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『東京卍リベンジャーズ』のヒットで再び脚光を浴びることになった「ヤンキー漫画」。80年代に始まり、現在まで脈々と続いている、このジャンルはなぜ人気を得てきたのか。作者へのインタビューを通じて、ヤンキー漫画の魅力を探る!
『ろくでなしBLUES』森田まさのり先生に直撃!
ヤンキー漫画の描き方
主人公・前田太尊のキャラクター造形から、好きなサブキャラクター、思い出深いシーン、さらに独特のコマ割りの秘密などを聞いてみた。
©タカハシアキラ(『べしゃる漫画家』より)
MASANORI MORITA
1966年生まれ、滋賀県出身。高校卒業と同時に漫画家をめざし上京。88年から『ろくでなしBLUES』の連載開始。その他の代表作に『ROOKIES』『べしゃり暮らし』がある。現在は『グランドジャンプ』の2023年1号からスタートした、初のサスペンスホラーとなる『ザシス』を好評連載中。
ろくでなしBLUES
森田まさのり/集英社
90年代前半の『週刊少年ジャンプ』黄金期を支えたヤンキー漫画。コミック版全42巻、文庫版全25巻で累計発行部数6,000万部超。吉祥寺の帝拳高校を舞台に、主人公の前田太尊と、その仲間たちの成長を描いていく。
ヤンキー漫画を描き始めた理由
『ろくでなしBLUES』で連載デビューする以前は、読み切りでボクシングやプロレスを題材にした作品を描いてましたが、どれも反応がよくなく…。好きは好きだけど、そこまで造詣が深くないので、連載になったときにやっていけるのか不安でした。
当時は20歳そこらで、趣味も特にない、仕事もしたことがない、とにかく人生経験が少ない。物語を構築できる材料が自分の中にありませんでした。ということで、自分が唯一経験してきた「学校生活」を舞台にしたものを描くしかなかったんです。
別にヤンキーが好きだったわけじゃないです。はっきり言って、ヤンキーなんて大嫌いでした。では、なぜヤンキーを主人公にしたのか。それは、読み切りを描いてたときはストーリーばかり大事にしすぎて、そのときの失敗から、「主人公」が漫画にとってどれだけ大事か気づいたからです。主人公はどうしようか。少年誌の学園もののセオリーを考えたときに、やんちゃでケンカっ早く、でも思いやりがあって優しくて友達思いで、ちょっと抜けたところがあって…。そう考えていった末に、自然とできあがったのが前田太尊でした。
最初は15週くらい続けばいいやという思いで始めましたから、明確な「ヤンキーもの」ではなく、太尊が学園のイザコザをおとこ気で収める、という物語でした。その後の展開はすべて後づけで、本格ヤンキー漫画になったのも成り行きです(笑)。
©タカハシアキラ(『べしゃる漫画家』より)
僕が通っていたのはヤンキー校ではなかったし、ヤンキーの友達もいませんでした。自分の性格的には恥ずかしがり屋なのに、みんなにウケてもらいたくて、まぁお調子者でしたね。クラスが一丸になって何かやるノリが大好きで、学園祭とかではやたら張り切ってました。
ビデオが家になかった時代でしたから、少ないお小遣いでレコードを買ったり、映画を観に行ったり。好きだったのは『スティング』や『ゴッドファーザー』シリーズ。他にもいろいろな映画が心に残っていますが、伏線の張り方とか回収の仕方、カメラアングルなんか、映画には演出面で多大な影響を受けています。それは今も変わりません。
好きなのはブレないキャラクター
主人公の前田太尊は、描きやすい顔を描いた感じです。僕の中でイメージする王道の主人公がアレなんです。全編を通してほぼ学ランしか出てこなかったのは、私服を考えるのがめんどくさかったから(笑)。
当時人気があった『ビー・バップ・ハイスクール』がほぼ学ランだったので、これでいいかなって。特にこだわりがあったわけではありませんが、今思えばもっと私服を出しておくんだったな。主人公の周囲にいるザコキャラをつくるときは、自分の周りにいる人を参考にするのが一番楽でしたね。例えば小兵二の原型になっているのは、元アシスタントくんです。自己評価が高くて目立ちたがりで、でも口ばっかしの憎めないやつでした。魅力的なヒロインは自分の好きなタイプ、ということになるんでしょうか。千秋に関しては、連載開始当初の21歳童貞の自分の理想像でしたが、すぐにそれは間違いだと気づきました(笑)。僕が好きなキャラは、観月先生、中島、小兵二、和美。物語と一緒にキャラクターも成長していくけど、彼らは一貫してブレない。
