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【今泉力哉監督×松居大悟監督】白熱サマームービー対談 “夏は戦争や死と結びつく季節でもある”

【今泉力哉監督×松居大悟監督】白熱サマームービー対談 “夏は戦争や死と結びつく季節でもある”

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互いにインディーズ映画を撮っていた時代から交流があり、親しい間柄の今泉力哉監督と松居大悟監督。日本映画界を牽引するふたりが、夏映画特有の魅力や夏に映画を撮る面白さを心ゆくまで語り合う。

  

今泉力哉監督 × 松居大悟監督
白熱サマームービー対談

夏は戦争や死と結びつく季節でもある

今泉 松居さんは夏の映画が多いよね。『ちょっと思い出しただけ』も7月の話だったし。
松居 そうですね。『私たちのハァハァ』も女子高生たちの夏休みの話だし、『アズミ・ハルコは行方不明』も『君が君で君だ』も夏の撮影でした。
今泉 季節の中でもともと夏が好き?
松居 そう。夏休みとかってみんな青春時代に遊びまくった経験があったりするじゃないですか。でも僕はあんまりそれをしてこなかったんですよね…。だからその反動じゃないけど、7月とか8月にみんなで集まって、暑さに翻弄されたり、汗かいて塩分チャージのタブレットとか食べたりしながら映画を作る時間がめちゃくちゃ好きなんですよ。それでいて、役者も撮影スタッフもほとんど同じ環境で、画角の中も外も垣根なく撮影しているような。そういうのも含めて、映画を撮るのが気持ちいい時期なんですよね。
今泉 俺はね、冬かもしれないんだよね。
松居 どういうこと?(笑)
今泉 夏があんまり好きじゃなくて…。夏にわざわざ撮ろうと思わないです。
松居 たしかに、今泉の映画は冬が多いかも。
今泉 『退屈な日々にさようならを』と『街の上で』は夏に撮影してるんですけど。でも基本的に夏は活動したくない。
松居 真逆だわ。僕は冬にロケ撮影をするのがほんとにイヤで。頭が働かないんですよね。だから冬はできるだけ舞台を入れるようにしてる。
今泉 夏ってぜんぶ脱いでも汗かくじゃん。
松居 いやいや、それがいいのよ! 代謝がよくなってる感じがするから。
今泉 正反対すぎるな(笑)。
松居 あと、夏ってけっこう独特な寂しさもあって。楽しければ楽しいほど、終わっていく切なさも同時にあるというか。
今泉 日本における夏は、終戦の日などがあるから戦争と結びつく季節なんですよね。お盆とかもあって死の匂いがするし、セミも寿命が短いしね。ただ明るくて元気なだけにならない印象がある。
松居 そうそう。常に悲しみもはらんでるから、刹那的な感じがするんですよね。それでいうと相米慎二監督の『夏の庭 The Friends』はまさしくおじいちゃんが子どもに向かって戦争体験を語る場面があったりする映画で。
今泉 戦争が身近になってしまった今だからこそ観てほしいかもね。

 


『夏の庭 The Friends』

©1992 湯本香樹実/新潮社 製作 讀賣テレビ放送株式会社

 

松居 うん。相米映画は夏の印象が強くてぜんぶ好きです。特に『夏の庭 The Friends』は少年たちが「人の死」に興味を惹かれて屋敷に住む独居老人に近づいていく話で。
今泉 『スタンド・バイ・ミー』みたいな冒険の要素もありますよね。草がうっそうと生い茂った家に変なおじいちゃんが住んでるぞってところから始まって、勝手に忍び込んだりするうちにだんだん親密な関係になっていって、おじいちゃんが徐々に自分の過去を話しだしたりする。
松居 あの屋敷の庭の、あふれる緑が強烈に印象に残ってますね。

 


