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第5回
「買う」行為でアーティストの
世界をお裾分けしてもらう
アートに触れる中で僕がいちばん大切にしているのは、作品を見て体験することです。今回は、作品に触れてみて、もっとこの世界を自分の中に取り入れたいと思ったときは、買って手に入れるという選択肢もあるというお話です。今僕の家の中にある作品は“この場所に作品があったら気持ちいいな”と感覚的に置いたもの(下写真)。その作品を見るたびに、丁寧で優しい気持ちになります。作品をよく見て作家と対話して、密接な関係の中で作品をお迎えしているので、例えばデートして手をつないでチューするみたいな感覚に近いかも(笑)。ようやく! みたいな気持ち。
MY COLLECTION
土を水で練って焼いたもの|Clay mixed with water and burnt #7, 2022
保良雄(やすらたけし)さんの野焼きの作品は、玄関に飾っています。見るたびに優しい気持ちになれますね。
Sacrificial Corrosionのためのドローイング, 2020, Courtesy of LEESAYA
髙橋銑(せん)さんが初めて「香り」を取り入れた作品は寝室の床の間に飾っています。作家にとって重要な転換点の作品は、思わず買いたくなります。
今まで買ったものは両手で数えられるくらい。買う以外にも、作家から譲り受けたものや交換したものもあります。どれも思い出深く、自分の中の文脈に沿ったものです。作品を買うということについて考えるようになったのは、歯科医の先輩が頻繁にアート作品を買う人だったことがきっかけ。アートを買うってどういうことなんだろう、と考えるようになりました。その先輩は、応援したいって思った人にお金を使う姿勢を持っていてすごく刺激を受けました。作品を見に行って作家を知って、いいと思った作品を買うっていう彼の一連の行為がいいなって横で見ていて思ったんですよね。
彼が作品を購入するもうひとつの基準は、自分の医院に飾れるかどうかということ。僕が作品を購入するときは、この作家の重要なところを共有しているかどうかを考えているかもしれません。作家の大事な瞬間をお裾分けしてもらっているような感覚ですかね。作品が売れることは作家の立場からしたら、自分の子どもを送り出すような感覚だって聞いたことがあります。
作品を購入する決め手は、シンプルにお迎えしたいかどうか。作品は展示されて、人の目に映ってなんぼの側面もある。展示される作品は愛されているなと思います。正しい作品購入があるのかわからないですけど、リスペクトさえ持っていればいいんじゃないでしょうか。リスペクトがあれば、作品を買うっていいことです。それがきっかけでどこかに展示されて、作家の世界が広がっていくことでもあります。
小さいペインティングも大きいインスタレーションも買えるし、それだけじゃなく形はないけれど価値を感じるものにお金を払うこともできます。例えば最近多いのは、展覧会やアートプロジェクトへのクラウドファンディング。あれもコンテクストを買うって意味で、作品を買うことであり、同時に育むことでもありますよね。
今、友人で映画監督の太田光海(あきみ)がパートナーでアーティストのコムアイさんと「胎児の視点から世界はどう見えるか」をテーマにした出産ドキュメンタリーを撮っています。クラウドファンディングで資金を集めていて、僕も撮影に参加したんですが、めちゃくちゃ面白いプロジェクト! クリエイター同士のカップルで国内外のいろんなコミュニティに入っていき、人間の営みを問い直すアートドキュメンタリー映画です。僕もクラファンしたんですが、それも彼らの世界のお裾分けをしてもらっているっていう感覚が強いですね。2024年の公開をめざしているんですが、完成がとても楽しみです!
コムアイさん(左)、太田さん(中)、筆者(右)で撮影中の様子。クラウドファンディングは、5月9日23:59まで受け付け。詳細は下記サイトを参照。
髙木 遊
1994年、京都府生まれ。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修了、ラリュス賞受賞。The 5th Floorキュレーターおよび金沢21世紀美術館アシスタントキュレーター。実践を通して、共感の場としての展覧会のあり方を模索している。
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キュレーター髙木遊のアートってサイコー!!