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何年も前ですが、なんの前情報もなしにDVDのレンタルショップで、『セッション』というタイトル、真っ黒い中にポンと2人がいるポスター、そして“音楽映画の名作”という言葉に惹かれて観ました。そうしたら、いきなりスキンヘッドで筋肉ムキムキの先生が出て来て(笑)……。
でも最初のカットからスゴくカッコよかった! ダララララ~っとドラムの音が聞こえてきて、カメラが動いて部屋の中が見えてくると、一人の青年がドラムを叩いていて。――という冒頭で、もう心掴まれました。
『セッション』
DVD ¥1,980(税込)
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ/販売元:ギャガ
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過酷なスパルタ指導に喰らいついて行くミュージシャン志望者
今回観なおしたら、やっぱり圧倒されるシーンが多くて、ハァハァして観ながら、“おおお~!!!”となりましたね。エンタメではあるけど、音楽を極める世界をシビアに撮った作品です。冒頭、一人でドラムを練習しているのが、主人公のニーマン。そのドラムだけでも“スゲェ~”ってなったのに、彼からしたら思ったようには叩けてなくて、自分より上手い人が何人もいて。名門の音楽大学に通っているのですが、ニーマンは自分のクラスでも主奏者にはなれず、サブというか控えの奏者なんです。
そんなニーマンが、スキンヘッドの厳しいフレッチャー先生に見出されて、上のクラスに引き抜かれるんです。その先生のクラスは学校の中でも一番上手いクラスで、みんな入りたがっているんです。でも入るには、直接フレッチャー先生の目に留まらないと入れない。その辺りの描写も、なんかすごく生っぽい感じがしました。
“ニーマン、頑張れ~!” と思いながら観ていましたが、とにかくフレッチャー先生の厳しさといったら!! 椅子を投げつけて、「なんで投げたか分かるか!?」と迫ったり。映画を観ていてわからないくらいの演奏のテンポの違いで、生徒を厳しく追い込んで、その辺りは、さすがに“ちょっとヤバいぞ……”とは思いましたが、それでもニーマンは頑張るんです。
映画の公開当時(2015年)からは、今は社会の状況がだいぶ変わっていると思いますし、世界的な流れとしても、そんな鬼教師はダメだとされているので、ちょっと語るのが難しい。でも個人的には、フレッチャー先生の厳しさは、それで演奏がよくなるのであれば、僕個人に向くのはまだいいかもと思いました。。ただ周りの人にあの厳しさが向けられていたら、それを見ているのはちょっとキツイ……。
スポーツや芸術など何かを極めるには、やっぱり根気強さが必要な側面ってあると思います。辛くても続ける強さは、やっぱり必要だし、そういう厳しい人と向き合いつつ、頑張って自分の意志で続けていくのが大事なんだと思います。ニーマンも逃げようと思えば逃げられるのに、音楽をやりたいからそこに居るわけで。厳しい指導って良し悪し両面があると思いますが、自分のやりたいことに向き合う強さは必要だよな、と思いながら観ていました。
もし自分がこんな先生に教えられるとしたら……負けず嫌いな面もある僕は、負けないようにやってやる~!!と思うんじゃないかな。結構、反発して意外に先生とやり合うかもしれないです。普段はあまり言い返すようなことはない僕ですが、言い返さないまでも、きっと一人で必死にやり続けると思います。
鬼教官の本当の意図とは・・・?
