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骨染 第5回
『15分の少女たち–アイドルのつくりかた–』
©かっぴー・戸井理恵/小学館
原作:かっぴー 漫画:戸井理恵 小学館/既刊5巻 (各)¥715
実写ドラマ化を果たした『左ききのエレン』の鬼才・かっぴーと新鋭・戸井理恵が紡ぎ出す、前代未聞の「アイドルプロデュース譚(たん)」。従来のアイドル漫画とは一線を画したリアルな切り口で、アイドルとそのプロデュースに関わる人々の葛藤や成長、アイドルビジネスの裏側を描く。『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて連載され、今年4月に完結。
外圧は成長を促すのか?
価値観を揺さぶるアイドル漫画
今回取り上げるのは『15分の少女たち–アイドルのつくりかた–』という漫画です。原作は『左ききのエレン』でも知られる、かっぴー先生。天才の輝きや凡人の苦悩を描くのが抜群にうまくて、とても好きです。
物語は、大手芸能事務所の新入社員・小林が新たなアイドルグループプロジェクトに配属されるところから始まります。プロジェクトを率いるのは、数多くのアイドルを世に送り出してきた敏腕プロデューサーの雨宮。オーディションはアイドルの精神力を試す「負荷テスト」だと語るなど、雨宮はときに非情とも思われるプロデュース論を展開します。当初は希望を持ってプロジェクトに参加した小林でしたが、やがてアイドルビジネスの過酷な現実に直面。度重なる挫折を経験します。
この作品を読んで印象に残ったのは、アイドルのひとり・アイカがモデルに抜てきされ、初めての本格的な撮影に挑んだシーンです。撮影を担当するのはアウトローな作風の天才写真家・スジン。スジンはアイカの卓越した才能を認めながらも、本性をさらけ出さない彼女にいら立ちを覚えます。スジンの厳しい言葉に一度は折れてしまうアイカ。しかし、小林の支えもあって立ち直り、驚異的な才能を開花するのでした。
僕が考えたのは、「人は外圧がないと内圧を生み出せないのではないか」ということです。他人から強烈なプレッシャーを与えられるのは、人間を破壊しかねないことです。しかし同時に、その外圧によって初めて発揮されるポテンシャルもあると感じたんです。作中では、初めは素人同然だった主人公の小林も、雨宮や取引先からの外圧によって徐々に成長を遂げていきます。
外圧を受けると、それに反発して筋肉が鍛えられるような気がするんですよね。だからこそ、世の中の労働環境がクリーンになるにつれ、こうした成長の機会が奪われてしまっているのではないかとすら考えてしまって……。パワハラを悪だと思う僕の根底にも、一見古そうなマッチョな価値観が残っていることを突きつけられたんです。この漫画を読んでいるとそんなシーンがたくさんあって、自分の価値観を何度も揺さぶられて苦悶(くもん)しました。
一方で、新しい時代の才能を見ていると、外圧の影響を受けずに力を発揮しているように見える人が多い気がします。大谷翔平選手なんかがまさにそうですよね。ずば抜けた才能の裏には並外れた努力があるはずですが、軽やかにこなしているように見えてしまう。自分の意思で成長している感じがするんです。WBCには興奮しましたが、同時に外圧がないと成長できないと思っている自分の凡庸さを痛感して、正直かなり落ち込みました(笑)。
TaiTan
Dos Monosのラッパー。様々な領域を横断した作品づくりを行っており、Spotify独占配信中のPodcast「奇奇怪怪明解事典」やTBSラジオ『脳盗』のパーソナリティも務めている。
Title logo:Shimpei Umeda Composition:Shunsuke Kamigaito
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TaiTanの骨染漫画読破録