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2021年に発表された「ケダモノのフレンズ」を筆頭に、ストリーミングサービスやSNSを通じて大きな話題を呼んでいる、にしな。強くも儚いヴォーカルは、移ろいの激しい時代のなかで、誰しもの心に迫る唯一無二のものだ。
今回、1年3ヶ月ぶり2作目となるオリジナル・アルバム『1999』が完成。この1年に配信された話題曲を含む内容は、エモーショナルなロック、R&B、シティポップ、アコースティックの弾き語りなど多彩なサウンドを駆使し、人間の本質を問いかけるような、深みのある仕上がりになっている。
「固定のイメージを持たれたくない」
━━ストリーミングサービスや動画サイトなど、楽曲単体配信でも人気を集めてきたにしなさん。アルバムというまとまった形態での作品の発表に関しては、どのような感覚で向きあっているのでしょうか?
「出来上がった楽曲を発表していくことを重ねて、アルバムが完成していく感じです。だから作品全体というよりも、楽曲それぞれに対する想いが強いのかもしれません」
━━にしなさんの楽曲は、アコースティックもあればR&Bの要素を感じさせるものなど、発表するごとに異なる表情を持っています。固定のイメージを持たれたくないという思いから、あえて多彩な楽曲を次々に発表されるのでしょうか?
「周りに相談してリリースすることはありますが、楽曲を発表する順番は特に考えていなくて。時期によって作りたいタイプの楽曲のブームみたいなものがあって、こういうものがあったらいいなと思ったら、それにフィットする音楽を制作することが多いかな」
━━そして完成した2ndアルバム『1999』。今回はにしなさんのどんな部分を表現できたと思いますか?
「前作では自分らしさを伝えたというか。自分が、リスナーのみなさんにどう思われたい・見せたいのかという意識が強かった気がします。振り返ると、その思いで自分を束縛していたような。でも、この1年でより自由になったのかなって。自分で自分を決めつけずに、制作することができた作品だと思います」
━━確かに。前作に比べると、より普遍的・客観的な視点が増えているような気がしました。
「自分でも、視野が広くなったなと思います!」
━━特に先行配信されているバラード「夜になって」は、人を愛する純粋さをストーリーテラーのように語りかける楽曲という印象でした。
「ある人と会話をしていた時、相手が発した性的マイノリティと呼ばれる方々に対する考えに対して違和感を覚えたことがあったんです。でも、感情が昂ってしまい、思いをうまく伝えられなかった。それをひとり冷静になった時に、改めて考えて言葉に変えたのがこの楽曲です。相手に自分の考えを直接説明する気はないですけど、そういう考えは違うのではということを伝えたくて」
━━誰かとわかりあえない心のすれ違いを楽曲にすることは、多いですか?
「相手と共有できない感情が湧きあがった瞬間に、思い浮かぶことは多いですね」
━━逆に、共感が楽曲を導きだすことは?
「もちろん、それもあります。恋愛の話を聞いて、感情に寄り添った物語を描いてみようとか。例えば『ワンルーム』という楽曲は友人の話がきっかけになって生まれたものですし」
━━ちなみにこの「ワンルーム」は、アルバムではROTH BART BARONさんがアレンジを担当。ストリングスなど多様な楽器をレイヤーして、繊細かつロマンティックな雰囲気を醸しだしていますね。
「とても素敵なアレンジに仕上げてくださいました。100くらいトラックを重ねて完成させてくださったようで、本当に丁寧に楽曲に向きあっていただき感謝しています」
「自分のなかに潜む希望をこめたアルバム・タイトル」
━━これら楽曲も収録されたアルバム『1999』。全体のテーマやコンセプトはありますか?
