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TaiTanの骨染漫画読破録　第３回『サンクチュアリ』史村翔原作池上遼一作画

2023.03.27

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骨染ほねじみ　第３回
『サンクチュアリ』

原作：史村翔　作画：池上遼一
小学館／全12巻（各）￥693（Kindle版）
©史村翔・池上遼一／小学館

『北斗の拳』（集英社、別名義の武論尊にて発表）の史村翔が原作、『トリリオンゲーム』（小学館）の池上遼一が作画を担当し、1990〜95年にわたって『ビッグコミックスペリオール』（小学館）で連載。カンボジアの戦禍から生還した北条彰と浅見千秋が、理想の“聖域（サンクチュアリ）”を手に入れるため、政界と裏社会から日本を変革する様子を描いている。

２人の男のカリスマ性に感染する、
本当は怖いBLの話

これまでは多かれ少なかれホラー要素を含んだ漫画を紹介してきたこの連載ですが、今回は「ジャンルを問わず作品が持つ怖さを読み解く」という本来のコンセプトに立ち返ろうと思います。取り上げる漫画は『サンクチュアリ』。読んだことのある方は「どこが怖いの？」と疑問に思うかもしれません。しかし、そこも含めて「骨染」で語るべき作品だと感じました。

今回のテーマは「本当は怖いBLの話」です。『サンクチュアリ』は、北条彰と浅見千秋という２人のカリスマ的存在を軸にして物語が進んでいきます。北条は、六本木を縄張りとする暴力団・北彰会を率いる会長。目的のためには手段を選ばない性格ですが、部下からの信頼は厚く、大胆不敵な行動で極道の世界を渡り歩いています。一方の浅見は、東大法学部を卒業後、代議士の秘書を務めるエリートで、明晰（めいせき）な頭脳を武器に、自身も政界に進出するタイミングを虎視眈々（たんたん）と狙っています。

一見するとまったく立場の異なる北条と浅見。しかし、２人は決して世間に知られてはならない深い絆で結ばれていました。彼らは、ともに少年時代を戦乱のカンボジアで過ごし、極限状態を生き抜いた戦争孤児だったのです。日本に帰国した北条と浅見は、腐敗して活力を失った世の中を変革するため、それぞれ表社会と裏社会の混沌（こんとん）に身を投じることを決めたのでした。

２人には異性のパートナーも登場するので、正確にはBL作品だと言えないかもしれません。しかし、作中では友情や恋愛をはるかに超越したつながりを匂わせるシーンが何度も描かれます。そして、彼らが困難を乗り越えて成り上がっていく様子を見ているうちに、読んでいるこちらも２人の男の“聖域”にどっぷりとハマってしまうのです。

北条と浅見のカリスマ性はすさまじく、敵対する組織の人間や日本社会を牛耳る大物、さらには海外の要人までも魅了していきます。そんな登場人物たちの心情が感染するかのように、僕の中でも２人の成功を願う気持ちがしだいに強くなっていきました。同時に、彼らの望みが達成されるなら、世の中がどんなにめちゃくちゃになってもいいとまで考えるようになったんです。

悪徳ビジネスやカルトって、はた目から見ているとハマる理由がわからないじゃないですか。僕自身、何かを妄信するような経験がなくて。そんな僕にも、２人のカリスマの物語に熱狂する気持ちが眠っていたんだと気づかされた点で、非常に怖い読書体験でした。

最近では北条と浅見のかっこよさを広めたくて、周囲の人間に強引に読ませる布教活動をしています。「サンクチュアリ・ハラスメント」だと訴えられないことを願うばかりですね。