©森田まさのり/集英社
最終巻のクライマックス。千秋を拉致して太尊を陥れようとしたサリーに対し、「千秋は俺の女じゃ」のセリフとともに渾身(こんしん)のパンチでぶちのめす。
来週より今週の展開が一番大事
ヤンキー漫画に限らず少年漫画は、来週どうなるか作者もわかってないくらいのほうが読者を引き込めます。とにかく来週が待ち遠しくなるような引きをつくれるかどうか。なので、今週の展開が何よりも大事で、来週のことは来週考えればいいんです。セリフはそのキャラが発しそうなことを言わせてるだけです。作者が納得いかないセリフを登場人物が言うときもありました。キャラによっては、セリフをかんだり、言い間違えたり、文法的におかしいところがあったりしてもいいんです。そこを訂正してくる編集は無粋です。
例えば、輪島のセリフ。渋谷の上山との戦いの中で、敵に「餞(はなむけ)だ」と声をかけるシーンがあるんですが、輪島はそんな漢字を知っているわけがない。なので、輪島が認識しているであろう「花向けだ」を使うのがこの場合は正しかったのですが…。「餞」に訂正されたのは、今でも納得がいってません(笑)。
タイマンで渋谷の上山とやり合う輪島は、相手の心意気に感じてひと言。
ギャグがキャラの魅力を倍増
僕の作品はだいたい1ページ6コマ前後ですが、1ページに1コマでも決めゴマがあればいいと、師匠の原哲夫先生に教わりました。あとは窮屈な印象にならないように、キャラの目線が原稿の内側ではなく、なるべく外へ向くように、そして読み進める方向、右から左への流れを阻害しないキャラの配置やコマ割りを意識しています。僕も担当編集も小林まこと先生のノリが大好きだったので、連載開始当初は、担当から2ページにひとつギャグを入れるように言われていました。ギャグはシリアスなシーンをより引き立てるために、ひと役買っていると思います。怖いだけのキャラは好きになれないので、キャラの魅力の幅を広げるためにも、笑いは意味があったかなと。笑いがなかったら、『ろくでなしBLUES』は本当に退屈な作品だったと思います。
「東京四天王」のひとり、薬師寺をスクリューフックで倒した後のシーン。左上のコマで、千秋に抱きつかれる太尊は外を向いたコマ割りになっている。
ちなみに登場人物の表情や仕草は、自分の顔を鏡で見ながら描いていました。格闘シーンはボクシングや空手の本をたくさん参考にしましたね。あとは、臨場感を出すためにリアルな背景は必須だと思っていて、実際の風景をたくさん撮影してストックしておきました。『ろくでなしBLUES』を描いていたときだけでも、数万枚あるはずです。
一番気に入っているシーンは、葛西が水族館でマグロの水槽を見つめるうつろな後ろ姿の見開きです。シンプルにいい絵が描けたなと感じたし、いい表現ができたなと。モデルは池袋のサンシャイン水族館といわれてるようですが、実際は存在しない水槽を描いたことが印象に残っています。
「東京四天王」で最強と名高い葛西が、マグロの水槽前でたたずみ「止まれねーんだよ」とつぶやく、森田先生お気に入りの名シーン。
ヤンキー漫画は残り続けてほしい
『ろくでなしBLUES』で一番描きたかったことは、友情や夢の大切さといったところですかね? 本当のことを言うと、当時はただ「よりカッコよく、より面白く」だけしか考えてなかったと思いますが(笑)。現実には、もうヤンキーと呼ばれる人はほぼいないと思いますけど、その代わり半グレとか本格的に悪事を働く人が増えています。そういう人たちも漫画にしようと思えばできないこともないんでしょうけど、どこにも正義が見当たらないところに、僕なんかは少年誌的な面白さを見いだすことができません。自分はもう二度とヤンキー漫画は描きませんが、現実の悪党に対するアンチテーゼとして、正義のヤンキーが活躍する痛快な漫画はあってほしいですね。今思えば「この密度の作品を毎週よく描けてたなぁ」のひと言に尽きますね。絵もタッチを描き込んでウマいふうに見せてるけど、特に25巻以前はヘタくそもいいとこです。恥ずかしい。冨樫義博さん、井上雄彦さん、そして『BØY』の梅澤春人さんは同い年なのでライバルとして意識してましたから、今も3人がいい作品を描くと負けたくない気持ちがわいてきます。特に自分のやる気のためにも、井上さんには新しい漫画を描いてほしいな(笑)。
Composition & Text:Masataka Kin
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