。ただ、当事者になってみると意外に見抜けないものなのかもしれないとも感じていて。特に『水ダウ』のドッキリは企画が練り込まれているので、非現実の世界を受け入れてしまうんじゃないかと。そして、その先にネタバラシがあるからこそ無邪気に笑っていられるのだということを、『カリクラ』を読んで考えたりしました。
TaiTan
ヒップホップグループDos Monosのラッパー。様々な領域を横断した作品づくりを行っており、Podcast番組「奇奇怪怪」やTBSラジオ『脳盗』のパーソナリティも務めている。
Title logo:Shimpei Umeda Composition:Shunsuke Kamigaito
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TaiTanの骨染漫画読破録