汗や走っている人の表情などの制御できなさ

松居 今泉は夏の映画で何を挙げたの?
今泉 『サイドカーに犬』ですね。
松居 ああ、竹内結子さんが主演のやつだ。タイトルだけ聞いたことあるけど夏なんだ。
今泉 夏の映画でしたね。
松居 ほっこり系? 切ない系?
今泉 ちょっと言うと、竹内結子さん演じるヨーコという女性が、母親が家出したある家族の元に突然やってくるところから始まって。薫という10歳の子ども視点で描かれていくんですけど。ヨーコはハードボイルドでカッコいい大人なんですよ。皿に麦チョコを盛って、「はいエサ」って子どもに差し出すみたいな(笑)。でも、愛人関係にある子どもの父・古田新太とふたりになったときだけは、一瞬だけ甘えたりとかして。その甘え方がとてつもなくかわいらしくて、でもすぐにドライに戻って魅力的なんです。
松居 なんか心をつかまれる性格なんだ。
今泉 なんかね、出ていった薫の母親に「謝りなさいよ」って言われたときに、「許すつもりがない人に謝っても仕方ない」って強気に言い返したりするシーンがあったりするんです。
松居 いいセリフ。
今泉 最初は戸惑ってた薫も、そういうヨーコのことをどんどん好きになっていっちゃうんですよね。夏に観てほしい映画です。

松居 『ヒーローショー』は観たことある?
今泉 観てないんですよ。
松居 ぜひ観て! マジで面白いから。
今泉 なんかの復讐の映画なんだっけ? 爽やかっていうよりはダークサイドな感じだって聞いたけど。
松居 そう、復讐に次ぐ復讐みたいな。ずっとジリジリした気持ち悪さがあるんですよ、背中にべっとり汗をかいちゃうような。夏の湿度の高さと、邦画特有の後味の悪さがすごくある。
今泉 松居さんの映画も汗が特徴的な気がする。
松居 汗はかなり意識してますね。汗って人にコントロールできないものなんですよね。涙は割と制御できる部分があると思うんですけど。
今泉 なるほどね。
松居 夏はけっこう役者さんに走ってもらったりもするんですけど、そのときの表情も演技の範疇の外にあることが多いんですよ。そういうコントロールできない生理現象が僕はすごく好きです。

  


ベタが多い夏をどう新しい映像表現で収めるか

今泉 山下(敦弘)さんの『リンダ リンダ リンダ』は?
松居 大好きですよ。『天然コケッコー』とか、あの時代の山下監督の映画はど真ん中で突き刺さった世代で。
今泉 最高だよね。こういう映画特集だと往年の名作か新作映画が紹介されがちだから、意外と2000年代の日本映画は抜け落ちがちじゃない。だから、ぜひ観てない人がいれば観てほしい。
松居 前にどこかで聞いたんですけど、完成版とは別のラストのアイデアがあったんだってね。
今泉 あ、俺も聞いたことある、それ。
松居 文化祭に向けて4人の女子高生たちがバンド練習にいそしむ話ですけど、結局文化祭には間に合わなくて、屋上に出てそれとなく演奏してたら下で片づけしている生徒が「なんか聞こえない?」って言って終わるっていうラストだったとか。そっちもぜんぜんいいじゃん!って思ったけど。

 


『リンダ リンダ リンダ』

 

今泉 はは(笑)。山下さんが『リアリズムの宿』までで描いていた作品の抑制された空気感だと絶対そっちのラストだよね。実際、ラストシーン、わぁって盛り上がって終わることについて、山下さんも不安だったらしいです。でも現場で、ラストシーンのリハーサルをしてたら、エキストラがすごい盛り上がり方をして、「あ、大丈夫だ、こっちが正解だ」ってなったらしい。
松居 あぁ、そういうことなんだ。
今泉 でもそういうベタな描写ができるってすごいと思う。夏ってとりわけベタが多いよね。花火とかプールとか、海とか。
松居 『ちょっと思い出しただけ』にも屋上で手持ち花火をするシーンがあるけど。
今泉 花火ってきれいに撮れないじゃないですか。それがいいんですけど。『愛がなんだ』でも線香花火したなぁ。引き絵だったけど(笑)。
松居 既視感のある映像にしかならないんだよね。だから、たくさん撮ったものの結局はほとんど使えませんでした。
今泉 夏は雨も撮りたくなっちゃうかな。
松居 人物の感情が高ぶってくると雨降らしたくなりますね。
今泉 それもベタな表現になっちゃうから難しい。
松居 夏は予期しない自然現象が多いですよね。映画だからそれも作り込むことが多いけど。
今泉 たしかにね。アスファルトの上のメラメラ(陽炎)とかも。
松居 そう。夏はそういう、考えても制御できない瞬間を切り取れるから好きなんですよね。

