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『RRR』の世界的なヒットにより、日本でも注目が集まっているインド映画。しかし、僕たちが知っている作品は多様なインド映画文化のごく一部分にすぎなかった!
インドらしさ重視の南インド映画
世界の流行に続く北インド映画
インドは世界1位の映画製作本数を誇る映画大国です。中小規模のものを含めると年間で2,000本近い映画が製作されており、2位の中国が1,000本にすら達していないことからも、その独走っぷりをうかがい知ることができます。これにはインドの映画産業が地域ごとに独自の発展を遂げてきたことが関係しています。インド国内では地域によって言語や文化に違いがあり、各地域がひとつの国のようなペースで映画を製作しているんです。それらがすべて合わさり、膨大な製作本数になっている。ただ映画を作る目的や流行も地域によって異なっているので、ひとくくりに「インド映画」とジャンル分けすることが非常に難しい。例えば「ボリウッド」と呼ばれる北インドの映画は欧米の影響を受け、インドらしさを抑えた作品が多い傾向にあります。一方『RRR』の「トリウッド」を含む南インド映画では、国内の神話などを取り入れたドメスティックな作品が多くなっています。面白いのは、『RRR』の世界的なヒットを受け、ボリウッドがそれを意識した作品を作り始めているということです。そんな不思議な現象が起こってしまうほど、地域ごとに映画産業が独立しているんです。
異例のロングラン!世界が熱狂した超大作
『RRR アールアールアール』
©AFLO
「インド映画」と聞くと、皆さんは歌や踊りが詰め込まれた作品を想像されるかもしれません。そうした作品の背景には、映画は“お祭り感覚”で楽しむものだとするインド特有の価値観がありました。みんなで集まって観て盛り上がるために、1本の作品にアクションやコメディ、ラブロマンス、ダンス、歌といった大量の要素を詰め込んでいたんです。ただ配信が普及したことで他の地域や海外の映画に触れる機会が増え、ストーリー重視の映画が製作されるなど、映画自体に関する考え方が大きく変わってきています。『RRR』でも劇中のダンスシーンは1度だけでしたよね。
しかし日本ではいまだに「インド映画は歌って踊るもの」という認識が残っているように感じます。だからこそ、インドらしさを押し出した南インド映画の人気が根強い。海外の日本映画好きが任侠映画や侍映画に惹かれるのと同じかもしれません。
南インド映画のおすすめとしては、『囚人ディリ』を推したいと思います。釈放を翌日に控えた男が事件に巻き込まれていくというシンプルなあらすじですが、鈍器や刃物を使った血生臭いアクションシーンは『RRR』とも共通しています。
もちろん、北インドの映画にも面白いものがたくさんあります。『ブラフマーストラ』は日本でも今年の5月に劇場公開された作品で、アメコミヒーローとインドの神話を融合させた独自の映像表現が魅力です。インドでも日本と同様にアメコミ映画が人気を博しており、それを意識した「アストラバース」という新たな世界観まで誕生しています。この作品は「アストラバース」における第1作として製作されました。
また「コップ・ユニバース」という連続シリーズも盛り上がっています。その第4弾となるのが『スーリヤヴァンシー』。監督のハリウッド愛が強く、オマージュも数多く取り入れられており、各作品の主人公が集結する展開にも胸が熱くなります。娯楽作ではあるものの、戦争や宗教などインドが抱える社会問題にも肉薄した設定なので、そこに関心がある人にもおすすめです。
海外アクション映画をリスペクトした映画は他にもあって、『シャウト・アウト』がまさにそうです。主演のタイガー・シュロフが鍛えあげられた肉体で戦車やヘリに立ち向かうシーンは、『ランボー』さながら。ちなみにタイガー・シュロフは『ムンナー・マイケル』という映画でも主演を務めていて、そこではマイケル・ジャクソンの振付師から直接学んだという圧巻のダンスシーンを披露しているんですよね。
このように、ひと口に「インド映画」といっても、民族性が色濃く反映されたものや海外の文化を取り入れたものなど、多様な魅力を持った作品が製作されています。夏には、あえて暑苦しい作品をサウナのように楽しむのもありですし、たくさんの文化が交わった作品を観て、夏フェスのような感覚で盛り上がるのもいいと思いますよ。
『囚人ディリ』
©Dream Warrior Pictures ©Vivekananda Pictures
拘留中の謎の男・ディリが、警察と犯罪組織の過激な戦いに巻き込まれていく作品。発売元:フルモテルモ 販売元:ハピネット DVD¥4,290
『ブラフマーストラ』
©Star India Private Limited.
インドの神話をモチーフに、偉大なる火の力を宿した青年が、世界を救うために奮闘する姿を描いたファンタジーアクション。配給:ツイン
『スーリヤヴァンシー』
テロ対策部隊員とテロリスト集団の戦いを壮大なスケールで描くポリスアクション・エンターテインメント。発売・販売元:ツイン DVD¥4,378
『シャウト・アウト』
©COPYRIGHTS NADIADWALA GRANDSON ENTERTAINMENT PVT. LTD. 2020
誘拐された兄を救うため、弟が敵地に乗り込んでいく。発売元:カルチュア・パブリッシャーズ 販売元:TCエンタテインメント Blu-ray¥5,170
教えてくれた人
映画・ヒンディー ミュージック評論家
バフィー吉川
インドの映画・音楽などに精通。「Buffys Movie & Money!」を運営。block FM ラジオ番組『バフィー吉川のI-POP IMPACT!』パーソナリティ。著書に『発掘!未公開映画研究所』がある。
Text:Kohei Hara Shunsuke Kamigaito
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