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骨染 第1回
『骨の音』
岩明 均
講談社/¥817(Kindle版)
©岩明 均/講談社
『寄生獣』『ヒストリエ』(ともに講談社)、『七夕の国』(小学館)などの作品で知られる岩明均の初期短編集。骨に執着する女と彼女に興味を持った男を描く表題作「骨の音」、ちばてつや賞入選のデビュー作「ゴミの海」、異色のサスペンスコメディ「和田山」などの6作品と描き下ろしを収録。のちに描かれる代表作の源流ともいえる表現がちりばめられている。
過去から迫り来る
落書き魔「和田山」の恐怖
はじめまして、ヒップホップグループ・Dos MonosのTaiTanです。僕は、ポップカルチャーや日常に潜む怪奇現象について語る「奇奇怪怪明解事典」というPodcastをやっていて、その中でよく漫画作品を取り上げています。そんな僕は今、「怖い漫画」に興味を持っています。
この連載のタイトル「骨染」は、文字どおり骨まで染み込んで拭えないような怖さのこと。毎回、僕が怖い漫画を読んで、あれこれと考える連載です。ひと口に「怖い」と言っても、幽霊や呪い、人間の狂気、暴力など、その対象はさまざまです。もちろん、「ホラー漫画」というひとつの確立されたジャンルはありますが、それだけにとらわれず幅広い作品に触れ、「怖さ」について考えていきたいと思います。
今回取り上げるのは、岩明均先生の短編傑作集『骨の音』。岩明先生といえば『寄生獣』が有名ですよね。僕も大好きで、イラストが描かれたスウェットを何枚も持っています(笑)。
岩明先生の初期の魅力が詰まった『骨の音』の中でも、特に印象に残っている短編が「和田山」です。作品の舞台は、とある同窓会。ひさしぶりに集まった一同は、和田山という同級生が欠席していることに気づきます。学生時代の和田山は、基本的にはおとなしいのですが、突然思い出したように怪力を発揮して同級生の顔に落書きをするという問題児。そんな和田山に恨みを持っていた連絡係が、わざと声をかけていなかったんです。同窓会は、呼ばれていない和田山の話題でもちきりに。そんな中、参加者のひとりが何者かに襲われ、顔に落書きされるという事件が発生。2次会の会場、帰りの電車内でも魔の手が忍び寄り、ひとりまたひとりと顔に落書きされていきます。
結局、犯人は和田山なのですが、最後まで彼がなぜ落書きをするのか、その理由は明かされません。そこにこの漫画の不気味さを感じます。一般的なホラーやサスペンスって動機が説明されることでカタルシスを生む作品が多いと思うのですが、この作品はその動機が欠落しているゆえに、気持ち悪さがずっと残り続けるんです。
僕がもうひとつ感じたのは、「過去に対して可能性が開かれていくこと」の怖さです。この漫画を読んでいると、「自分はすでに和田山のような人と出会ってしまっているかもしれない」と考えさせられる瞬間があって。未来に訪れるかもしれない恐怖よりも、過去にあったかもしれない恐怖は、今からどうあがいても取り返しがつかないからめちゃくちゃ怖いんですよね。振り返ってみれば皆さんもすでに、謎の行動に執着する和田山のような人と出会っているかもしれませんよ……。
TaiTan
Dos Monosのラッパー。様々な領域を横断した作品づくりを行っており、Spotify独占配信中のPodcast「奇奇怪怪明解事典」やTBSラジオ『脳盗』のパーソナリティも務めている。
Title logo:Shimpei Umeda Composition:Shunsuke Kamigaito
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TaiTanの骨染漫画読破録