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骨染 第2回
『フランケンシュタインの男』
川島のりかず
マガジンハウス/¥1,430
©川島のりかず/マガジンハウス
1986年にひばり書房から出版された同名コミックスの復刻本。不気味な少女の幻影に追いかけられるサラリーマン。心療内科を訪れた彼は、「フランケンシュタインの怪物」に執着するお嬢さんに誘われ、禁じられた遊びに興じた少年時代を思い出す。作者である川島のりかずの怪奇漫画は、21世紀に入ってから再評価され、長らく復刻が期待されていた。
幻の怪奇漫画と人気格闘技番組に
共通する「虚像の暴走」
骨まで染み込んで拭えないような怖い漫画を読む連載「骨染」。2回目で取り上げるのは『フランケンシュタインの男』という作品です。もともとは1980年代に発表され、マニアのみぞ知る幻の漫画となっていたこの作品。個人的に交流のある漫画家・川勝徳重さんの編集によって復刻されたということで読んだのですが、これがめちゃくちゃ面白かったんです。
主人公のサラリーマン・鉄雄は、尊敬していた女社長が亡くなって以来、顔の見えない不気味な少女の幻覚を見るようになります。心療内科に駆け込んだ彼は、封じ込めていた少年時代の記憶を呼び覚ますことに……。
少年時代の鉄雄は、外ではいじめられ、家にも居場所がない子どもでした。あるとき、わがままなお嬢さん・綺理子と知り合った彼は、フランケンシュタインが好きな彼女を喜ばせるため、怪物の仮面をかぶります。これを見た綺理子は、鉄雄に近所の子どもを脅かすように命令。しだいに、彼女の要求は過激になっていきます。鉄雄は怪物になりきっている間、弱い自分を忘れることができました。しかし、新しい友達ができた綺理子は鉄雄を避け始め、2人は口論となります。その果てに、鉄雄は綺理子を死なせてしまうのでした。
この作品を読んで感じたのは、「虚像の暴走」の怖さです。そして、真っ先に連想したのが、人気格闘技番組の『BREAKING DOWN』でした。
『BREAKING DOWN』に出演しているのは、素人のケンカ自慢たちです。しかし、彼らは番組に出ることで、演者としてのキャラクターを与えられます。本人がどこまで自覚しているかはわかりませんが、視聴者はこのキャラクターを楽しんでいるんです。しかし、ときにそのキャラクターが暴走し、番組も想定していなかったような過激な行動をとってしまうこともあります。
『フランケンシュタインの男』も、自分に存在価値を見いだせていなかった少年が、人生で初めて役割を与えられ、現実と虚像との境界がわからなくなって暴走する話です。そういう意味で、『BREAKING DOWN』と似たような構造にあると思ったんです。
物語の終盤、少年時代の記憶を取り戻した鉄雄は、再び怪物の虚像にのみ込まれ、破滅的な結末を迎えます。
人から与えられた役割を演じることが、悪いことだとは言い切れません。しかし、本人にとって、かなりいびつな状態であることは確かです。そして、それを見て楽しんでいる側の私たちもまた、人から与えられた役割に沿って行動している部分が少なからずあるのではないでしょうか。このラストシーンは、そんな私たちの行き着く最悪の可能性を暗示しているかのようです。
TaiTan
Dos Monosのラッパー。様々な領域を横断した作品づくりを行っており、Spotify独占配信中のPodcast「奇奇怪怪明解事典」やTBSラジオ『脳盗』のパーソナリティも務めている。
Title logo:Shimpei Umeda Composition:Shunsuke Kamigaito
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TaiTanの骨染漫画読破録