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3作目
マイク・ミルズ
『20センチュリー・ウーマン』
監督/マイク・ミルズ 出演/アネット・ベニング、エル・ファニング、グレタ・ガーウィグ、ルーカス・ジェイド・ズマン、ビリー・クラダップほか 発売元:バップ DVD¥4,180
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『サムサッカー』『人生はビギナーズ』『カモン カモン』などで知られるマイク・ミルズ監督による2016年製作映画。物語は1979年のカリフォルニア州サンタバーバラから始まり、15歳の少年ジェイミーと彼の子育てに悩むシングルマザー、ドロシアの葛藤が描かれる。ドロシアが子育ての助けを求める2人の女性のうち、ジュリーをエル・ファニングが、アビーをグレタ・ガーウィグが演じた。
オフビートは
セックスしないし殴らない
マイク・ミルズの映画には、人の寂しさや人生のうまくいかなさが描かれている。それがすごく好きです。本作の主要人物は、15歳の少年ジェイミーと、シングルマザーのドロシア。日に日に理解の及ばない存在になっていく息子の子育てに悩むドロシアは、彼女たちの家でルームシェアをしている写真家のアビーと、ジェイミーの幼なじみであるジュリーという2人の女性に「ジェイミーを助けてやってほしい。私ひとりの支えじゃとても足りない」と頼みます。
小さな悩みを描いた物語だけど、それが十分に映画たりえているのが魅力的で。3人の女性のコントラストやそれぞれが抱える問題、ジェイミーの恋心、この時代におけるいい男とは? という葛藤、フェミニズムについての議論など、さまざまな感情や考えを取り上げている作品です。ドロシアの子育てに関する悩みは大きな衝突によって劇的に解決するわけではなく、最後にお互いの思いをきちんと話し合う、それだけで終わるような映画。でも、小さな悩みの集積が、大きな感動を呼ぶ作品だと思っています。
さまざまな2人の関係性が描かれる中でも、主人公のジェイミーとエル・ファニングが演じるジュリーの関係性は特に惹(ひ)かれるものがあります。ジェイミーはジュリーのことが好きで、ジュリーにとってもジェイミーは一緒にいて居心地のいい存在。一緒に旅に出た場面でジュリーが「親しすぎてセックスできない」と語るように、他の人とだったらそこまで考えずに寝られるけど、仲よくなっているからこそ大切さも含めてそういう関係にはなれないと話す、あの距離感。セックスこそしないけど、2人はいろんな秘密を共有し合っていて。たぶんジュリーは、他の人には話さないようなことも彼にだったら言えるんです。寝るよりもその人の秘密を知ることのほうが親密で尊いと思うことがあるんですが、2人はまさにそういう関係で、とても惹かれます。
セックスだけでなく、「しない」ことによる豊かな心象表現がもうひとつ。旅に出た場面で、先ほどのジュリーの言葉を受けて、ジェイミーはモーテルから飛び出していき行方不明になってしまう。それを知ってモーテルに駆けつけてきたドロシアが、ジュリーに対面したときに今にもひっぱたきそうな間があって。でもドロシアはジュリーを抱きしめるし、ジェイミーはすでに戻ってきている。簡単に感情を表さないのも、悲劇的な展開にしないのも、とても豊かな心の表現で、きっとマイク・ミルズは弱い人の魅力を知っているんだと思います。
前回はオフビートの一例として「シーン数の少なさ」にも触れましたが、この映画はシーン数は多い。でも、人と人とが部屋でしゃべっている時間とかドロシアがひとりでベッドに座ってる場面とか、緩急でいうところのゆるいパートは堂々と実時間に近い切り取り方をしていて。そこもマイク・ミルズをオフビートの監督だと思う理由です。
次回は『SOMEWHERE』。
今泉力哉
1981年生まれ。2010年『たまの映画』で長編監督デビュー。2019年『愛がなんだ』が話題に。その他の作品に『あの頃。』『街の上で』『猫は逃げた』『かそけきサンカヨウ』『窓辺にて』など。Netflix映画『ちひろさん』が公開&配信中。この秋公開の最新作に『アンダーカレント』がある。
Photo:Masahiro Nishimura(for Mr.Imaizumi) Composition:Kohei Hara
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映画監督 今泉力哉のオフビート映画に惹かれて