 


人が動いている画と止まっている画のメリハリ

松居 外国映画だと、『タレンタイム〜優しい歌』がおすすめです。
今泉 あれも夏が舞台なのか。
松居 いや、どうだろ(笑)。マレーシアの映画だから暖かさは感じるんですよね。この映画は歌もいいんだけど、バイクで移動してるときの風景がすごく好きで。相米さんの映画にも言えることだけど、夏は動きの画と止まりの画のメリハリに魅せられることが多かったりします。

 

『タレンタイム〜優しい歌』

 

今泉 外国映画だとロバート・アルトマンの『ナッシュビル』も面白い夏の群像劇です。ナッシュビルという街で選挙があって、その応援というかお祭りのような音楽のフェスがひたすら繰り広げられていく映画で。
松居 へぇ、楽しそう。
今泉 この映画の中で、イケメンの歌手が結婚している女性と不倫関係にあって、そのふたりの関係性が忘れられない。あとは『こちらあみ子』とかも夏かな。あれもすごくいい映画ですね。
松居 ホン・サンスの映画とかも夏のイメージがある。
今泉 『3人のアンヌ』とかね。
松居 だいたいTシャツを着た男女が夜通し飲みふけってるイメージ(笑)。
今泉 今度、俺も久しぶりに夏に映画を撮るんですよ。なんかアドバイスとかあります?
松居 とにかく汗と、あとは人間たちのスピードですね。今までの今泉映画にはないような、人を走らせたりする描写を期待したい! 夏ですし!
今泉 よし、わかりました。人を動かします…!

 


松居大悟監督の
SUMMER MOVIE SELECTION

『夏の庭 The Friends』

©1992 湯本香樹実/新潮社 ©1994 読売テレビ放送株式会社

死に興味を抱く少年たちと近所に住む老人の交流が描かれる。発売元:中央映画貿易 発売・販売元:オデッサ・エンタテインメント DVD¥4,180

『ヒーローショー』

©2010「ヒーローショー」製作委員会

お笑いコンビ「ジャルジャル」が主演を務める青春映画。発売元:よしもとミュージック、KADOKAWA 販売元:よしもとミュージック DVD¥4,180


『タレンタイム〜優しい歌』

©Primeworks Studios Sdn Bhd

高校の音楽コンクール「タレンタイム」を題材に、かけがえのない瞬間を描く。発売元:ムヴィオラ 販売元:オデッサ・エンタテインメント ¥4,180

 

松居大悟監督

1985年生まれ。主な監督作に『君が君で君だ』『くれなずめ』『ちょっと思い出しただけ』『手』など。『劇場版 優しいスピッツ a secret sess ion in Obihiro』が公開中。

 


今泉力哉監督の
SUMMER MOVIE SELECTION

 

『サイドカーに犬』

©2007「サイドカーに犬」フィルムパートナーズ

母親が家出をして戸惑う小学生の薫の元に、ある日ヨーコと名乗る女性がやってくる。型破りな彼女とのひと夏の交流。U-NEXTなどにて配信中。

『リンダ リンダ リンダ』

©『リンダ リンダ リンダ』パートナーズ

女子高生4人組が即席バンドで高校最後の文化祭に出演し、THE BLUE HEARTSのコピーに挑み、奮闘する。発売・販売元:バップ DVD¥5,280


『ナッシュビル』

Copyright © 1975 by Amer<br>ican Broadcasting Compani<br>es, Inc. All Rights Reserved.TM, ®& Copyright © 2012 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

選挙キャンペーンでナッシュビルに集った総勢24人の人間模様を描いた群像劇。発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント DVD¥1,572

 

今泉力哉監督

1981年生まれ。2019年『愛がなんだ』が話題に。その他の監督作に『街の上で』『窓辺にて』『ちひろさん』など。最新作『アンダーカレント』が10月6日に公開予定。

Photos:Kyouhei Yamamoto Text:Kohei Hara Shunsuke Kamigaito

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