「テーマはなんだろうと考えてみるのですが、どの楽曲もいい意味でバラバラでして。作った時期も異なりますし、楽曲の持つ性格も。だから、にしなをさまざまな角度から楽しんでいただける内容になったのではないかと思っています」
━━タイトルを『1999』にした理由は? 収録のタイトル曲は、かつて日本で騒がれた「地球滅亡」の予言をモチーフに、人間の根源を問いかける内容になっていると感じました。
「このタイトルには2つの理由があって。ひとつは、メジャーデビューから1年がたち『にしな』として1歳になったことになる。私は1998年生まれなので、そこに同じ1を足して『1999』。もうひとつは、20世紀後半には1999年に地球が滅亡するといわれた年。当時の記憶はないですが、もし明日世界が滅びるなら、どうなるかを想像してみました。現代は戦争などいろんなことが起こり、世界が危険と隣りあわせになっている状況。でも、きっと明日地球がなくなることがわかったら、考えの合わない人といさかいを起こすことに時間を費やすのではなく、人間としてやりたいこと・意味のあることをしたいと誰もが思うはず。そういう、自分のなかに潜む希望を表しているのがこの数字なのではないかと思って。タイトルはそのように決めました」
━━また、このアルバムは1999年前後から脚光を浴び、にしなさんも影響を受けていらっしゃるという宇多田ヒカルさんや椎名林檎さんといった女性アーティストへのリスペクトも込められているような気がしましたが。
「確かに、言われてみるとそうかもしれないですね。きっと、自分と同世代のミュージシャンをやっている人は、少なからずおふたりの影響を受けているのではないでしょうか。デビューした年に生まれた世代として、おふたりのような影響力を持てる存在になりたい、という話をよくしていますし。そういう意味でも『1999』というのは無意識のなかで、記憶に残る数字・年だったのかもしれません」
━━特に「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」の放つ、スリリングな展開のサウンドは宇多田さん、ヴォーカルは椎名さんの影響を感じましたね。
「ありがとうございます!」
━━また、この楽曲は海外でも話題になっている、80年代シティ・ポップの名曲へのオマージュも感じました。
「似たタイトルの楽曲がありますね(笑)。実は、このタイトルが先に思い浮かんで作り始めた楽曲でして、直接影響を受けた訳ではないのです。もちろん、楽曲があることは知っていたので、作るにあたってそれに近づきすぎないように注意を払っていた部分はあります」
━━あの楽曲が持っている輝きを、現代にアップデートされている印象がしました。
「『フライデー』とか『チャイナタウン』って言葉は、現在でもキラキラしている雰囲気がある。それは何十年経っても変わらないのではないかと思って、そういう部分を表現したいと考えていました」
「歌うことが好きで活動を開始した」
━━また、にしなさんといえばヴォーカルが印象的。歌うにあたって心がけていることはありますか?
「歌いながら楽曲が完成していくことが多いので、自分が心地よいと思えるヴォーカル・語感を大切にしています」
━━感情豊かでありながらも、クールな部分もあわせもっているヴォーカルだと感じました。
「歌い始めた頃は、自分の声の通りが悪いと思っていて。特に声を張り上げることがうまくできなくて、フラストレーションを抱えたこともあったのですが、今ではそれが徐々に解消されているのかなって。また、自分の声を録音したものを何度も聴き直すのが好きで、前に投げかけるように歌ったり、逆に後ろに飛ばすイメージで歌ったり、いろいろ試行錯誤を繰り返しながら、楽曲に合う・心地よいと思っていただけるヴォーカルを日々模索している最中です」
━━その試行錯誤は大変な作業ですか?
「今まで大変さを感じたことはないんです。好きなんですよね、そういう作業が」
━━楽曲に導かれるがままに歌うように、歌詞も心地いいフレーズを重視する部分もあったのでしょうか?
「そうですね。以前はより“リアル”な感じというか、生々しさのある歌詞を作ることが好きでしたが、今はいろんな世界を閉じ込められたらいいなと思うようになってきたかもしれません。曲を生かすためには、どういうフレーズを入れたらいいのかを考えながら作詞をすることが多くなりました」
━━歌詞には普段使わないような日本語が散りばめられていますよね。楽曲のタイトルにもなっている「青藍(せいらん)遊泳」とか。
「日常では語彙力のない生活を過ごしているのですが(苦笑)、音の響きを大切にしているからこそ、普段使わないような言葉を知る機会が増えましたね。そのために読書をたくさんしているとかはないのですが、自然と語彙力が高くなっているような気がします」
━━この「青藍遊泳」という楽曲は、デビュー前に制作されたという「友人との別れ」を綴ったバラード。なぜ、このタイミングでアルバムに収録しようと?