主奏者になりたいニーマンは、他の演奏者や候補者と競って、それに勝っていかなきゃならないんです。僕ら俳優もオーディションで役が決まったりしますが、受かることも大事だけど、作品を面白くすること、よくしようとすること、それもとても大切なことです。一喜一憂してもいいけど、しすぎもダメだなぁと。そういう勝負の世界は、やっぱり難しいなと思いました。
僕はこの物語を、割と肯定的に捉えていて、フレッチャー先生に対しても“あんなクソ教師が!”とは思わず、乗り越えるべき大きな壁のようなものだと感じていました。ラストシーンを踏まえると、なるほど、と思えることもあって……。なぜそんなに厳しくするんだろうって、僕はずっと思っていたのですが、先生の“次のチャーリー・パーカーを生み出すため”という言葉が後で効いてくるんです。
芸術という世界においては、本当に人それぞれのタイミングでバッと花開く瞬間とかがあると思うんです。そこへもっていくために、必要な過程や道のりかもしれないな、と。だから一度は遠ざかりながら、再び先生と対峙することで才能が開く瞬間が訪れたというのは、ニーマンにとってもよかったと思いました。そこでニーマンが乗り越えていく感じがすごくよかったです。
うわべだけの優しさ、きれいさの対極にある厳しさ
終盤で先生が、ふたたびニーマンを突き放すシーンがあるのですが、そこで前のシーンが脳裏に蘇るんです。席を立ってバックヤードでお父さんとハグしているニーマンが何かを考えている、その画が僕の中で、先生が“次のチャーリー・パーカーを生み出すため”と再会したバーで話したシーンに直結しました。それをニーマンは思い出しているんじゃないか。憧れのジャズ奏者になるには、ここで負けたらダメだ、これを乗り越えなければ、と。前のシーンがちゃんと心に残っていて主人公の心と繋がる瞬間があるって、やっぱりすごくいい作品だな、と感じました。
もちろんフレッチャー先生の体罰や怒声は肯定できないです。でも今の社会の在り方――中身より外身をきれいに見えるようにしていることに、ちょっと違和感があって。だから逆に2人の“剥き出しのぶつかり合い”も悪くないな、という感覚を覚えたのかもしれません。まぁ“根性論”ではあるのですが……。
ニーマン役のマイルズ・テラーという役者さんは、最近『トップガン マーヴェリック』で観たばかりですが、本作で僕がスゴイと思ったのは、彼の真顔。例えば自分から別れを告げた彼女に電話して、「彼氏がいる」と言われた後の真顔。あるいはバックステージに逃げてお父さんとハグしている時の真顔。観る側に、すごく自由に考えさせてくれるお芝居をされるんです。真顔ってある意味、何もしないことでもあるのですが、何かを感じていると何となく分かる。それを選択し、すごくいい匙加減でやられていて、スゴイと思いました。
丁寧に作られた“音”の表現が秀逸!
また、物語の面白さに加えて、やっぱりカッコいいと思う瞬間が、すごく多い作品でした。例えば授業の開始時、楽団みんなが楽器を椅子に置く瞬間がダンダンダンと連続して映されたり、楽器の準備をする様子が細かくパパパパパと映されていくシーン。映し方やリズム感がカッコ良くて、“やっぱり音楽映画だ!”と思いました。冒頭、背景のビル群を映したカットとBGMが合わさって流れていく感じもスゴイし。
また音自体も、とっても丁寧に作られているのを感じました。例えばニーマンの特訓シーンでは、ドラムを叩いて叩いて血が出て、パッとテーピングして、氷水に手をジャバッと突っこんで、また叩いて叩いて……という画が、すごくリズム感にあふれている。音楽だけじゃなく、足音や楽器を置くカタカタいう音に至るまで、すごく丁寧に作られていました。この映画は、環境が許す範囲で、大音量で観ることをおススメしたいです!
僕、ジャズはあまり詳しくないのですが、こんな風に大勢で演奏するジャズバンドというのが、すごく新鮮で面白かったです。ジャズって、ピアノとベースとサックスとか、2、3人のセッションやトリオ的なイメージがあったので。しかも3,4人なら息を合わせるって分かりますが、よくもこんな大人数で、しかもリズムがどんどん変わっていく曲を合わせられるな、って。初めて聴く曲もカッコ良かったし、演奏シーンがすごく面白かったです。加えて個人的には、ニーマンと彼女の出会いが羨ましかったな(笑)。映画館の売店で働く彼女を、「ずっと可愛いと思ってた。良かったらデートしない!?」と誘ったら、「帰ってください!」と言われた後、笑って「ごめんごめん、冗談よ」って。その流れがすごく良くて、本作の“癒し”として強く印象に残っています。
『セッション』(2014)
一流のドラマーを目指して、ニーマン(マイルズ・テラー)は名門シェイファー音楽院に入学する。ある日、誰もが一目置くフレッチャー教授(J・K・シモンズ)の目に留まり、彼のバンドにスカウトされる。そこで成功すれば、未来も約束されたもの。しかし天才を生み出すことに取りつかれた、常軌を逸したフレッチャー教授のしごきによって次第に追い詰められていく――。鬼教師役のJ・K・シモンズがアカデミー賞助演男優賞受賞の他、賞レースを席巻した問題作。監督は、『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルの長編第2作目。
昔からバスソルトや炭酸など入浴剤には凝っていましたが、今、お風呂に入れるオイルにこだわってみています。植物系の爽やかな“ライトリラックス”系の香りが落ち着くなぁ、と。お風呂に入りながら、ホン(脚本)を読んだりしています。結構、汗をかくので水で流すのですが、なんかオイルが身体にまとわりついているというか、それが保湿ということなのかな、と(笑)。オイルといっても、なんか不思議な感触なんですよ。サラッとしつつ、ヌメっとしていて(笑)、でも、なんかいい感じで気持ち良いお風呂タイムを過ごしてます!最近は、お芝居以外のこともたくさんしています。
Text:Chizuko Orita
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