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【連載】映画監督 今泉力哉の「このシーンたぶんこういうこと」8作目:ペドロ・アルモドバル『オール・アバウト・マイ・マザー』

【連載】映画監督 今泉力哉の「このシーンたぶんこういうこと」8作目:ペドロ・アルモドバル『オール・アバウト・マイ・マザー』

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映画監督の今泉力哉が、毎回ひとつの映画のワンシーンにフォーカスし、「映画が面白くなる秘密」を解き明かす連載。

作目
ペドロ・アルモドバル
『オール・アバウト・マイ・マザー』

監督/ペドロ・アルモドバル 出演/セシリア・ロス マリサ・パレデス ペネロペ・クルス アントニア・サン・フアン 発売・販売元:キングレコード DVD¥2,090

移植コーディネーターとして働くマヌエラは、女手ひとつで育ててきた息子のエステバンと暮らしている。そのエステバンが17歳になった日、不慮の事故に遭ってしまい帰らぬ人に。マヌエラは元夫に息子の死を知らせるためバルセロナを訪れるが、そこでかつての友人や舞台女優、エイズを抱える妊婦などと出会う。舞台の代演を務めたり、赤子を育てたりする中で、徐々にマヌエラは希望を取り戻していく。


映画が面白くなる秘密
「持たざる者だけが持つ
優しさが世界を支える」

『オール・アバウト・マイ・マザー』は2000年の公開当時、大学生のときに名古屋の映画館で観ました。劇場を出た後すぐに次の回のチケットを買って2回連続で観てしまった映画で、そんなことは後にも先にも一度きりだったと思います。改めて見返して思ったのは、前回取り上げた『流れる』以上に女性しか出てこない映画なんですよね。そして一人ひとりの個性が際立っている。また、女性同士の会話のやりとりも当時の自分にはとても新鮮に映ったんだと思います。

物語は、主人公のマヌエラが、女手ひとつで育ててきた最愛の息子を事故で亡くしてしまうところから動き出します。マヌエラは悲しみを抱えながら、元夫に事実を伝えるため、かつて住んでいたバルセロナへ向かう。この導入だけを聞くと暗い話のように感じるし、実際つらい出来事も多い。でも、この映画は終始コミカルで明るい。時間を巧みに省略していくテンポのよさとか、演劇がベースにある無理のない感傷的な演技とか、あとはなんといっても画面がカラフル。これはアルモドバル作品の特徴のひとつです。同じシーンに映っているふたりの女性が、ふたりとも赤い服を着ている場面とかって、安易にはつくれないです。

今回は作中で一番グッときたシーンを取り上げます。それは、マヌエラがバルセロナで再会したかつての友人・アグラードが大活躍する場面です。アグラードはセックスワークに従事するトランスジェンダー女性という役柄で登場しますが、マヌエラを介して舞台女優の付き人として働くようになります。その女優が主演を務める舞台が急きょ、休演になってしまった日。アグラードは舞台上でひとり語りをするのですが、自分のあけすけな身の上話をして観客を爆笑の渦に巻き込むその姿がとても魅力的で。

でも、その直前の場面で、彼女は男性から楽屋でセクハラ的な言動を受けていたりする。登場シーンでも自分を買おうとしてきた男性から暴行を受けているような人物です。そういう一番弱い立場に置かれている人が、世界を支えている構造が大好きなんです。自分の映画でもよく使う手法です。え、あなたが主人公を支えるの? という人に支えさせる。そして現実世界でも、最も優しさにあふれていたりするのは実はそういった「持たざる者」なんですよね。立場や地位がある人、忙しい人って誰かが本当に困っているときに駆けつけることもできない。「持たざる者だけが持つ優しさ」があるんです。

この映画は、移植とか代演とか母親代わりとか「誰かが誰かの代わりになる」という展開のオンパレードで、彼女たちは代わる代わる誰かを助けています。そしてマヌエラはじめ結果的に「持ってしまった人たち」の中で、最後まで身軽なのがアグラードだったのかもしれません。また、タイトルの「マザー」が誰を指すのかにも注目して映画を観てほしいです。きっとそれぞれが誰かの母親なのです。

次回は、ヴィム・ヴェンダース『ニックス・ムービー 水上の稲妻』。

 


映画監督 今泉力哉

1981年、福島県生まれ。2010年『たまの映画』で商業監督デビュー。2019年『愛がなんだ』が話題に。その後も『アイネクライネナハトムジーク』『mellow』『his』『あの頃。』『街の上で』『かそけきサンカヨウ』『猫は逃げた』などを発表。11月には主演・稲垣吾郎の『窓辺にて』が公開予定。

Photo:Masahiro Nishimura(for Mr.Imaizumi) Composition:Kohei Hara

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最終更新日 :

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