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骨染 第6回
『住みにごり』
©たかたけし/小学館
たかたけし 小学館/既刊3巻 (各)¥715
29歳、夏。僕は久しぶりに実家に帰省した。住んでいたのは父と母、そして35歳、無業無言の兄だった…。ビートたけし、麒麟・川島明、漫画家・真造圭伍などが絶賛し、「このマンガがすごい!2023」オトコ編では16位にランクイン。メディアにもたびたび取り上げられる話題沸騰ホームドラマ。現在、『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて連載中。
幻想が壊れた瞬間、
家族は“地獄のサブスク”と化す
友達の実家で食事を出されて、ちょっと気持ち悪いと思ってしまった経験はありませんか? 食事なんて自分の家と大差ないはずなのに、皿やコップにその家庭特有の澱(よど)みのようなものがこびりついている気がして違和感を覚えてしまう。『住みにごり』を読んでいると、そんな何とも言えない気味の悪さを思い出すんですよね。
『住みにごり』は実家を舞台にした漫画です。東京での仕事を辞めた主人公の末吉は、久しぶりに実家に帰省します。そこに住んでいるのは、15年以上働いていない無職で無口な兄・フミヤ、機嫌が悪くなると暴力的になる酒乱の父、そして車椅子生活を余儀なくされている母の3人。長女は独り立ちしていますが、時々顔を出しにやってきます。末吉は地元に戻りたいと考えているものの、言い出すタイミングをつかめずにいました。そんな中、家族の不審な行動や閉ざされた過去が少しずつ見え隠れするようになります。
僕が今回お話しするテーマは、「最寄りの他者としての家族」の怖さです。家庭環境の違いはそれぞれですが、幼い頃は家族という共同体を割と無条件に受け入れています。しかし、不意にその幻想が砕け散る瞬間が訪れます。例えば、たまたま外で家族を見たとき、まったくの他人であるかのように思えて気まずくなることってありますよね。一緒に暮らしている時間は共有しているので、お互いの人生さえも共有しているかのような錯覚に陥りがちですが、実際は一歩外に出れば何をしているのかわからない。そして、別の一面を見てしまったときに、家族の幻想はたやすく壊れてしまうのです。
家族をテーマにした作品では、反抗期における親子の衝突や仮面夫婦の冷え切った関係がよく描かれます。しかし、この漫画の家族は普通に会話もするし、なんならユーモラスですらあります。そこが妙にリアルで恐ろしいんです。特に印象に残っているのは、兄のフミヤが亡き祖父母の部屋に大量の炭酸飲料をため込んでいた場面です。家族の知らなかった一面に触れる瞬間を描いたものとして、これほどゾッとするシーンは見たことがありません。
家族の怖いところは、お互いが他者であると認識した後もその関係性が永遠に続いていくということです。言うなれば、家族は一度始まると永遠に更新されていく“地獄のサブスク”なのかもしれません。そこには、決して逃れることのできない濁った停滞感が生まれます。そして、その停滞感が「家」という建造物自体に取り憑(つ)き、蓄積されていく。僕が友達の実家で食事したときに感じた気持ち悪さも、この「家に蓄積した停滞感」に由来しているのではないかと思います。
TaiTan
ヒップホップグループDos Monosのラッパー。様々な領域を横断した作品づくりを行っており、Podcast番組「奇奇怪怪」やTBSラジオ『脳盗』のパーソナリティも務めている。
Title logo:Shimpei Umeda Composition:Shunsuke Kamigaito
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TaiTanの骨染漫画読破録