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骨染 第4回
『ファッション!!』
はるな檸檬
文藝春秋/既刊3巻 (各)¥990
©はるな檸檬/文藝春秋
宝塚オタクの日常を描いた『ZUCCA×ZUCA(ヅッカヅカ)』(講談社)がデビュー作となったはるな檸檬の最新作。魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめくファッション業界を舞台に、そのリアルな裏側と「ファッション(見せかけ)の天才」を描くヒューマンホラー。『文春オンライン』と『週刊文春WOMAN』にて同時連載されており、現在単行本が3巻まで発売中。
人は不条理を待ち望んでいる
「寄生されたい願望」の怖さ
今回は『ファッション!!』という漫画の怖さについて話していきたいと思います。この作品はタイトルのとおり、華々しいアパレル業界の裏側を描いた漫画です。ファッション好きなメンズノンノ読者の皆さんには刺さるストーリーなのではないでしょうか。
物語の主人公・新道は、ファッションのすばらしさに魅了された「服オタク」の男です。これまでファッションに関わるさまざまな仕事に携わってきましたが、現在はバイヤーとして後輩のセレクトショップを手伝う一方、家族を養うためにテレビ番組の電飾スタッフとして働いています。
そんな中、新道は友人の紹介で服づくりと真摯(しんし)に向き合う留学生・ジャンに出会います。それを機に、まるで寄生するかのように新道を頼り始めるジャン。新道は使命感に駆られ、自分が業界で培ってきたアイデアや人脈、さらにはすべての時間をジャンに捧(ささ)げます。しかし、ジャンには得体の知れない裏の顔があったのでした……。
この作品の主軸は、ファッション業界を舞台に「ファッション(見せかけ)の天才」を描くことにあると考えています。ジャンが時折見せる怪しい言動には、確かにかなりゾッとさせられます。しかし、この連載では少し違った角度から作品が持つ怖さに触れたいと思います。テーマは「寄生されたい願望」の怖さ。つまり、「寄生される側」の新道の狂気についてですね。
新道は過酷なファッションの世界で生きていきたいという思いを抱えながらも、現実との間で折り合いをつけて過ごしていました。しかし、心の中では業界の濁流にのみ込まれるような刺激的な瞬間を待ち望んでいたのです。その内なる願望が、ジャンに頼られたことをきっかけに一気に開花します。
こういう感覚は、意外と身のまわりにもあふれているのではないかと思います。わかりやすいのは共依存のカップルや親子です。周囲からすれば離れたほうがいいのは一目瞭然なのに、文句を言いながらも関係を持ち続けている人っていますよね。また、もう少し身近な例として、仕事上のトラブルに振り回されるのが楽しくなる感覚を、誰もが少しは持っているように思います。人は自分ではどうすることもできない不条理に巻き込まれることを待ち望んでいるのではないか。「寄生する側」だけではなく、「寄生される側」にもそうした欲望があるのではないかと考えさせられ、思わず怖くなりました。
作品は連載中ですが、すでに新道はその快楽に取り憑(つ)かれ、家族のことも見えなくなってきています。ジャンがさらなるトラブルを持ち込むのか、新道の狂気がそれを乗り越えるのか。予想できない今後の展開が楽しみです。
TaiTan
Dos Monosのラッパー。様々な領域を横断した作品づくりを行っており、Spotify独占配信中のPodcast「奇奇怪怪明解事典」やTBSラジオ『脳盗』のパーソナリティも務めている。
Title logo:Shimpei Umeda Composition:Shunsuke Kamigaito
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TaiTanの骨染漫画読破録