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今回は、現在公開中のアニメーション映画『夏のトンネル、さよならの出口』をご紹介します。僕が初めて声で出演している、“ボーイ・ミーツ・ガール”の本当にいい映画なんです。絵も美しく、映像がとっても綺麗で、何かたまらない作品です!!
『夏のトンネル、さよならの出口』
全国ロードショー中
©2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会
オーディションで決まった、
初めての“声優”の仕事
“声優”のお仕事をしたのはこの作品が初めてです。昨年の9月に1回目のオーディションがあり、最終的に主人公の塔野カオルを演じることになりました。ヒロインの花城あんずには、飯豊まりえさん。飯豊さんのまっすぐ透き通った声が、すごくピッタリだな、と思いました。本番前にリハーサルがあり、2人で読み合わせをしたのですが、初めてその声を聞いた瞬間、「うわ、花城あんずだ! 飯豊さん、スゴイな!!」ってなりました。
本番は、飯豊さんと2人でブースに入り、2日間で収録を終えました。収録は、すごいスピードで進んでいくんです。映像の場合は、撮り直しをするときは、照明や音声や衣装やメイクなど、いろんな確認を経て、ようやく次のテイクの撮影に入りますよね。でも声の仕事って「次は、こういう風に」と言われた直後に、すぐにスタート出来てしまう。そのテンポ感に驚いたし、だから頭もすごく使いましたが、映像の仕事とのそんな違いも面白かったです。
また、収録時には台本が目の前にあるので、全てのセリフを覚えなくてもいいというのも、ちょっとした驚きでした。丸暗記する必要がないのが不安になったくらいです。また今回は、僕らの声に後から画を合わせてくれるというやり方だったので、初めての僕にはとてもありがたかったです。その方が、ナチュラルな雰囲気が出せるだろう、という狙いもあったようです。
心の傷を乗り越えるための
共同戦線
僕が声を演じた塔野カオルは、田舎の町で父親と2人で暮らす高校二年生。幼少期にあった不幸な事故を自分のせいだと思っているんです。その事故のせいで家庭環境が崩れてしまい、一緒に暮らすお父さんとの関係も悪くなっていて……。高校2年生にして結構な傷というか、重いものを抱えている主人公です。一方で転校生の花城さんもまた、塔野君とは別の壁を抱えています。そんな2人が、欲しいものが手に入るという“ウラシマトンネル”を見つけて、取り戻したいもの、手に入れたいものを求めてトンネルに入るんです。
八目迷さんの原作と比べると、映画は塔野君と花城さんに物語が凝縮されていると感じました。2人の世界、2人の物語が、出会いから最後にどうなるかというところまで、ちゃんと描かれていて、その世界への没入感もすごくあると思います。
ウラシマトンネルは、トンネル内と外で流れる時間にけっこうな違いがあることが分かります。トンネル内での数分が、外では何日も時間が過ぎていたり。僕自身も演じながら計算できませんでしたが(笑)、その“時間の流れ”が後々に大きく物語に関わってきます。
出来上がった作品を見て僕がワクワクしたのは、トンネルに入ることにした2人が「今日から共同戦線、始まるね」と、調べ物をしたり作戦を立てたりする、一連のシーン。テンポ感や音楽が良くて、すごく楽しいんです。友だちとワチャワチャしている感じ、2人の時間が流れていく感じが、いいなぁって思いました。
飯豊まりえさんがくれた
アドバイス
難しいシーンはたくさんありましたが、オーディションでも演じた、駅のホームで花城さんと出会うシーンが、とても印象に残っています。花城さんから家族の話を聞いた塔野君が「それはいいね」と返すセリフを、何十回も録り直すことになって……。あくまで相づちの「それはいいね」にしたい、というか。気持ちがこもっていないわけではないけれど、あまり気持ちがこもり過ぎると塔野カオルではなくなってしまう、と。すごく微妙なラインの「それはいいね」を狙って、何度も繰り返しました。
また、そのシーンでは塔野君と花城さんが離れているのですが、その“距離”を声で表すことが出来なくて……。監督から、もう少し遠くにいる人と喋ってくださいと言われても、僕はどうしても目の前のマイクに向かって喋ってしまう。声を大きくすればいいわけでもなくて、どうすればいいのか分からずに何度も繰り返しました。
そうしたら飯豊さんが、「マイクと画面の間に人がいると思って、その人に向かって喋ってみて」と言ってくれたんです。そのとおりにやってみたら、OKが出ました。映像の仕事をされている飯豊さんには、僕がどうしたらイメージが出来るのか、それを感覚として分かってアドバイスしてくれて、すごく助かりました。すごいプロフェッショナルだな、と思いました。
また、同じ駅で後半、2人が同じようなシチュエーションを繰り返すシーンがあるのですが、それが唯一、塔野君として楽しかったシーンかもしれません。多分、塔野君が笑っているのは、そのシーンだけじゃないかな。序盤のシーンでは花城さんに傘を渡しましたが、後半ではヒマワリを渡して……。常に淡々としている塔野君が楽しいと感じる、そのシーンにも注目して欲しいです。