「特に大きなきっかけみたいなものはなくて、流れのなかで今回収録することになりました。そもそも、卒業して友人たちと別れてそれぞれの道へ進むことへの思いを綴ったものなのですが、改めて楽曲に向きあってみると、より自分らしく前に進んでいくための決意をもう一度与えてくれましたね。2ndアルバムだからこそ、収録する意味があったのかなと思います」
━━原点回帰という感じでしょうかね。そんな楽曲を含め、今回のアルバムを完成させてみて、何か得たものはありますか? また、今後追求してみたい音楽は見えましたか?
「いつかアコースティックギターの弾き語りのみのシンプルな音のアルバムの制作をしてみたいなと思います。また、好きな楽曲のカバーをするのも面白そう」
━━ご自身で作られた楽曲を歌うことにこだわるシンガー・ソングライターではなく、ヴォーカリストでいたいという意識が大きいのでしょうか?
「歌うことが好きでこの活動をスタートしたので、そこにフォーカスした活動をしても楽しそうですね!」
「これからも音楽を愛し続けたい」
━━楽しみです。また、このアルバムを携えたライヴも期待しています。
「どうなるのか、自分でも楽しみにしています。これらの収録曲をみなさんの前で披露した時にどんな世界が生まれるのか。また、早くみなさんと会場で声を出して盛り上がれるようになったら良いですね」
ニットキャミ ¥35,200/タン [contact@tanteam.jp]
Tシャツ(クードス)¥14,300・アームカバー ¥16,500(パーバーズ)/ともに エムエイティティ [INFO@THE-MATT.COM] デニムパンツ ¥27,500/カイコー [contact@kaiko-official.com] ピアス¥38,500・左手小指につけたリング [参考商品]/ともに フォーヴィレイム [customer@fauvirame.com] 右手中指につけたリング(サラース)¥27,500/サラース カスタマーサポート [customer@sararth.com] その他/スタイリスト私物
━━メンズノンノ読者の多くは、にしなさんと同世代になります。そんなリスナーに向けて、今回のアルバム『1999』を通じて感じてほしいことは?
「音楽活動をするうえで、何かを発信したいという思いはそんなに強くはなくて、その瞬間を切り取って楽曲にしているだけなんです。だから、今回のアルバム『1999』はカジュアルな気分で楽しんでいただきたいですね。好きな楽曲を好きなシチュエーションで聴いていただけたら。そこで、お気に入りを見つけていただけたら幸いです」
━━ミュージシャンとしての、今後の目標はありますか?
「私は良くも悪くも目標がなくて。音楽をずっと愛し続けられたらいいな、という漠然とした願いはあります!」
━━ちなみに、読者世代の男性の、好きなファッションはありますか?
「基本的に、その人に似合っているものだったらなんでも大丈夫です。私も着たいものを着るスタイルですし。ただ、シャツがシワシワだとちょっと……と思うかも(笑)。あとは、靴好きなので、かわいいものを履いている人を見ると目がいくかもしれません」
━━ファッション以外で、こういう言動がうれしい、というのはありますか?
「さりげない気遣いをしていただけること。きっと私と同じ方、多いと思います。「やってやった」感を出して何か見返りを求めるのでなく、普段から優しく接することができる人が素晴らしいなと感じます」
『1999』7月27日発売
(ワーナーミュージック・ジャパン)
『Rakuten Fashion Week TOKYO 2022 A/W』シーズンテーマソングに起用された「スローモーション」をはじめ、この1年の間に発表された楽曲と書き下ろしの新曲で構成された全11曲。また、21年6月に開催された初ワンマン公演の模様を完全収録したブルーレイつきの「1999枚限定生産作品」など、限定盤も同時発売される。
PROFILE
1998年生まれ。デビュー前に自身でYouTubeに投稿した楽曲の再生回数が100万回超えを記録したことで話題になり、2021年にSpotifyの「RADAR: Early Noise 2021」に選出。同年4月にデビュー・アルバム『odds and ends』を発表。収録曲である「ケダモノのフレンズ」は「TikTok2022上半期トレンド」ミュージック部門にノミネートされた。
https://nishina247.jp/
Photos:Sakai De Jun Hair & Make-up:Chisato Kou Stylist:hao Text:Takahisa Matsunaga
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