何かを犠牲にしてでも
手に入れたいもの
塔野君、そして花城さんが抱えているものは、誰にでもある壁ではないけれど、観ている人たちは、それぞれどこかしら自分のこととして引っ掛かってくれるんじゃないかな。本作は、観る人それぞれの物語になると思いますし、色んな受け取り方が出来るだろうな、と。そして、背中を押してくれる感じがすごくします。
どういう形にしても、問題に向き合おうとしている人の姿って、すごく素敵だな、と僕は思います。2人には、何かを犠牲にしてでも手に入れたいものがあるんです。それに向かって頑張っている姿を見ると、みんなも前向きな気持ちになれるんじゃないかな、と思いました。
例えば旅行一つを例にとっても、多くの人は時間を節約して瞬間移動したいと思うかもしれないけれど、実は遠くの国に行くまでに掛かる時間の中にも、とても価値があるというか。目的地に着くまでに掛けた時間の中で得るもの、手に入るものがある、それを含めて旅というのではないか、と僕は感じました。ウラシマトンネルに入って自分が体感している時間と、実際に外の世界で流れている時間の量は全く違う。トンネルの中で体感時間は短いかもしれないけれど、実際にはものすごい時間がかかっているからこそ、そこで気づくもの、手に入れるものがあるんじゃいか、と。そういう時間をかけないと、手に入らないものがある、と。
塔野カオルの決断の
強さと優しさ
塔野君って物静かな人ではあるけれど、実はすごくエネルギッシュでパワフルだと思いました。内に秘めた目的がある人物って、見ていて面白いし、心に残りますよね。そんな塔野君が、ウラシマトンネルに入る前に下した決断には、ものすごい優しさを感じます。自分があの立場にあったら、同じようにしたいな、と思いました。あ、僕自身はトンネルにはまず入らないですが(笑)。
声優業が初なので、走ったり歩いたり、坂を転げ落ちたりする“息遣い”は、やっぱり難しかったです。トンネルに入って少ししたら、“この辺りから寒くなるので、「寒っ!!」という息をください”と言われたのも、難しくて(笑)。収録時には画がなかったので、完成した映像――トンネル内のカラフルな映像、歩くたびに出来る波紋など、“どうやって描いたの!?”って思うほど、観た時の感動は大きかったです。
夏や夏休み好きの僕にとって(笑)、夏真っ盛りの時期でなく、9月に入って公開が始まった、そのタイミングもすごくよかったと思います。夏の終わりだからこそ感じられるもの、受け取るものがあるような気がするんです。空の色も、青は青でも毎カット違う色を使っているようなので、美しい空や自然の画にも注目してください。どこかノスタルジックでもありながら、とても新鮮な本作。敢えてジャンル分けするなら、“青春(SF!?)ラブストーリー”かな(笑)。上映時間も1時間半弱なので、去り行く夏を惜しみつつ、まずは気軽に観て楽しんでほしいです。
塔野君も花城さんも抱えているものはシリアスですが、同時に、ちゃんと青春しているところが、すごくいいな、と思いました。2人が夏の思い出として水族館や花火大会など、高校生デートとして上位にランクインしそうな王道のデートをするのがよいです。しかも水族館でも花火でも、話していることは、結構シリアス(笑)。それでも、ちゃんと青春しているのがいいんです。
加えてちょっと注目して欲しいのが、塔野君のインコ。“カエルの歌が、聞こえてくるよ~”と歌うのですが、実際にプロの声優さんが“鳥の声”をされているので、スゴイ!!と思いました。
『夏のトンネル、さよならの出口』(2022年)
八目迷の同名小説「夏へのトンネル、さよならの出口」をアニメーション映画化。過去の事故で心に傷を負った塔野カオルは、周りに心を閉ざす転校生・花城アンズと知り合う。地元で噂の《入ると欲しいものが手に入る》という「ウラシマトンネル」を偶然見つけたカオルは、事故で失ったものを取り戻そうとトンネルに通うように。それを知ったアンズは、自分にもどうしても欲しいものがあるとトンネルに入ろうとする。外界と時間の流れが異なるトンネルに正式に入るため、2人は調査を開始、作戦を立て始めるが…。監督・脚本に「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」の田口智久。
現在は、10月期のドラマの撮影をしています。撮影が終了したばかりの「六本木クラス」とも全く違う雰囲気のラブストーリーです。久しぶりに、脚本に書かれている裏の裏まで考えないと演じられないような役でもあって。楽しみつつ、色々と悩みながらやっています!
2021年の10月にドラマの撮影に入って以来、引っきりなしに作品が続いて、怒涛の1年でした。幸せな時間でもありましたが、アッという間に過ぎてしまい、22歳の今でこんなに早く時間が過ぎてしまうのなら、“年を取るほど時間が速く過ぎる”と言われる将来は、どれだけ速くなっちゃうんだ!?と思うくらい、本当にアッと言う間の1年でした。
Text:Chizuko Orita
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